第5話たちの悪い冗談

雲よりも高い高度一万八千フィート。飛翔するのは黒き鋼の天馬。大型輸送機PH-716である。

大型の主翼に四機のターボジェットエンジン。尾翼に同じエンジンを二機搭載。

さらに、対空機関砲と空対空ミサイルで武装したまさに天空の要塞である。

そんな機体が向かうのは福岡県。何を隠そう例の事件の現場である。そんな機内には珍しい人物が乗っていた。

輸送機には不釣り合いなきれいな内装。まるで国内旅客線のビジネスクラスのような機内にそいつは居た。

「もう何回も乗っているのに、まだ慣れてないんですか一佐?」男は問いかける。


「うるせーなー。高所がダメなんだから仕方ないだろ。」答える一佐。


そうなのだ、まさかの一佐のご搭乗である。ああ、紹介しておこう

問いかけた男は上級捜査官、大見先悠也三佐である。一佐は身長が170㎝で筋肉質なのに対して、三佐が178㎝でスリム体型とギャップがありつつ、女性人気ではだいぶアドバンテージがあり、いつも上から一佐を見下ろしている。顔もクールで妻子持ちの幸せ真っ只中の男である。そして同時に一佐の部下でもある。


「先遣隊として私たちが赴くのはいつものことですけど、大臣がテロ絡みではない本件に手を貸すなんて珍しくないですか?」


「ほかの組織に恩を売っておきたいんだろうさ。俺らは機密性の高い組織だ、ただでさえ他の省庁の睨みがきいてるんだ、ここで少しでも緩和できれば今後動きやすいからな。」


三佐に質問され、なんとなく想像できることの最大限の模範解答をぼやく。


「にしても、きな臭いな。なぜ今更俺らを派遣することになったのか、桜田門の連中の意図が読めない。タイミングにしても不自然だ。」


「どこがですか?迷宮入りにさせまいという意地なのでは?」


「じゃあなぜ軍人の俺らなのかな?そこなんだよ三佐。俺らの専門はテロと軍人の犯罪捜査、

卑劣な殺人鬼の調査ではない。被害者には同情するが、俺らの管轄ではない。お門違いもいいとこだ。」


「誰が見ても俺らが場違いなのは明らかな上で派遣するということは、答えは明らかじゃないかなぁ三佐。」


「まさか相手は軍人やテロリストだとでも言うんですか一佐?だとしたらこれほど”たちの悪い冗談”もないですよ。」


「だが、警視庁がこれほど人員を投入して手がかりがほとんど無いのは、相手が巧妙に隠蔽しているからだろう。そういう点はまさにプロの仕事だ、ここまで出来るヤツも少ないぞ。」


「まさに”天災”だな。」


「ですね一佐。だとしたら我々も念入りな準備が必要そうですね。追加で人員を要請しますか?」


「取り合えず様子見だな。早とちりで要請して、大目玉くらうのは御免だ。」


そんな話をしていると機内放送が流れる。


『川波特別捜査官。まもなく福岡空港に着陸します。おそらく22:00には駐機地点に到着するかと。』


こんな特定の人物に機内放送されるのも実は乗客が二人しかいないからである。この機体自体はかなりの人員及び資材を運搬できるように設計されている。その為、本来なら数人の輸送には向かないのである。しかも空港への着陸時間が夜なのは乗っている機体が大型故に目立ってしまうという理由である。

なぜ二人の乗客に対してこんなに大型の機体をよこしたのかと疑問に思いながらも着陸に備える一佐であった。


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