Sideざまぁ イーサンの恐れ

 「イーサン!この大バカものめが!」


 到着したバースの街で女に酒にとどんちゃん騒ぎした日の早朝。

 宿屋で寝ている時、【水晶玉】を使った通信で親父に呼び出され、怒鳴りつけられた。


 「はあ〜〜〜?いきなりなんだよ」

 「お前のパーティ【高貴なる一団】に所属する【動物使い】テイマーが、【スライム】で人を襲わせた疑いがあると苦情が入っているぞ!」

 「あ?」

 「【動物使い】テイマーが、受付嬢のエレナ・マイヤーなる者の調べに応じて自首したんだ!ギルド本部にも報告したらしい。お前が仕向けたんじゃないだろうな?」

 「…ちっ、知らねえよ。そいつがただの異常者ってだけだな。そもそも数日前にパーティー抜けた奴だし」

 「ならいいが…襲われた【荷物持ち】ポーターは無事だったそうだが、もし死んでいたら揉み消すのは簡単ではなかったぞ!」

 「…」

 

 二日酔いで痛む頭を抑え、顔に付いた傷をなぞりながら、俺は怒り狂いそうになるのを我慢した。


 (あの役立たずが!大金を払ってやったのにしくじりやがって。やはり、俺の手でさっさと殺しておけばよかった)


  奴との因縁は3年前。

 

 農村レスター含む広大な所領を有する大貴族、ギボンズ氏の一員であるこの俺の名誉を汚し、ルデル・ハート。


 あいつは、絶対に排除しなければならない。



 ****



 「いや、離して!」

 「そう言うなよ〜〜〜、ちょっと触らせてくれたら金払うからさ〜〜〜」

 「お願い、誰か助けて…!」


 言っておくが、俺は悪くねえ。

 12歳ともなれば性的な興味を湧いてくる年頃。


 レスターの田舎町を歩いてた同い年の女を、としただけだ。


 貴族ならそんぐらい誰でもやってる。


 俺がやってなぜいけない?


 「やめろ」


 そん時だ。

 あのルデルの野郎が止めに入ったのは。


 たまたま家が近所ってだけで何の関係もねえのに、俺がせっかく捕まえた女を離せと言いたいらしい。


 「はあ〜〜〜?お前何様だよ〜?」

 「…」

 「威勢がいいのは最初だけか〜?何とか言ってみろよ〜〜〜」


 むかついた俺は、腰に差していた剣を抜いた。


 貴族を怒らせた農民に生きる資格なんてねえからな。


 「死ねやあああっ!」


 そのまま腕一本でも切り落としてやろうと振り落とした時ー、






 「…え?がひゅっ!」


 奴は目にも止まらないスピードで視界から消え、高貴な俺を全力で殴りやがった!


 「てめえ!!!殺して…ぐがっ!ぼげっ!」


 しかも馬乗りになり、思い切りボコボコにしやがる!

 美しいはずの俺の顔は真っ赤に腫れ上がり、みるも無残な姿になった。


 そしてー、


 「やっ、やめろ。何をする、それは俺の剣…ぎゃああああああ!」


 最後に、俺から奪った剣で、頬に一生消えない傷をつけやがった…!

 こんな極悪人に暴行を受けたら、まだガキの俺は泣き出すしかない。


 「す、すすすすみませんっ!もうしません!だから助けてくださいっ!殺さないでくださいいいいっ!」

 「…襲おうとした女性にも謝罪するか?」

 「しししします!しますからああああっ!」


 悪いことはしていない俺が非常に不本意だが謝罪すると、あいつはやっと離れた。

    

 「ここにいると危ない。逃げろ」

 「は、はい!」


 そして、俺の獲物を勝手に解放した後、自分も去っていった。






 もちろん、その後大急ぎで親父の元へ行き、自分の被害を訴えたさ。 

 

 だが、ルデルの野郎は覚えがないの一点張り。

 この大嘘つき野郎めが!


 結局、俺が女を襲おうとしたことが不名誉なことであると認定され、そのままこの事件はうやむやになった。



 ****



 「とにかく、今後はパーティをきちんと管理しろ!わかったか!」

 「へいへい、分かりましたよ親父殿」


 【水晶玉】による小言が終わったため、俺は宿を出る準備を始めながら今後のことを考える。

 訴えの件は親父が何とかしてくれるだろうし。


 (予定変更だ。大型クエストに参加する前に、ルデルのカス野郎に復讐を果たす)


 俺が冒険者になったのも、半分金のためだがもう半分はルデルへの復讐だ。


 あいつはキレると記憶がなくなって何をするか自分でも忘れるほど凶暴な相手だし、レスターで手を下すと目立つからな。


 それに、俺自身が手を汚したくないから、仲間も集めたかった。

 高貴な俺が直接人を殺すなんて馬鹿らしい。


 丁度あいつも冒険者になると聞いてヒヤヒヤしたが、ハズレスキルを引いてバースの街でこき使われてると聞いて笑いが止まらなかったぜ。


 あいつに底辺を味わってもらうため、【かまなべ亭】とかいう宿のジジイに金を渡し、雇うふりをして散々こき使わせてやった。


 1年間散々楽しんだ後、こっそり人をやって暗殺させるつもりだったが…それは失敗だったな。


 まあ、いい。


 これも、ヴェルトの神が俺に自らの手で復讐しろと言ってるんだ。

 数日前レベル10になったしな。


 =====



 スキルシート(337日目)


 名前:イーサン・ギボンズ

 種族:人間

 レベル:10

 クラス:【弓兵】アーチャー

 ランク:F

 所属パーティ:高貴なる一団

 称号:【悪名高き者】【卑劣漢】

 レベルアップに必要な経験値:23789/90000


 HP:500/500

 MP:30/30

 攻撃力:45+20

 防御力:55+15

 素早さ:30


 スキル:【強弓】~弓での攻撃に人智を超えた力を与える。

 戦技:【チャージ・ショット】【インビジブル・ショット】【ホーミング・ショット】

 武器:【三日月の弓】【黄金の鎧】



 =====


 親父からねだった金の力でパーティ【高貴なる一団】を結成して、本来ならメンバーと平等で分け合うはずの経験値も、大金を渡して独り占めした甲斐があったぜ。

 

 元々パーティーリーダーには経験値配分を決める権利があるし、真面目にレベル上げなんてごめんだからな。

  

 これだけのステータスを持つものはバース周辺にはいねえはずだ。


 ただ、訳のわかんねえ称号がついてるのだけが気に入らねえが…


 「くくくくく…待ってろよ〜〜〜ルデル。今更命乞いしてももう遅い」

  

 とにかく、遊びはもう終わりだ。

 【高貴なる一団】を引き連れて、お前に3年越しのリベンジをしてやる。


 「イーサンさま!大変です!」


 その時、部屋のドアが激しくノックされた。

 【高貴なる一団】の一員、エドワードの声がする。


 「うるせえよ。なんか用か?」

 「ルデル・ハートがバースの街にやってくるみたいです!」

 「…は?」

 「早朝の戦闘で、一人で【コロニースライム】を倒したとかで噂になってますよ。目撃した商人によると、なんでも10日でレベル10になったとか」

 「れ、レベル10!?」


 嘘だろ?

 俺が1年かけて大金でレベル10になったのに、あいつは、たったの10日で?


 ーやめろ。


 その時、俺はあいつの魔王パズズのように凶暴な表情を思い出した。

 

 (き、きっと、俺にとどめを刺しに来たんだ。そうに違いない。あの野郎、ここまで邪悪だったとは!!!)


 「…ひ、ひい!」

 「い、イーサンさま?どうしたんですか?」

 「な、何でもねえよボケカス!!」


 俺は震える体を抑え、慌てて部屋の一角のアイテムBOXからゴールドを取り出した。


 とりあえず100ゴールドだ。

 これで行けるはず。


 あ、あいつと直接やりあうなんてごめんだ。


 「おい。この金を門番に渡して『リデルとか言う奴を通すな』と伝えろ。それから【高貴なる一団】を招集だ」

 「は…?」

 「早くしろおおおっ!」

 「は、はいいいいいっ!」

 

 エドワードが慌てて出て行った後、俺は【三日月の弓】を握りしめて怒りに震える。

 

 「…くそくそくくそくそくそくそおっ!」


 


 ぜってえに、あの悪魔を倒してやる!


 

 

 

 

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