俺の愛しいアンドロイド……侵略宇宙人に立ち向かう最弱主人公と美少女アンドロイドの物語【リメイク版】

暗黒星雲

第一章 青年は美少女アンドロイドと出会う

第1話 いきなり絶対絶命

 パンパンパン……山中に破裂音が響き渡る。

 今時珍しいツーサイクルエンジンの排気音だ。今、俺が乗っているのは原付スクーターのディオだが、エンジンは80ccにボアアップしてある。おかげで加速・最高速度共に原付のレベルを遥かに超えている。欠点と言えばマフラーから噴き出す白煙が半端なく多い事と、排気音が大きい事くらいか。しかし、最近主流の電動車両……無音・無振動・無排気……と比較して何と個性的なのだろうか。

 俺は、大昔の世界GPライダー気分になって峠道をひた走る。原付でGPライダーだとか大仰だと思うだろうが、今やツーサイクルエンジン自体が希少なのだから仕方がない。昔、F1マシンがターボエンジンだった頃、二輪の世界GPではツーサイクルエンジンが主流だったんだ。

 感慨深いツーサイクルエンジンを吹かしながら、坂道の頂点に差し掛かる。そこを通り過ぎると下りになる。俺は少しスロットルを緩めスローダウンした。ものすごい勢いで迫って来ていた後続のSUV(Sport Utility Vehicle)に道を譲ったのだ。気分はGPライダーだが、公道でレースの真似事などやる気はないし、そもそも原付スクーターの改造車では勝負にもならない。

 俺を颯爽と追い抜いていく黒のSUV。一時期、世界的に流行していた半分オフローダーといった感じの車高が高い車種だが、現代ではその大柄なボディは不経済であるという理由で人気は下降気味である。その大柄なSUVは急減速し、車体を斜めに向けて急停止した。道を塞がれた格好になった訳で、俺も思いっきりブレーキレバーを握って急停車した。

 こんな危険運転をする奴には文句を言ってやらねばならないと思い、ディオのエンジンを止めスタンドを立てる。俺がバイクを降りたと同時にSUVからも二人が降車した。黒いスーツにサングラス姿の、一見してヤバイ男が二人だった。そして後続のワンボックスカーも車体を斜めにして停車した。


 不味い。治安のよいと言われている日本で。しかも、地方の山口県で。その山口県でもド田舎の山口市と萩市の境でこんな目に遭うとか想定外だった。


 後続のワンボックスカーからも二人、黒いスーツにサングラスの男が降りてきた。こいつらは両手にアサルトライフルらしきものを抱えていた。


 不味い。逃げ道も塞がれてしまった。非常に不味い。

 こいつらは俺の素性を知っているのだろうか……。


 いや、知っているからこそこんな行動を取るんだ。

 目的は恐らく営利誘拐。


 風薫る五月。木々には黄緑色の新緑の葉が燃えるように吹きだしている。そんな爽やかな気候なのに、俺の背筋は凍り付き、全身にべったりと冷や汗をかいていた。


 前方のSUVから降りてきた二人。一人はハゲの大男で、一人は黒髪だが白人だった。ハゲは何やらテーザー銃のような物を構えている。銃の先端に、スタンガンのような射出体があり、二つの電極からバチバチと電気火花が飛んでいる。後ろを振り返ると、アサルトライフルを構えている二人はその銃口をしっかりと俺に向けているじゃないか。

 本当に不味い。そう感じた俺はヘルメットのスモークシールドはそのままにして両手を上げた。

 我ながら情けないと思いつつ、ホールドアップを要求される前のホールドアップだ。まあ、あんな物騒な物を突き付けられては、彼らに従うしかないだろう。

 黒髪の白人はサングラスを取りにこやかに微笑んでいた。俺が素直に両手を上げた事が嬉しかったのだろうか。そんな事はどうでもいいんだが、とにかくあの物騒なテーザー銃はぶっ放さないで欲しいと心の中で願う。


「山口大学経済学部二年。綾瀬正蔵あやせしょうぞう君だね」

 

 黒髪の白人がにこやかに語りかけてくる。俺は静かに頷いた。


「君のお父さんは、綾瀬重工の綾瀬燈次郎あやせとうじろう氏で間違いないね」


 俺は再び頷く。


「緊張しなくてもいいよ。君が素直に従ってくれれば何もしないから」


 本当に何もしないのだろうか。まあ、痛い事、暴力は振るわないって意味だろう。しかし、俺が逆らえば、死なない程度には痛めつける気が満々だって事も当然って雰囲気だ。

 

「俺に何の用ですか。ただの不真面目な大学生ですよ」

「知ってるよ」


 黒髪の白人がにこやかに返事をした。


「今日も講義をサボって萩までツーリングするんだよね。午後には綾瀬重工関連の整備工場へ行き、中型バイクを借りる予定。最近では珍しくなったガソリン車を見つけてもらった。いい趣味をしている」

「何故そんなことまで知ってるんですか?」

「何故? ふふっ」


 白人なのに日本語が上手い。って言うか、その砕けた話し方はどう考えてもネイティブジャパニーズじゃないか。


「詳しくは話せませんが、まあ、携帯電話関係は筒抜けだと、そんな所です」


 諜報の専門機関にかかれば、携帯電話の盗聴なんて常識なのだろう。俺を取り囲んだ連中は、そういう諜報関係者なのかもしれない。問題なのは、自分がそんな専門職に狙われていたと気づいていなかった事だ。


「これからどうするんですか?」

「君の事は人質として利用させていただきます。ああ、ご心配なく。暴力的な事は一切いたしませんから。もちろん携帯電話は預かりますし、外部に連絡は出来ませんから、ご不便をかけるかと思います。まあ、交渉が成立すれば速やかに解放しますからね。少し、辛抱していただければ」


 白人男は優しい口調と笑顔を絶やさない。どうせ懐には武器を持っているに違いない。こいつは外面とのギャップが甚だしいのではなかろうか。


 いつかはこんな日が来るかもしれないと、そんな気はしていた。俺の実家である綾瀬重工はかなりの大企業だ。ロボット関係では特にに有名なのだが、原子力、核融合などの核開発、外燃機関を主動力とする宇宙船の開発、そして、戦闘機やミサイル関係を受け持つ軍事産業など、幅広い分野で事業を展開している。最近では家庭用アンドロイドのシェアでは世界一だと聞いた。そんな大企業を相手に何をしようというのだろうか。金を無心するだけなのか、それとも他に理由があるのか。俺一人の命で、企業の方針が変更されるとは思えないのだが。


 黒髪の白人男は腕時計を見ながら、北の空を眺めている。俺は車に押し込まれるのかと思っていたのだが、どうやら空の便を待っているようだ。案の定、ヘリの爆音が聞こえてきた。低空を飛んでいるのだろう。山間部に反響するメインローター回転音がかなり大きくなってきた。中型のヘリがその姿を現し、坂道の頂上付近にある駐車場へと着陸した。


「正蔵君。ヘルメットを取ってくれますか? 顔認証で本人確認をさせていただきます」


 回転するローターの爆音が響き渡る中で、黒髪の白人男が話しかけてきた。俺は素直にヘルメットを取る。白人男はスマホを使って俺の顔写真を取り、にやりと笑った。


「さあ、行きましょうか」


 ハゲの方がヘリのスライドドアを開け、俺は白人男に手を引かれてヘリへと向かう。これは、日本海にいる貨物船に乗せられるんじゃないか。行先はロシアか統一朝鮮か、それとも中国か?

 不安感が増し、心臓の鼓動が大きくなる。その時、行先を塞いでいた黒のSUVがひっくり返った。それはヘリの爆音にも負けない轟音を立て、坂道を横転しながら転がっていく。ワゴン車の方にいた二人がアサルトライフルの射撃を開始した。


 タタタン。タタタン。

 SUVをひっくり返した何かに向かって銃撃している。


 白い影にしか見えなかったそれは、目にもとまらぬ速さで十数メートルを移動し、アサルトライフルを射撃していた二人を殴り倒していた。そしてその銃でヘリを撃つ。上手く燃料タンクに命中させたのだろう。胴体部分がボンと音を立て火を噴いた。

 その白い影はまだあどけない表情の少女だった。ジーンズに白いパーカーを羽織っているラフな服装だったが、長いストレートの黒髪と、日本人としては豊満な胸元が目立っていた。


「動くんじゃない」


 黒髪の白人男は胸元から拳銃を抜き、俺のこめかみに突き付ける。そしてハゲの方も胸元から拳銃を抜いて、その少女に向かって発砲した。しかし、ハゲの放った弾丸は少女の白い影に吸い込まれただけ。彼女はまた驚異的な速度で移動し、ハゲの懐に入り込んでいた。少女のボディブローでハゲは吹き飛んだ。そして次の瞬間、その少女は白人男の拳銃の、撃鉄部分を手のひらでしっかりと押さえていた。そしてそのまま膝で白人男の腹を蹴る。拳銃を手放して蹲る白人男の顔面を膝で蹴り潰した。


 駐車場に転がる男が四人は死体のようにピクリとも動かない。ヘリのパイロットは何処かへ逃げてしまったようだ。


 その少女は掴んでいた拳銃を放り投げて俺に抱きついて来た。


「やっと会えました! 正蔵さま」

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