第11話 新たにパーティを結成しました

 「パーティ!?」

 「ああ。パーティ名は【同じ道を歩む者たち】。無理強いはしないけど。どう?」

 「そそそそれは…その…」


 ライラは尻尾が落ち着きなく動かし、ぺたんと垂れている耳を触った。

 考え込む時の癖らしい。


 「誘われて、嬉しいけどさ。モンスターとたった一人で戦うのは疲れるし、ずっと一人で寂しかったし…いや、何言ってるんだアタシ」

 「さあ、答えはどっち!10秒以内に応えないとまたくすぐりの刑だ!

 「な…あなたはまたそうやってアタシのクールなキャラを崩そうとして…ああもう、分かったわよ!」


 覚悟決めたのか、ライラは背筋をぴしっと伸ばしー、



 僕の手を掴んだ。


 「ルデル・ハート、あなたとパーティを組むわ!モンスターを戦うときも、ダンジョンに挑む時も、宿屋に泊まるときも一緒にいてあげる!ずっとよ!」

 「ありがとう。これからもよろしく」

 「ど、どういたしまして…」


 その時、周りから歓声が聞こえる。

 手続きに訪れていた他の冒険者だ。


 「ひゅーひゅー!」

 「熱いねぇ、お二人さん」

 「俺にもあんな時期があったもんだ」


 それを聞いたライラの頬は、瞳と同じ緋色に染まる。


 「アタシにここまで言わせたんだから、ちゃんと成功させなさいよね。アタシも、頑張るから…」


 周囲の祝福の声は、しばらく止まなかった。



 ****



 「じゃ、次は大型クエストへの参加手続きだね。ライラも参加するだろ?」

 「あなたを一人にしたらパーティになった意味がないわ。アタシも参加する」


 数分後、僕とライラは大型クエストの手続きに向かう。

 窓口に座っているのは、耳の長い【エルフ族】の受付嬢だ。


 「サリアと申します。大型クエストの件ですよね?」

 「はい。まだ期限に余裕はあると聞いたのですが」

 「確かに期限に余裕はあるのですが…一つ問題がありまして」


 サリアさんは大型クエスト募集の張り紙を僕たちに見せる。

 募集人数や期限が書いてあるありふれた張り紙だったが、よく見ると下に記述が追加されていた。



 大型クエスト:【帰らずの洞窟】攻略隊募集中


 誰でも出来る簡単なクエストです!

 攻略隊で力を合わせればダンジョン攻略も簡単!

 他の冒険者との交流が新たな出会いを生むかも!?

 応募するなら今だ!


 応募期間:5月中

 集合場所:早朝にバイブリー城正門前


 ※応募者多数につきパーティリーダーレベル15以上、パーティメンバーレベル10以上必要



 「げ」

 「アタシは9、ルデルは10だから…少し足りないわね。どうする?」

 「仕方ない。何かクエストを引き受けてレベルアップを目指そう。何か受注できるものはありますか?」

 「今だと…そうですね。ここから東北に一時間ほど歩いたところに【オーク】の群れが出没していると情報が入っています。ですが、【オークキング】のことを考えると少々難しいかもしませんが、討伐クエストを引き受けますか?」

 

 【オーク】は討伐推奨レベル7で、ゴブリンより知能も体格も優れた存在である。

 それだけ聞くと難しくなさそうだが、【オーク】の群れには上位種である【オークキング】が1匹存在しているのが特徴だ。


 巨大な体格と腕力を誇る【オークキング】の推奨レベルは12、通常なら危険な相手である。


 だがー、


 「これにします」

 「大丈夫ですか?」

 「大丈夫ですよサリアさん。アタシはともかく、ルデルは強いんです」

 



 より強いモンスターと戦うのが、今の僕の目標だ。


 

 ****



 「おい貴様!観光名所の【試しの石】を冒険者に壊させるとはなにごとだ!」

 「ひい!違うんです!金を渡されて冒険者を一人通すなって言われてー」

 「言い訳をするな!貴様が罰金しろ!」

 「そ、そんなぁ」


 バイブリーの城門で門番が怒られているのを尻目に、僕とライラはバイブリーの外にである。

 平原は穏やかだが、モンスターがどこに潜んでいるか分からない危険な地帯である。


 「ねえ」


 用心しながら周囲を見回していると、少し後ろを歩いていたライラに声をかけられた。


 「どうかした?」

 「ルデルは、重量が重い方が経験値貯まるんでしょ。これ履きなさい。少しだけ貸してあげる」

 

 【ウマ耳族】の少女は【蹄鉄】が取り付けられた靴を脱ぎ、アイテムBOXから普通のブーツを履いた。

 後には主を失った特注ブーツだけが残る。


 「これは、君の部族に伝わる大切なモノじゃないか。受け取れないよ」

 「いいのよ。今のアタシが履いても役に立たないわ。正直、ずっと意地を張っていた部分もある」


 ライラは笑みを浮かべた。


 「【蹴撃】を使えない自分には、価値はないと思ってた。でも、今は違うの」

 「ライラ…」

 「それにね」


 すう、と息を吸った彼女はー、




 「アタシ、久しぶりに全力で走りたい。誰かと一緒に」


 あっという間に横に回り込んだ。

 これが重しを解き放った彼女のスピードなのだろう。


 かと思うと、【皮の鎧】がカバーしていないわずかな背中にすき間を入れ、くすぐりにかかる。


 「ルデルがもらってくれなきゃ、このままくすぐりの刑だからね」

 「くふう!?もしかして、さっきのくすぐりを根に持って…」

 「さっきは恥ずかしかったんだから~!」

 「あははははは!分かった!分かったからやめて!」

 

 背に腹は代えられない。

 

 ライラが地面に置いた【蹄鉄】付きの靴を履いた。


 「ぐぎぎ…」


 一歩、また一歩。

 最初は重かったが、やがて順応していき、少しずつ歩けるようになる。


 「普通の人なら立っていられなくなるほどなのに…流石ね。じゃあ、【オーク】のいる森まで競争よ!」

 「ちょ!まだこの靴に慣れてないんだけど!?」

 「追いつけないんじゃ、アタシが一人で【オーク】全員倒しちゃうんだから!」


 ライラはどんどん走っていく。


 「もしライラが【蹴撃】スキルを覚えたら返すよ!約束だ!」

 「ええ!特注品なんだから、大事に使ってよね!」



  僕もそれを追いかける。


 「ふふふ、誰かと全力で走るのって…楽しい」


 結構脚に来たが、ライラが楽しそうだったので、やがてそれを忘れた。


  =====



 スキルシート(337日目)


 名前:ルデル・ハート

 種族:人間

 レベル:10

 クラス:【目覚めの勇者】アウェイキング・ブレイバー

 ランク:D

 所属パーティ:【同じ道を歩む者たち】

 称号:【勇気ある者】【重荷を持つ者】【力を示す者】【戦いを運命付けられし者】

 レベルアップに必要な経験値:14569/90000


 HP:900/900

 MP:60/60

 攻撃力:110+5

 防御力:113+5

 素早さ:113-40


 スキル:【神脚】~一歩歩くごとに経験値を獲得。歩いたり走ったりしても疲れにくい。

 戦技:【ソード・ストライク】【ストリーク・ストライク】【ジャイアント・ストライク】【エネミー・サーチ】

 武器:【ショートソード】【皮の鎧】【蹄鉄のブーツ】


 ※【蹄鉄のブーツ】により【重荷を持つ者】が常時発動します



 =====



 ****



 「グガアアアアアッ!」


 サリアさんから教えられた地点にたどり着くと、情報通りオークが現れた。

 ゴブリンと同じくお手製の棍棒を手に襲い掛かってくるが、身長と体重が段違いのサイズだ。


 「【ジャイアント・ストライク】!」


 さっそく巨大な敵に大ダメージを与える新しい戦技を使ってみると、一撃で沈む。

 

 「経験値が上限に達しました。レベル11にアップします」

 「よし!」

 

 【蹄鉄のブーツ】のおかげか、さっそくレベルが1上昇する。


 「じゃあ、準備はいい?」

 「ええ!アタシも倒しまくってレベルをあげるわ!」

 「その意気だ!」




 【同じ道を歩む者たち】の初陣が幕を開けた。


 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る