1-23 茨、南條さんと一緒に買い物をする

「ねぇ茨君。そのお友達ってどんな子なの?」


 南條さんの声を受け、僕はティアナについて考える。

 未だ出会って数時間であり、流石に彼女についてわからない事だらけであるが、それでも幾つか断言できる事はある。


「うーん、一見そっけなく見えるけど、実は心優しい良い子……かな」


「ふむふむ。外見はどんな感じかな?」


「髪は、金髪のセミロング。身長は155センチ位で、かなりスレンダーだね」


 初対面の時から思っていたが、ティアナは想像以上に細い。


 それがエルフの特徴なのか、単に栄養の問題なのかはわからないが、現代日本の僕からすると、少し不健康に見える細さである。

 もしその理由が後者ならば、今後生活を共にする内に、自然と改善していくだろうか。


「金髪! ……もしかして外国の人?」


 首を傾げる南條さん。


 多くの人間はここで髪を染めているのかな? と考える筈である。

 そんな中、真っ先に外国人と思考が向く辺り、流石少々天然な南條さんである。


 ……まぁ、今回の場合は南條さんの思考の方が正解に近いんだけどね。


「まぁ、そうだね」


 実際には異世界の人だが、それを言う訳にはいかない為、僕は曖昧に肯定しておく。


「えっ。て事は茨君、外国語喋れるの!?」


「向こうが日本語を喋れるんだ」


 ──そう。よくよく考えたらおかしな話だが、異世界人である筈のティアナとの会話は、全て日本語により行われている。

 それも、全く違和感を感じない程に流暢な日本語によってである。


 流石に異世界の住人と偶々言語が同じという事はないだろうし、恐らく魔法か、それに類似する何かによって、会話を成立させているのだと思う。

 しかし、やはり見た目外国人のティアナが、第一言語の如く日本語を喋る姿は、未だにかなりの違和感を僕に与えてくる。


 ──と。その後も南條さんと会話──主にティアナに関する質問だが──を行いながら、僕達は少しずつ服の系統を絞っていく。


 その間も、まともに会話をしたのは今日で2回目の僕相手に、南條さんは相変わらずニコニコと花の様な笑顔を見せてくる。


 ──まるで親友や家族、恋人相手に向けるような満面の笑み。


 人によっては、もしかして気があるのかな? と思わず勘違いしてしまいそうな笑顔である。

 しかし僕自身は、南條さんは誰が相手でもこうして笑顔を向けると知っている為、特に勘違いをする事はない。


 とは言え、南條さんに笑顔を向けられているという事実は変わらない為、僕は思わず破顔するのであった。


 ◇


 数十分後。南條さんのアドバイスにより、僕は無難な、しかし可愛らしい服を購入する事ができた。


 ……うん。これなら間違いなくティアナに似合う。


「ありがとう、南條さん。おかげで良い服が買えたよ」


「ふふっ。お役に立てたのなら何よりだよ。喜んでくれると良いね、お友達!」


「うん」


 言って僕は微笑んだ。


 その後、僕が促し、南條さんは友達と連絡を取った。

 会話をしながら待っていると、程なくして、クラスメイトの女子達がやってくる。


「あ、きたね。南條さん、今日は本当にありがとう」


「いえいえ、どういたしまして! ……じゃ、また学校でね!」


「うん、また学校で」


 ──また学校で。良い響きだな。


 思いながら、友人と楽しげに離れていく南條さんを見送った後、僕はすぐ様家路についた。


 ◇


「ただいまー」


 玄関のドアをガチャリと開け、ティアナ達へと声を掛ける。

 が、これといって返事も無く、辺りは静寂に包まれている。


 ……おかしいな。いつもなら、モフ子辺りが駆け寄ってくるんだけどなぁ。


 疑問に思いながら、僕はリビングへと向かう。そして扉を開け、中へと入り──


「ただい──」


 すぐに口を噤み、僕は目前の光景に、思わず破顔する。


 ……良かった。少しは仲良くなれたみたい。


 僕の眼前には、モフ子を腕に抱きながら、カーペットの上で眠るティアナの姿があった。

 その表情はどちらも非常に穏やかで、心安らぐ時間を過ごせた事を僕に想起させる。


 ……もう少し寝かせてあげるか。


 僕はひとり頷くと、テーブル椅子に腰掛け、仲睦まじい様子のティアナ達を、静かに、ぼんやりと眺めるのであった。

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