第7話 キャッチボール

 奏音が部活に顔を出さなくなるそれまで、京香はほとんど奏音とキャッチボールをしていた。しかし、最近は部活に顔を出せない為、他の部員と行う事が多くなっていた。


 初めは違和感があった。


 しかし、最近はそれに慣れてきており、相手の癖なども把握し始めている。


「ねぇ、京香ぁ。途中まで一緒に帰らん?」


 練習も終わり部室で着替えている時に、最近、良くキャッチボールをする同じ二年のでショートの愛海まなみが声を掛けてきた。


 今日も一人で帰る予定であった京香は、愛美の誘いに二つ返事で了承した。


「良かよ、愛美んってどこら辺なん?」


「うちは、坂本酒店の近く」


「そったいっ!!結構近所やんっ」


「そうなん?知らんやったぁ」


 そんな二人のやり取りを、少し離れた所から見ていた絵理子と佳苗。


「最近さ、あの二人仲良かね」


「うん、キャッチボールもずっと二人でしよるしね」


「とうとう京香も奏音離れしたんかな?」


 二人のそんなやり取りなど知らず、京香と愛美が楽しそうにお喋りをしている。着替えも終わり、部員達が部室を出ると、副部長の絵理子が扉に鍵を掛けた。そして、部室の前に集まっている皆に、お疲れ様でしたっ!!と挨拶をすると、集まった部員達も大きな声で返し、それぞれが家路についた。


 ちょうどその時、部活が終わる頃と実行委員の仕事の終わりが重なった奏音が、京香と帰れるかもと急いで学校の玄関からグラウンドの方へと走っていく。


「いた……京……」


 大きな声で京香を呼ぼうとしたが、ぱたりと口を閉じた。ずっと先を歩く京香は、部室では話し足りなかったのか、愛美と二人並んで楽しそうにお喋りをしながら正門を出ていく姿を見たからだ。


「そうやんね……ずっと一人で帰っとる訳なかよね」


 肩にかけた鞄の紐をぎゅっと握りしめる。別に京香が自分以外の誰と帰っても良いはずである。それなのに、なぜだか胸の奥にとしたものを感じていた。


 そして、とうとう体育祭当日を迎えた。


 晴天に恵まれ、競技なども滞りなく行われ、無事に体育祭も終わる事が出来た。実行委員として慌ただしく動き回っていた奏音は、最後の片付けが残っていたため、他の生徒立ち寄りも遅い下校となった。


 そんな時に、同じクラスの実行委員である河原から声をかけられた。


「途中まで一緒に帰らん?」


 奏音は突然の誘いに対しびっくりしたが、最近は同じクラスの実行委員として、河原と共に過ごす時間が多かった事から、特に断る理由もなく一緒に帰ることにした。


 二人並んで歩いてはいるが、特に会話も無く、重苦しい空気だけが漂っている。奏音は、これが河原じゃなくて京香なら楽しいんだろうなと思っていた。


「あ、あのさ、相田……」


 突然立ち止まった河原から名前を呼ばれた。


 そんな二人のやり取りを、絵理子と佳苗が見ていたなんて河原も奏音も知る由もなかった。

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