読後に見直すタイトルの説得力

 悲惨な境遇から道を踏み外してしまった男性と、その彼を真っ当な人生へと引き戻した幼なじみの女性の、決して幸せではない来歴と行く末の物語。
 現実に存在する種類の苦難・苦悩を描いた、まさに現代ドラマ、という趣の作品です。
 分量は4,000文字弱と非常に短く、さらに内容(作中の出来事)も非常にシンプルでありながら、しかしどうしようもなく胸に食い込んでくるものがある。一見なんてことのない表現の、その細部に宿るニュアンスの威力というか、こちらの情動を揺さぶるその手管が本当に凶悪でした。いわゆる〝エモ〟を、でも表現や描写そのものではなく、そこから読み取れる部分にのみ乗っけて内側から刺してくる、この感じ。まさに「物語を読んでいる」からこその楽しみ。
 いろいろと魅力はあるのですけれど、特に外せないのがこのあまりにも綺麗な最後の締め方! タグにもある通り完全なバッドエンドで、出来事自体は決して後味の良いものではないはずなのに、それでもスッキリ割り切れてしまう心地の良さがある。当然の帰結としてそうなるという納得感と、なによりそれを語る言葉の匙加減。饒舌すぎず、でも決して不足のない感じ。最高でした。
 あとはもう、文章からじわっと滲むような人間の手触りが大好き。ろくでもない人の嫌な部分も、涼子さん(幼なじみの女性)の魅力的なところも。セリフや振る舞いの節々から、彼らの人としての形を読み取る感覚が楽しい、丁寧かつ細やかな作品でした。

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