第27話 ボスをボコボコにします

「【ブーメラン・ストライク!】」


 射程距離の長い戦技を放ち、ライラの支援を受けて空中へとジャンプ。


 「その技は喰わないんだなぁ!!!」


 怠惰の異名を持つゴーレムは、【分離】状態のままそれを回避。

 オーラが弧を描いて再び後方から迫るも、それも紙一重でかわすした。


 「【ゴーレムレーザー】!!!」


 スロウスの一つ目から放たれる光線。

 先ほどまで秘匿していた隠し技。


 「くっ!」


 わずかに額をかすめ、血が流れるのを感じる。


 「ルデルさまっ…【ヒール】!」


 すかさずソフィアの支援魔法を得て回復しつつ、僕はスロウスと距離を取った。


 「雑魚狩りの次は不意打ちか。陰湿なゴーレムだ」

 「お前こそさっきから風魔法と支援魔法ばっかり受けて卑怯なんだなぁ〜〜〜」


 【分離】状態のゴーレムとしばし対峙する。




 戦局は一進一退だった。


 【分離】状態でさまざまな攻撃を繰り出すスロウスと、ライラおよびソフィアの力を借りて拳で戦う僕。


 致命傷こそないものの互いに少しずつ攻撃を当て、徐々に消耗している。

 完全に長期戦だ。


 だが、戦いが長引けば長引くほど、僕にとって有利となる。

 こちらには回復手段があるしー、




 「「経験値の到達を確認。レベル31に到達しました」


 この瞬間にも強くなっていくからだ。


 敵と戦えば戦うほど、歩みを進めるほど、僕はずっと強くなっていく。


 「諦めろスロウス。ここは洞窟の奥深く。逃げ場はもうない」


 空中浮遊するゴーレムに呼びかける。

 多くの冒険者を手にかけてきたこのモンスターも年貢の納め時だ。


 「…」


 激しく動いてきたスロウスが動きを止める。

 【分離】状態のまま、こちらを見下ろしていた。




 諦めたのか…?




 「…ぐふふふふ」

 「何?」

 「がはははははははっ!引っかかったんだなぁ!【ストーン・ウォール】!」


 激しい振動。


 背後からだ。

 振り返ると、突如地面から石の壁がせり上がり始める。


 狙いはすぐに分かった。


 「ルデル!」

 「ルデルさま!」


 すなわち、僕たち3人の分断。


 止める間もなく、石の壁は洞窟の天井まで到達し、ライラとソフィアの姿は見えなくなる。




 閉ざされた空間の中で、僕とスロウスだけが取り残された。


 「…なるほど。強い敵が現れれば分断か。悪知恵だけは働く」

 「それだけじゃないんだなぁ!【ゴーレム・ヒール】!」


 これまで傷をつけてきた胴体のヒビが、みるみる修復されていく。

 一瞬で、これまでの努力が無に帰した。




 「これで戦局は逆転!【ストーン・ウォール】は並大抵の冒険者では破壊できないんだなぁ!お前はたった一人で死んでいくんだなあ!」


 スロウスは勝利を確信し、一つ目を細めた。




 「今命乞いをすれば、楽に殺してやってもいいんだなぁ?仲間たちも一瞬で殺してやる」

 「…」

 「強敵と戦うことが好きだなんて、そんなの嘘なんだなぁ。人間は死ぬのが死ぬのが怖い、お前もそうだろ?それに、みんな楽して生きたいんだなぁ」


 ただ襲うのではなく、精神を削る攻撃。




 僕の脳裏にとある光景がフラッシュバックした。

 

 スライムに襲われ、死ぬかもしれないと思った時の恐ろしさ。

 体の寒さ。



 「さあ、言うんだな!お前は、死にたくない!命が惜しいと!そうすれば一瞬で楽にしてやるんだなぁ!」

 

 眼前に突きつけられるゴーレムの右腕。  

 それを見つめながら、僕は言った。






 「僕は、怖くない!!!」

 「何…?」

 「【神脚】スキルに覚醒した時誓ったんだ。もう逃げない、誰かを守れる立派な冒険者になると!」

 「こ、こいつぅ!」

 「だから…どんな状況でも最後まで戦う!諦めたり…するものか!!!」


 拳を再び握りしめ、体に力をみなぎらせる。


 決意は固めた。

 あとはー、




 行動に移すだけ。


 「実績解放条件【戦闘開始時レベル20以上あるモンスターと戦い30分生存する】を達成。新たな称号【強敵に立ち向かうもの】を獲得しました」


  その時、【スキルボード】が新たな力の獲得を僕に伝えた。

 

 「以後、このモンスターを討伐するまで、獲得経験値が大幅に増えます」


 不思議には思わない。

 僕のクラスは【勇者】。



 「必要経験値の突破を確認。レベル32となります」


 勇気を示せば示すほど強くなれるクラス。 

 


 ****  


 

 「な、なにいいいいいいいっ!?こいつ、いつのまにかこんなに強く…!」


 スロウスは止まって見えた。

 奴の攻撃はこちらにかすりもしない。


 「遅い」

 「ぐほおおおおおおっ!」


 逆に、こちらの攻撃は面白いように当たった。 

 まず右腕を砕き、攻撃手段を減らす。


 「【ゴーレム・ヒール】…」

 「【ジャイアント・ストライク】!」

 「な、なんだこいつ!?強すぎる!強すぎるんだなぁ…」


 慌ててスロウスは回復魔法を自分にかけるが、追い討ちをかけて左腕も脱落させる。

 

 右腕はまだ回復中。


 回復スピードよりも速やかにダメージを与えれば怖くはない。

 狼狽した頭部と胴体が宙を舞う。


 「必要経験値の突破を確認。レベル39となります。新たな戦技【百烈拳】を会得。【怠惰のスロウス】討伐推奨レベル40まであとわずかです」


 あともう少しで、スロウスに与えられるダメージが大幅に増加するはずだ。

 これまでの戦いは前哨戦に過ぎない。

 

 レベル40になれば、もはや強敵ではなくなるはずだ。


 「こ、この戦いだけでレベルが9も上がるなんて…お前みたいな存在はチートなんだな!卑怯なんだなぁ!ずるいんだなぁ!」

 「なんとでもいえ。【重力拳】!」


 弱り始めたゴーレムの巨体を、見えない力で拘束する。


 勝負をかけるは、今。


 「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ…!」


 拳に渾身の力を込め、新たな戦技を発動する。


 「や、やめー」

 「【百烈拳】!!!」


 スロウスの胴体に放たれるは、目に見えない速度で放たれる百発の拳。


 「うらあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 叩く。

 叩く。

 叩く。

 叩く。


 己の拳で、ただひたすらにスロウスの胴体にヒビを入れていく。  


 先ほどまで傷一つなかったゴーレムの胴体にみるみる亀裂が入り、そしてー、




 「うぎゃあああああああああっ!」


 



 粉々に砕け散った。


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