第3話 オレが外に出る方法

 オレは今日、脱走を図ろうとしていた。


 誰にも相談していない。隣で寝ていたアムにも。

 ショッピングモールの方に逃げても捕まるだけだから、思い切って外に出てみようと思っていた。


 この店には、ショッピングモール側の入り口と、飼い犬を連れて来た人が出入りする、直接外に繋がっている入り口がある。

 オレはその、外に繋がっている入り口がいいタイミングで開くのを待った。


 ただ、問題はオレが入っているこのオリだ。

 屋根がないから、ご飯なんかは上から入れられてしまう。オレが出入りできる扉は、開かれることがない。


 ──上から飛び出るか?


 いや、そんな脚力、オレにはない。

 わざとペットシート以外の場所におしっこをしても、上から掃除されるだけだ。オレが外に出る方法は……。


 そうだ! オレのグルーミングがあるじゃないか!

 でも爪は最近切られたばかりだし……。


 そうだ! 耳掃除をしてもらうように仕向ければいいんだ! オレってなんて頭がいいんだろう!

 でも、えっちゃんのことは大好きだから、えっちゃんが怒られるようなことはしたくない。


 だからオレは、えっちゃんがお昼休憩に行って、交代の店長が来ている時を見計らって、脱走することにした。

 店長が逃したとなれば、誰も怒られないだろう。


 ──さぁ、あとはドアが開くタイミングと、オレの演技力にかかっている……!


 10時に開店し、家族連れがたくさん来た。

 朝ご飯を食べ終わり、食後の用を足し、疲れてショーケースの中で眠っている仔犬達を、バンバン! とガラスを叩いて起こそうとする子供。

「おにいちゃん、ワンちゃんがびっくりしちゃうから、叩かないでねー」

 えっちゃんは子供にも優しい。そんなガキ、叱ってやればいいのに。アムがいつも不満を漏らしてるぞ。


 だいたいこういう子供の親は叱らないんだよな。人間ってよくわかんねぇ。

 オレ達はイヌっていうだけで仲間意識が芽生えるもんだけど、人間って人間同士でよく喧嘩するし、オレにはよくわかんねぇや。縄張り争いみたいなもんか?


 そろそろえっちゃんがお昼休憩に行く時間だ。お客さんの出入りが増え、入り口が開く回数が増えてきた。


「えっちゃん、おはよう」

 店長が外から直接入ってきた。


 ──よし、いよいよだ……! えっちゃん、みんな、もうすぐお別れだぜ……!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る