2/6 新しい朝が来た!

 目の前の男の子は、現実離れした姿をしてる。と言うか眩しい。眩しすぎてよく見えない。

 銀色の髪はあまりに繊細だ。解像度がすごい。見事なストレートで肩くらいまで伸びていて、一瞬女の子と見間違えそうになるが、真っ白で裸の上半身の体つきを見る限り、しっかりと男だ。

 首には生意気にネックレスなんかしている。真っ赤な宝石もついているが、どうせガラス製かなんかだと思う。

「あー、これ、結構大変な仕事になりそうだな」

 銀髪は私をぱっと見てからに、うんざりとした様子で髪をかき分けた。とてもさらさらしている。なんか、火力最大で炒めたパラパラの炒飯が食べたくなってくる。

「なーにが仕事よ」

 ぼんやりした頭で、生意気言うガキにこう言ってやった。中学にあがったばっか、もしくはまだ小学生かもしれないような子供が、なにをほざいてるのか。全く、人生を甘くみてもらっちゃ困る。

「まず言うことはそれか。まったく。お前、知らない男が部屋にいるんだぞ?」

 た、確かに、なんなんだよコイツ、いつの間に部屋に入りやがって!

「ちょっと僕? ここで何してるのかな?」

「なるほど。素直な馬鹿か。それなら少しはやり易くなる」

「ばかだと!」

「違う。素直な馬鹿だ。褒め言葉だぞ」

「ほ、褒め言葉?」

 銀髪の男の子がニコニコしている。なんだか釣られて口角が吊り上がりそうだ。

 手で無理やり揉みほぐす。ついでに、ほうれい線改善にマッサージも挟む。まだ出てないけどね。

 とにかく、褒め言葉ならもっとわかり易く言えばいいものを。全然気が付かなかったよ。

「て言うか、お前、遅刻なんだろ? 急がなくていいのか?」

 言われて思い出す。やばい、急がなくちゃ!

「ちょっと僕、邪魔! 制服取れないよ!」

 そう言ってもニヤニヤして動かない。押しのけると空気みたいな軽さで飛んでいった。

「おわっ! 軽!」

「いちいちリアクションが大きいな。ほら、急げ急げ。大丈夫。俺が間に合わせてやるから」

 退けられた銀髪は、腕を組んで立っている。歳に似合わずキザったらしい。ったく、可愛げってもんがない。

「早く出てていってよ! 着替えられないじゃん!」

 私が怒ると、男の子は目をまん丸に開いた。まあ、大きいこと。

「なーに言ってんだ。お前の体なんて全く興味がないどころか、学校中の奴ら一人でも興味を持つのかどうかすら……、うわっ、エリートの僕に何を……」

 銀髪の声を聞き終わる前に、思う。地位も名誉もお金もいらない。鉄拳制裁だ。

 とは言っても相手は子供、本気はもちろん出すまい。近くにあったタオルを無造作に銀髪に振るった。

 ペシッ。

 タオルで殴ったとは思えない音と手応え。しかしわけを気にしている暇はない。銀髪をその勢いのまま部屋から追い出し、素早く着替える。

 すぐに部屋を出て顔を洗い歯を磨く。リビングに準備されている朝ごはんを食べたいが、そんな余裕はなかった。

「うん、いい味だ。少し味が薄い気もするが、毎日食べるのならこれくらいの方が良いのだろう」

 どこの馬の骨かもわからない銀髪は人様の家の料理を勝手に食べている。

「僕、出て行きなさい。もう私も出るから。もし身寄りがないなら、学校の先生と相談してどうするか決めたげる。不法侵入のことも、お姉ちゃん水に流したげるから」

 銀髪の男の子の腕を引くと、素直について来る。

「ふん、まあ、勝手にしてくれ。追々説明してやるから。ほら行くぞ」

「ちょっと」

 なぜか、私は腕を引かれ家を出た。そこで、銀髪の男の首に付けられていた赤い宝石が無くなっているのに気がついた。

 さっきのタオルで取れちゃったんだろうな。後で探すか。

「おい、しっかり歩け。遅刻しそうなのだろう!」

 髪、さらっさらだな〜。なんて現実逃避をして歩く。いや、歩くと言うよりも……

「ほら、ちゃんと歩け。しっしっ、寄り道するなよ」

 犬の散歩のような気持ちだ。もちろん私が犬なんだけど。

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