4/7 走って、飛んで、春。

 入学してまだ一月しか経っていないこの教室で、よく話す友達は増えてきてるけど、まだ友人と呼べる人はいないわけで。

 ちょっと出遅れてるかもしれないかもだけど、チャンスとも取れる。

 ファンタジークレイを手にした私は、コミュニケーションの答えを手にしたと言っても過言ではないからだ。

「あ、紅奈ちゃんおはよ〜」

 そう私に挨拶をしてくれるのは、音羽ちゃん。私の前の席で、教卓の真前の席に座っている。一番めんどくさい席だけど、音羽ちゃんは真面目だから全然問題なさそうだ。

 問題なのは私の方で、そんな優等生の後ろにいるお陰で、悪目立ちは避けられないのだった。

「おっはよー音羽ちゃん! 今日も一日頑張ろうね!」

「うん。頑張ろうね」

 はー、音羽ちゃんはなんかボーってしてる感じで癒されるな。

「紅奈ちゃん、何見てるの?」

「いやー、今日も平和だなって思ってさ」

「うん。平和でいいよね」

 何気ない会話の中、どこからともなく腕をつねられる。なんだ全く、憩いの時間に。

 うんざりとしながらも、文兎くんがつねってきた意味を考えた。まあ、すぐに分かるんだけどね。

 ポケットの中のファンタジークレイが少し水っぽい。

「はぁ」

 そして、なぜか、音羽ちゃんのため息が聞こえる。

 な、なんと、私としたことが! 確かに、音羽ちゃんの様子がおかしいじゃないか。

 昨日まではどうだっただろうか? 思えばため息が多かったような気もするな。

 これは、なんとかしてあげないと。別に試練とか関係なく、なんとかしてあげないと。

「どうしたの音羽ちゃん。朝からため息なんてついちゃってさ!」

 うん。まあまあ無難な感じに切り出せたかな。

「あ、ごめん。気を使わせちゃったかな。紅奈ちゃんが気がついてくれるなんて、よっぽど大きなため息だったのかもね」

 儚げに笑う音羽ちゃん。かわいい。なんか、失礼なことを確実に言われてるけど、これが私の一ヶ月間の実績ということだろう。うん。うーん。

「はははは、そうだね。思わず気がついちゃったんだよっ!」

「そうなんだね。ありがとう。でも大丈夫だよ。ちょっと疲れてるだけだから」

 でも、ファンタジークレイでわかる。気がついて欲しいんだろう。

 チャイムが鳴った。


「あれは、何かある。けど、自分からは言い出しにくく、でも気がついて欲しいと言うあまりにも面倒な状態だ」

「はー、音羽ちゃん、可哀想〜」

 昼休憩に人気のないところにまた連れ込まれ、文兎くんの推理を聞かされる。ふん。何が面倒な状態よ。あんたのほうがよっぽど面倒くさいっての。

「ボーッとしてる暇はない。原因を探るぞ」

「はあ? 探るったってどうすんの?」

「お前は聞き込みだ。俺は俺でいろいろやることがあるからな。ここからは別行動で行こう」

 なるほど、聞き込みか。てか、こんなに指示ばっかされてるんだ? まあ、家に帰ればケーキがあると思えば多少は頑張れるわけだけど。

「文兎くん、一つだけ注意しておくけど、透明だからって変なことしちゃダメだからね」

「ふん。くだらないことを考えてないで聞き込みをしてこい」

 そして、文兎くんはどこかに去っていった。まあ、姿が見えないから、多分だけど。

 聞き込み、なんて今までの人生で一度もしたことなんてないな。てか、したことあるやつのが少ないだろうな。


 何がなんだか分からないながらも聞き込みを始めることにした。

 まずは、それなりに話すクラスメイトの夏帆に話を聞いてみる。

「うーん、分かんないな。だってさ、音羽ちゃんって結構プライベートは謎に包まれてるじゃん。それより紅奈ちゃんがさ、この前連れてきた銀髪の男の子ってなんなの? じわじわと話題になってるっぽいじゃん」

 なるほど。確かに、音羽ちゃんのプライベートは謎か。これはもっと音羽ちゃんのことを良く知る人物に話を聞かないといけないな。

「だよねー」

「ちょっと何、がだよね、なの?」

「ほら、音羽ちゃんって、プライベートが謎に包まれてるってこと」

「あーそれね。でも謎って言ったって、たかが知れてるって言うか、多分、勉強してんだよ。今も図書室行ってるでしょ。それより、銀髪、子供ながら、すでにかっこいいって話題になってるんだよね」

 なるほど。ってことは勉強に対する悩みかな。でも私、そんなことで悩んだことがないからよく分からないや。

「何が楽しいんだろうね」

「何がって楽しいって、どう言う意味?」

「ほら、音羽ちゃん。勉強ばっかりしてさ」

「あー、そっちね。でも、それは人それぞれじゃん。まあそんなことは置いておいて、銀髪とどう言う関係なの?」

 やっぱり、もっと聞き込みをしないといけないかな。確かに、私って、音羽ちゃんのことをまだ全然知れてないし。

「うん。そうだよね。結局、音羽ちゃんのことは音羽ちゃんが一番よく知ってるんだもんね」

「え、ああ、そうだね。ってか、銀髪の話、そんなに無視できる? こんなに話題に出してるのに?」

 いけない。ここで文兎くんのことに反応してはいけない。シラを切り続ければ、そのうち騒動も収まるはずだ。

「まあ、紅奈ちゃんが話したくないならそれでもいいんだけどね。てか、音羽ちゃんの話ばっかしてるけど、どうかしたの?」

「え、ああ。今朝、おっきいため息ついてたからさ。ちょっと心配で」

「ふーん。そんなとこに気がつくなんて、珍しいじゃん。まぁ、私もなんか分かったら協力するよ」

「ははは、ありがとね」

 ちょっと、今までの自分を省みようかな。私って、そんなに気の利かない感じなのだろうか?

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