第4話 海水浴

「うぅー」


「みぃー」


「だぁー」


「ふっふーっ!!」


 雲一つない青い空、これでもかと照りつける真夏の太陽、寄せては返す波の音、きらきらと眩しく光る渚。


 遠くまで続く防波堤の上に、真っ黒に日焼けした少女が四人並んで、海に向かい叫んでいる。その姿を少し離れた所から、ソフトボール部顧問の原田が眺めていた。


「青春しとんなぁ」


 今日はソフトボール部の盆休みに、予定のない者だけで集まり、原田の引率で海へと遊びに来たのだ。


 その中に、京香と奏音の姿も見える。


 二人の住む海沿いの町にある、猫の額ほどの砂浜とそこから伸びる防波堤。


 この町に住む子供達は、この防波堤から飛び込み遊ぶ事が当たり前なのである。


 決してお洒落な水着など必要なく、スクール水着の上からTシャツを羽織り、足にはビーチサンダル。


「行っくよぉ~」


 いの一番に飛び込んだのは、同学年でピッチャーをしている絵理子えりこ。ピッチャーをやっているだけあって、度胸だけは人一倍ある。


「続けぇ!!」


 絵理子とバッテリーを組む佳苗かなえも飛び込み、絵理子と二人で海面から顔を出し、京香と奏音の二人を手招きしている。


「気持ち良かよぉ!!」


 二人の手招きに誘われる様に、京香と奏音が同時に飛び込んだ。大きな水しぶきと共に海中に沈んでいく。


「ぷはぁっ!!」


 京香が海面に顔を出し、大きく息を吸った。しかし、奏音はまだ浮かんでこない。三人がきょろきょろと奏音の姿を探している。


 とその時だった。


 京香の頭が海面から消えた。それを見て驚いた二人が慌てて京香の元へと近寄ると、今度は海面へ京香と奏音の二人が浮かんできた。


「びっくりしたやんねっ!!」


 奏音が海へと飛び込んだと同時に深く潜り、京香の足を引っ張って海中へと引き込んだのである。


「驚いた奴の負けぇ」


 してやったりの表情をしている奏音。それを見た三人がけらけらとわらっていた。


 それからしばらく、海の中で遊んでいた四人が砂浜へと上がってきた。そこには、ビーチパラソルの下でのんびりと原田が本を読んでいる。


「先生ぇー、お腹空いたぁ」


「おう、昼飯食おうか?」


 砂浜で昼ご飯を食べ、少し休んだらまた遊び、そして少し休む。それを何度も繰り返して行くうちに、夕方になっていた。


「お前ら、そろそろ帰るばい」


 原田は立ち上がり、海に浮かんでいる四人へと声を掛けた。その呼び掛けに気づいた四人が浜へと上がったきた。


「もう夕方かぁ」


 絵理子が空を見上げながら、まだまだ遊び足りない様子で呟いた。そして、四人並ぶと原田は写真を撮ってもらうと、それぞれの携帯へと送信してくれた。


 そして、手分けして片付けていると、京香が奏音の元へとやってきた。


「楽しかったね」


 ふんわりと微笑みながらそう言う京香。


「また来たいね」


「みんなとでも楽しいけど、今度は二人で来ようね」


「だねっ」


 肩と肩をとんっとぶつけ合いながら笑う二人は、いつまでもこんな日が続くと信じて疑わなかった。

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