第二話 魔王を倒した暁には

「魔王を倒して姫を連れ帰った暁には、ボクをお姫様にして下さい!」



それがボクが姫を無事に連れ帰る条件だと、王に提示する。

王は暫く混乱した様子で、「ん? え? どういう褒美?」と頭を抱えている。



「その、勇者ノエルよ。お姫様になるというのは?」


「だから娘さんを連れ帰る代わりにボクをお姫様にして下さい」


「いや確かに勇者ノエルは可愛いが⋯⋯お姫様と言うのはちょっとな⋯⋯。ね?」


「ならボクは魔王討伐には向かいません!!」



条件を飲むのを渋る王に、きっぱりとした意志を伝える。

兵士達からまた睨まれたが、ここだけは譲ることが出来ない。



「勇者ノエル、姫になるということは表向きはわしの娘になるということじゃが⋯⋯」


「王はボクが娘になるのが嫌なんですか?」


「例え勇者ノエルが男の娘だろうがそれを補えるくらいに可愛いからアリ」


「きっつ⋯⋯じゃ、じゃあ交渉成立でいいでしょうか?」



流石に自分の父親と同年代の男に、可愛いと言われるのはキツイものがある。

今回ばかりは兵士たちもボクに同意してくれている。

孤立したな王よ。



「しかし娘ノエルよ、そうなると王位に色々と影響が⋯⋯」


「ボクは別に権力が欲しい訳では無いので、可愛いお姫様がしたいだけです。あと娘呼びキツイのでやめてください」


「結構毒を吐くんだな、勇者ノエルよ。だがそれもまた良いだろう。まあ権力を望まないなら、叶えてやれない事もないが」


「ホントですか? 言質取りましたからね。約束破ったら娘さんの命は無いと思ってください」



我ながらこれから魔王を討伐しに行く者とは思えない発言をしている。

けど強引にでも約束はしっかりと結んでおくべきだ。

変に期待して、ぬか喜びした時が一番辛い事は分かっている。



「さてではこれからボクは冒険の旅に出るとしますか⋯⋯」


「その冒険の旅、ちょっと待ったァーーーー!!」



元カノの結婚を認めたくなくて結婚式に乗り込んでくる彼氏の様なノリと共に、王室の扉が勢いよく開いた。

驚いて扉の方を向くと、如何にも勇者らしい服装に、剣を携えた金髪と翠色の瞳の男が立っている。



「おお、来たか。二人目の勇者リュウオウよ」


「王よ、ご無沙汰しております。勇者リュウオウ、ただいま参上致しました」


「え二人目とかいたんですか」



リュウオウと名乗る男は丁寧に王の前で膝を地につけて跪いてみせた。きっとこれが正しい対応なんだろう。

ボクの時と違って兵士が睨んでいない。




「要件は既に案内人から聞いています。すぐにでもノエルと共に出発を⋯⋯」


「あの、すみません。ボクこのリュウオウさんと冒険するんですか?」


「え、まあ⋯⋯。王的には二人一緒で行って欲しいかなぁなんて⋯⋯」


え、それは聞いていない。

いきなり見ず知らずの人と二人旅は流石に出来ない。

ボクはすぐ様リュウオウさんに「すみません。ボク達別々でいきましょう」と提案する。


が、その提案は飲み込んでもらえなかった。



「何故だノエル!? 幼い頃に二人で冒険すると約束したじゃないか!」


「幼い頃? すみません、ボクと貴方はどういった関係で⋯⋯」


「幼なじみだろ! そして二人で厳しい試練を経て勇者の称号を得た、忘れたのか!?」


このリュウオウって人、圧がすごい。

何かを伝えるのに一生懸命なのか、常に叫び散らしてきて耳が痛い。

幼なじみ設定なのか知らないけど、この人と二人旅は絶対に無理だ。


「あの申し訳ありませんが、ご一緒は無しという事で⋯⋯」


「それは無理だ! そしてなんだそのワンピースは、女の様な見た目をしていると思ったが、遂にそっちに目覚めたのか!!」


リュウオウさんは、僕の服について触れてくる。

僕の性別が分かるってことは、幼なじみというのは本当なのだろう。


「ボク可愛いからいいじゃないですか。王様、そろそろボクは旅立ちますね」


「まて、本当に俺を置いていくのか! それ相応の理由を聞かせてもらおうか。それに俺は女みたいだからと、決してノエルに手を出したりはしないが!!」


「声がうるさいです。あと幼なじみだそうですが、僕にはリュウオウさんと幼なじみだった記憶がないです。そして、二人で毎日を過ごせるとは思えません」


とりあえず思いつく限りの理由を羅列する。


リュウオウさんは僕の話を聞いて怒りに満ちて

いるのか震え出した。

少し言い過ぎてしまったかと、リュウオウさんの機嫌を伺う。



「ノエルの思いの丈は伝わった。だがそれでも、魔王を倒す為には二人が最善だ。だから今ここで決闘をして俺が勝ったら二人で冒険に行くぞ!」


「え、決闘」


「王! それでいいですよね?」


「わしもそれでいいと思う」


「よしっ、許可降りた! でやぁぁぁぁ!!」



ボクの意志を完全に無視した状態で理不尽な決闘は始まった。

王の許可が降りた途端にリュウオウさんはボクに殴りかかってきた。


喧嘩なんてした事ないのに、勝てるわけが無い。

もうそろそろ夢からさめてほしい。



「くらえ、ノエル!」、リュウオウさんはボクに拳を繰り出してくる。


「ほんとにっ、体格差考えて下さい!」、すんでのところで拳を避ける。

当たっていたらきっと大変な事になっていた。


リュウオウさんは日本人離れした身長をしているが、かく言うボクは恐らく百五十センチ弱程度だ。

拳の勝負なら、圧倒的にボクが不利なのは誰が見ても分かる。



「隙ありっ! 油断したなノエル!」


「ひゃっ!?」



リュウオウさんはボクの腰まで伸びた銀髪を掴んで引っ張ってきた。

こいつ、こういう事をしてくるのか。


そして後ろから羽交い締めにされた。

体感したことの無い程の力で締め上げられ、痛みと共に抜け出すことが出来ないことを直ぐに悟った。


そして相変わらず夢からは未だに覚めない。

もしかしたらここは夢ではなくて紛れもない現実で、元いた世界とは別世界なのではと思ってしまう。



「どうだ、ノエル。降参しないとこのまま骨が折れるぞ⋯⋯お前の華奢な身体を折るのは容易いからな」



リュウオウさんがボクの耳元で囁く。

その声色からは先程までとは違って真剣みを感じる。脅しではなく恐らく本気だ。

勝負では一切手を抜いてくれはしないということか。


多少足掻いてみても、抜けられる感じはしない。

こうなったら頭脳戦に持ち込むしかない!



「う、うえぇぇぇん⋯⋯」


「ちょ、ノエル? 勝負中に泣くなんて勇者として⋯⋯」



この手はあまり使いたくなったけど、もうなりふり構っていられない。

ボクは大声を上げて大粒の涙を流してで泣き始めた。


羽交い締めにされて泣き喚くボクの姿は、第三者が見たら小さな女の子が筋肉隆々の男に虐められているようにしか見えないだろう。


そなら周りは確実にボクの味方につくはずだ。


そう!ボクの作戦名は⋯⋯「空気感的にリュウオウをアウェイな状態にして勝っちゃうぞ」だ。


下衆かもしれないけど、この作戦で見事王の前で勝利を収めて一人旅に持ち込んでみせる!! 勝負はこれからだ!





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