第2話 繰り返される儀式

「で、今日は何か用事があったんじゃないの?」

あれから世間話をいくらか交わした後急に白刀山が言い出した。

「えっ・・・、俺はお前と話したかったからここに来ただけだよ」

「だって刻春ときしゅんがここに来ることなんて滅多に無いし、この道場に入って来た時妙に深刻そうな顔してたから」

「あ・・・」

話さなきゃいけないとは解っていてもなかなか本題を切り出すことができずにいつもと同じノリで話していたけど、結局はただの時間稼ぎ、嫌なことを先送りにしただけだ。見方によっては白刀山が助け舟を出してくれたともとれるけど、その船はお前を死に誘う沈没船なんだ・・・。

それでも今日この話をしなきゃいけない。覚悟を、決める。

「・・・今日俺の親父達が集まって話し合ったんだけどさ、・・・今年の生贄は・・・お前になったんだよ」

「・・・そうなんだ」

「もっと驚いたりしないのか?大体今までの生贄はみんな女だったのにいきなり相撲取りのお前が選ばれるなんておかしいじゃないか」

「でも仕方ないじゃないか。今まで10人以上の村娘が身投げしたわけだし僕だけうまく免れる、なんてわけにいかないじゃないか」

「お前なぁ!!なんで死にたくないって言わないんだよ!」

俺は大声で怒鳴っていた。同時に涙も流れてきた。俺と白刀山の二人しかいない道場の中で情けないことに俺の鼻水をすする音だけが響いている。

「本当は俺だってお前に死んでほしくないんだよ・・・・・。こんなこと言わなきゃいけない俺の身にもなれよ・・・!お前がみっともなく命乞いでもしてくれれば俺だけこんなに馬鹿みたいにならなくて済んだのに・・・・・」

「・・・ありがとう、僕のために泣いてくれて」

「もう、床に落ちてる水滴はお前の汗だから、俺の涙なんかじゃねぇからな」

「・・・そうだね、刻春が泣いてるところなんて僕はみたことないよ」

「・・・・・まだ生贄の儀式まで1か月ある。それまでになんとか覆してやるから」

「うん、頑張って」


 この村には何百年も前から村人から信仰を集めている神様がいた。名は豊祭神ほうさいしんという。元々は村人が作物の豊作を願って開かれる豊満祭という祭りのなかで祟られていた架空の神様のはずだった。だが数十年前にこの村に壊滅的な不作の時期が続いた。長い間雨がほとんど降らず次々と農作物が枯れ果てた。誰もが冬を越せるのか不安になりながら日々を過ごす中、この神様が地上に現れてたちまち村人を救った。そう、この神様は奇跡を起こしたのだ。最もこの神様が降臨したのは俺が生まれる前のことだ。俺自身はこの神様の姿を一度も見たことはない。そもそもこんな荒唐無稽な話が本当にあったのかすらわからない。だがこの豊祭神という神様は村を救った後こう宣ったのだ。「村を救った見返りに女を差し出せ」と。

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