第12話 ぼーしょくってなに?


 デザートホエールの肉は甘く……はなかった。

 保存のために干し肉にしているので硬い。

 もしゃもしゃと食べる。

 俺は同じ様に、いや、なんかかっこよく煙草みたく噛みしめているウルスラに向かって問う。


「次の町ってどこいくのー?」

「暴食の町、グラドニカ」

「ぼーしょく?」

「げぇ……よりにもよって」


 なんかイカルガが嫌そうな顔をしている。

 ぼーしょく、防触、暴食、脳内変換を繰り返し、たどり着く。

 ふむ、暴食の町。

 なにかいわくつきらしい。


「なんかへんなとこみたいだね?」

「そりゃあ、魔王の支配下だからな」

「やっぱりー!」


 イカルガが頭を抱える。俺は首を傾げる。


「そんなとこいってだいじょうぶなの?」

「問題ない」


 どうして、と聞く前に思いつく。

 そうだ。ウルスラは元魔王側じゃないか。

 まだそれは有効なようで、ついてきているデスワームもいる。

 魔王は千里眼を持っていたはずだが、わざと見逃しているのか。

 俺で遊んでいるのかもしれない。

 悔しい……。

 俺はメスガキかもしれない。でもわからせられるキャラヤられ役じゃない。

 ヤるキャラだ。


「そのグラドニカにはなにかいるの?」

「暴食の魔人がな」

「まじん?」

「魔王幹部だ」

「ほえー」

「嫌だぁ、行きたくないー。なぁ相棒! こいつやっぱり俺らを魔王に売ろうとしてるんだよー!」


 イカルガに泣きつかれる。俺は困ったように笑いながら。


「売ろうと思ってんなら、その前に、もうころされてるんじゃないかなーって」

「ああ、その通りだな」

「こいつ……あっさり負けを認めたくせして!」


 イカルガがウルスラを威嚇する、俺の背に隠れながら。

 俺は苦笑する。実はこんなやり取りはずっと続いている。

 ふと窓から外を眺める。

 船の中から見える砂漠は、横に流れていく。

 大砂原を行く船。

 今、改めて確認するとファンタジーだ。

 俺は異世界に居る。

 気分が高揚してきた。

 俺は宣言する。


「じゃあ狩っちゃえばいーじゃん? そのぼーしょく!」

「マジで言ってんのか相棒……?」

「それでこそだ」


 ウルスラがにやりと笑う。

 俺達はデザートホエールの肉を食いながらグラドニカを目指す。

 魔王の領地。魔王陣営幹部が居る所。

 怖くない、といえば嘘になる。

 だがそれにまさるが湧いてくる。

 俺なら勝てる。なら無敵。

 どんな相手でも雑魚、ざぁこ♡

 そんな気分に浸る。高揚感に包まれながら窓の外を眺めていると遠くに何か見えた。


「しんきろーってやつ?」

「いや、グラドニカだ」

「えっ、嘘もう!? 早くない!?」


 イカルガが困惑している。

 おや? どうやらグラドニカはもっと遠い位置にある。少なくともイカルガの認識ではそうだったらしい。

 どういう事だろう。聞いてみる。


「グラドニカは領土を広げている。その分、オアシスと距離が近くなった。あれはまだ端という訳だ」

「ちゅーしんに行かなきゃいけないんだねっ!」

「いーやーだーぁ」


 駄々をこねるイカルガを引きずって、船を降りる。

 グラドニカ、その街は見た目は白亜の石造りの町だった。

 しかし近づくにつれてその異様さが分かる。

 それは石などではない。だ。

 骨で建造物が作られている。そして――


「あっ、ウルスラ様!」


 寄って来た住人も――


「スケルトン……」


 骨だけだった。


「勤めご苦労、今日は暴食の魔人様に幼女の生贄を持ってきた」

「ほらやっぱりー!!」


 イカルガが叫ぶのを俺はあえて止めない。

 こうした方がリアリティが出るだろう。

 俺はウルスラを信用していた。何故かは分からない。

 猥談を交わした人間同士の友情か? そうかもしれない。

 謎の信頼感がそこにはあった。

 これは演技だ。その確信があった。

 スケルトンはからころと笑いながら。


「それはそれは! いつもご苦労様です! きっと魔人様も喜ばれます!」


 スケルトンが街を案内する、骨で出来た街は不気味だった。


「うええ、これ全部、魔人の食べ残しなんだぜ……」

「へー」

「相棒! 緊張感がねぇよ!」

「こら! 餌が喋るな!」


 スケルトンがキレた。俺も


「だれがえさだって? がりがりくん?」

「ああ? おまえ立場が分かっ――」


 俺は血の戦斧ブラッディアックスでスケルトンを叩き潰していた。


「おいおい、せっかく魔人まで直線コースだったんだぞ?」

「アリス見下されるのきらーい」


 俺は見下す側でなければならない。だってはそういう存在なのだから。

 ん? なんか思考がブレる。 ウルスラの言う通りだ、穏便に進めるなら、それにこした事はない。


「……ま、なんとかなるっしょー」

「全く、面白い奴と出会ってしまった」

「『出会ってしまった』じゃねーよ!! どーすんだこの状況!? 四方八方、敵だらけになったぞ!?」

「だーかーらー、なんとかなるー♪」


 血の戦斧を掲げて俺はスケルトンの群れへと突っ込んで行った。

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