第2章 結界の外と交流しよう

収穫祭

エルフ達が山にやってきて半年。


ヒロシの魔法で作られた結界に覆われた実り豊かなこの村では、5度目となる畑の収穫が行われていた。


米についても既に大きな実をつけた稲穂が重そうな頭を垂れて刈り取りを待っている。


結界の中は絶えず最良な温度や水分量の調整が行われており、無駄な雑草や害虫もシャットアウトしているので、あまり手を加えなくてもどんどん育つ。


畑も種を植えたら、1月も経てば収穫を迎える物も多く、この村の住人だけでは食べきれないほどの量を確保できている状況だ。


「ヒロシ様、今回もこれ程多くの野菜や果物が収穫できマシタ。

お納め下さいますヨウ。」


「いやいやカザミさん。もう5回目のやり取りですよ。俺に献上なんていらないですから。


俺達も自分で作っている分で充分なんですからね。


皆さんで作ったものなんですから皆さんで食べて下さいね。」


「しかしヒロシ様。既に我々の倉庫もいっぱいになっております。是非お収めヲ。」


「うーーん、困ったなあ。確かに食べきれないほどの量が備蓄されているし。


瞬間冷凍倉庫で鮮度を保ったまま保管しているから傷みはしないんだけど。


それでもドンドン増え続けるから、物理的に保管は難しくなっているなあ。」


瞬間冷凍倉庫とはヒロシが魔法で作った倉庫。


瞬間冷凍技術を使って、魔石に溜めた魔力で長期保存できる優れもの。


この山をヒロシが購入した理由の一つが、日本でも珍しい豊富な魔力量だった。


基本的に日本に魔力など存在しないのだが、一部の地域にだけ魔力の存在する場所が点在するのをヒロシは見つけていた。


その中で最も魔力量の大きかったこの山を、ヒロシは購入したのだった。


この山を購入後、魔力量が豊富な原因をヒロシは探していた。


その調査の結果、この山に豊富にある岩石の一部に魔力を保存して置ける性質があることを突き止めたのだ。


この魔石を使って作った倉庫に、瞬間冷凍技術の魔方陣を書きこんで作ったのが瞬間冷凍倉庫である。


既に倉庫の数も3つになっている。




「ヒロシ様、米も豊作が予想されますノデ、このままでは倉庫も足りなくなり、また倉庫をお造り頂かなければならない状況デス。」


「ほんと、豊作は結構なことなんだけど、弱ったもんだね。


外に売りに行くにしても、ここの場所は秘密にしているし。どうしたものかな。


.......


そうだ、とりあえず米の収穫が済んだら、収穫祭をやろう。


いくら豊作が続いてもみんな質素な暮らしを続けているから消費しないんだよ。


毎日贅沢する必要も無いと思うけど、年に数回は収穫祭で思いっきり消費しない?」


「...そんな、大そレタ。」


「いいじゃない。カザミさん、みんな頑張っているんだからさあ。


やろうよ、収穫祭。」


「ハーーー。ヒロシ様のご提案とあれば。」


「そんな堅苦しく考えないで。パーッといこう。パーッと。」


世間ではこのヒロシの行動は『現実逃避』とも『先送り』とも言うが、まあヒロシ

が本来持っているおおらかさがなせる業だと思って頂きたいところだ。


それはともかく、3日後の稲の収穫が終了した翌日から3日間収穫祭を行うこととなった。


収穫祭に向けて準備を始めるミーアとムムさん。


収穫祭ということで農業リーダーのムムさんが収穫祭の取り仕切りに任命された。


ミーアは「面白そうだから」だそうだ。


ムムさんの指揮の下、レンさん達は料理に、ラシンさんは飾り付け、ヤムルさんとシンバさんは櫓や屋台等の造作物をそれぞれ担当している。


そしてあっという間に稲刈りも終了。


予想を超える収穫があったが、現代の稲刈り機や脱穀機なんかでその日のうちに倉庫の中へ。


予定通り翌日から収穫祭が始まったのだった。




「ミーア様、収穫祭の開始の挨拶をお願いしマス。」


ヒロシが堅苦しい挨拶を断ったのでムムさんがミーアにふった。


「みんなーーーー!!!、収穫祭始っじめるよーーーーーー!!!!」


「「「「「オーーーーーー」」」」」


なんとも大雑把なミーアの掛け声で初めての収穫祭が始まったのだった。


笑い声を上げながら走り回る子供達。


その様子を微笑みながら眺めるレンさん。


シンバさんの作る屋台の焼きそばを頬張ってほくほくのラシンさん。


祭壇のように誂えられた正面の棚に置かれた数々の作物を前に感慨深げにたたずむカザミさんとヤムルさん。


おや、ミーアとアスタは電車ごっこをやっているぞ。


地面に線路を描いて田んぼの周りをグルグル回っている。


「「ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、シュッポー」」


「ミーアーー、アスターー、楽しいかーーーい!!」


「ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、シュッポー、ヒロシーーー、楽しいーよーーーー。」


俺の前を通り過ぎる時に声を掛けると嬉しそうに答えるミーア。


身体をロープで引っ張られ少し恥ずかしそうにしているアスタ。


でも口からは小さく「ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、シュッポー」の声が聞こえているな。


「僕もイレテーーーー」


レンさんの子供のピーターが駆け寄ってきて電車と並走。


アスタがロープを上げてミーアとの間に入れてあげている。


「「「僕もーーーー」」」


それがきっかけになったのか、次々と他の子供達が寄って来る。


ロープが足りなさそうだなと思い、ロープを取りに行こうとすると、長いロープを持ったムムさんが微笑みながらやってきた。


「これをどうゾ。」


「ありがとー。」


丸く繋いだロープを受け取ったミーアがいままでものと交換すると、8両電車の完成。


「いくよー。出発進行ーーー!!!」


「「「ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、シュッポー」」」


その光景をほのぼのと見ているレンさんとムムさんの前を、長くなった電車が何度も何度も通過していったんだ。



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