こらぼれーしょん ――協同恋愛小説――

代官坂のぞむ

1章 スタートライン

1 申し込み

「お、昨日は小説のフォロワーさんが三人も増えた。どんな人だろう」


 俺は西原 蓮にしはら れん。またの名を水晶つばさ。西原は高校生としての仮の姿で、本業はWeb作家の水晶つばさだ。とは言っても、フォロワーが十数人程度の、吹けば飛ぶような底辺作家だけど。

 週に三回、連載している恋愛小説を更新しては、読者さんの反応に一喜一憂している。今日もいつものように、教室で昼食のサンドイッチを食べながら、小説投稿サイトのチェック中。


「なんだ。全部、宣伝目的のアカウントか。コメントも書いてないし、二千人もフォローしてるのじゃ、俺の小説なんてぜんぜん読んでないな」

 がっかりだが、他のフォロワーさんからのコメントは数件ついていた。


小鳩さんのコメント「水晶つばささん! とっても素敵です。アオとハルのこれからが楽しみ」


えるさんのコメント「いつもきゅんきゅんするお話をありがとうございます! 今日もこれで頑張れます」


暁の星さんのコメント「尊い! 尊い!」


 ちゃんと読んでコメントをくれるのは、いつものフォロワーさん達だけだ。大事にしないと。一つひとつ、丁寧に返信コメントを書いていくと、新しいコメントが増えた。


よしのんさんのコメント「初めまして。とってもキュンキュンするストーリーですね。続きが楽しみです」


 よしのんさんから、コメント?!

 よしのんさんはラブストーリーが得意の人気作家で、作品のフォロワー数も数百人以上。それが、俺なんかの作品にコメントをくれるなんて。

 すぐに返事しなきゃ。


水晶の返信コメント「コメントどうもありがとうございます。楽しんでもらえるように頑張ります!」


 よしのんさんの作品に、初めてコメントを書いたのは昨日のこと。そのお礼で読みに来てくれたのだろう。読んでくれただけでもありがたいのに、「続きが楽しみ」って気に入ってくれたってことだよな。俺の作品も結構自信持っていいのかも。


 内心でニンマリしていると、隣の席に集まって弁当を食べている女子達が、ひときわうるさくなった。このグループの連中は、いつも誰かの恋話で盛り上がっている。


「ねえ、ねえ、誕生日どうするの? 彼から何か言われた?」

「うん。デートに誘われた」

「きゃー! 今度こそ?」

「えー、まだわかんないよ」

 誕生日とか、特別なイベントでデートに誘われると、やっぱりときめくものなのかな。恋愛小説のネタになりそうな会話は、さりげなく観察しながら聞くことにしている。何事も取材は大事。


「西原がこっち見てる」

「うわ。キモい」

 やばい。観察していたのが見つかった。

「ちょっと、何ジロジロこっち見てるのよ」

「いや、別に見てたわけじゃ……」

「こっち見んなよ」

「あっち行け。キモい」

「ごめん」

 食べ終わったサンドイッチの袋を握りしめて立ち上がる。僕の小説に出てくる子は、みんなきらきら、きゅんきゅんしているのに、現実にいる女子は最悪なのばっかりだ。教室の前にあるゴミ箱まで歩いて行き、袋を投げ捨てた。


***


 放課後は、学校の図書館か街のファーストフード店に行って、執筆することにしている。今日は図書館で仕上げ中。

「よし。これで今日の分はできあがり。送信と」

 ほっと一息ついていると、すぐにコメントがついた。早い。誰だ?


よしのんさんのコメント「また素敵な、きゅんとする展開ですね。ハルのセリフがたまりません」


 この短時間に、ちゃんと読んだ上でコメントをくれるなんて。急いで返信を書かなきゃ。


水晶の返信コメント「よしのんさん。コメントどうもありがとうございます。とっても励みになります」


 よしのんさんみたいな人気作家が、俺の作品をフォローして何度もコメントをくれるなんて、嬉しくて、また顔が緩んでくる。これは結構いい線行っているのかもしれない。SNSの方でも頑張って宣伝したら、もっと人気が出るかもしれないぞ。

 スマホの画面をSNSに切り替えた。


水晶のツイート「ハルとアオの青春に、たくさんのコメントありがとうございます!」


水晶のツイート「今日も残業になりそうだけど、帰ったらまた続き書きます(上司が呼んでる」


 ネットでは、高校二年生という年齢・立場は隠して、東京で働くビジネスマンのふりをしていた。その方が作品をちゃんと読んでもらえそうだったから。若いというだけで、あれこれ説教めいたうるさいことを言ってくる奴もいるらしい。

 

えるさんのツイート「お仕事頑張って下さい! 私も今日は忙しいですが、ハルの続きを楽しみに頑張ります」

水晶つばさのツイート「えるさんも頑張って!」


暁の星さんのツイート「つばささん、無理はしないで下さいね」

水晶つばさのツイート「ありがとう」


 創作界隈でフォローしてくれる人達はみんな優しいし、大人の女性は気遣いも細やかでいい。クラスの女子とは大違いだ。

 いいねの数を確認してスマホを閉じようとした時、新着のメッセージが来た。

 SNSでダイレクトメッセージ?

 メッセージを送って来る人なんて、今までいなかったのに、誰だろう?


よしのん> こんにちは。よしのんです。いきなりメッセージを送ってしまってすみません。


 え、え、え。よしのんさんから直接メッセージ?! あり得ない。

 あわてて返信を打つ。


水晶> こんにちは。ハルとアオの青春にコメントありがとうございました。

よしのん> とっても素敵なストーリーで、1話から最新まで一気読みしてしまいました。

水晶> ありがとうございます!

よしのん> 水晶つばささんの文章やプロットがとても気に入ったので、一つ提案、というより、お願いがあるのですが、よろしいでしょうか?


 お願い? よしのんさんからお願いって、何だ?


水晶> はい。何でしょうか。

よしのん> 私と一緒に、コラボ小説を書きませんか? 長編小説を、男女それぞれの視点から交互に書いて連載していく、胸きゅん恋愛小説です。


え――!!

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