各話ボツ集

ボツ集(初期出だし集72.~


72.(出だし文


「わかってると思うけど、ぼくが転星で最初に行きたい文明はきみの思ってる通りだ」


 考えたくない答えを、先に言われて章子は茫然と昇を見る。


「咲川さんは、最初はどこへ行きたいと思ってたの?」


 まるで間違い探しか罰ゲームのような質問だと章子は思う。これで章子が何かを言えば昇はそれに〇か×かの容赦ない採点を下すのだ。


「わたしはなんとなく最初のリ・クァミスだと思ってた」


 地球転星と同じ順番で、転星に息づく文明世界を巡る。章子はそのつもりでいたのに、



74.(初回貼付時の初期出だし



「明日、ぼくは一人で目的地に行こうと思ってる。何を使って行くかも言わないよ。目的地で会おう」


 閉園時間が迫った頃、昇からそう言われて、章子は地下鉄の入り口で彼と別れた。

 動物園の正門から地下鉄の入り口まで歩く道中、話す事はいくらでもありそうだったのに、昇とは終始無言だった。

 家族のことも友達のことも昇とは話せないまま互い沈黙を続けて地下鉄の出入り口まで来てしまった。


「わたしは一緒に行きたい。ダメ?」


 章子は、地球から転星へ出発する場所にも昇と一緒に行きたいと思っていた。どうせこれからもずっと一緒に行動するのだ。それなのに地球で最後の目的地に二人で一緒に向かうことを何故そんなにも嫌がるのだろう?


「咲川さんて本当に積極的だね」

「わたしが死んでも、またこの人生をずっと繰り返すなら、絶対に後悔したくない人生を送りたいから」


 同じ人生をこのまま幾度も繰り返してしまうなら失敗しても後悔したくない人生として記録されて歩みたい。その決意が章子をここまで大胆にさせている。


「だったらぼくもそんな人生は繰り返したくない。ぼくは一人で行きたい。この人生がぼくだけの人生として永遠にこの現実で決定論として決定されているなら、明日はぼくが一人だけでその目的地まで行くという人生を歩みたい。きみとは目的地で会いたいと思う。楽しみにしてるよ」

「なんで?」


 章子は昇を見た。男子の孤独でいたい願望を、一緒に過ごしたい少女の心には理解できない。


「なんで、わたしと一緒に行きたくないの?」

「遠足じゃないから」


 昇の一言が、今も遠足気分が抜けない章子の心を深く抉った。


「きみにとってはこれからの旅がどういうものに映ってるかは知らない。でもぼくにとっては遠足じゃない。きみと笑って地球で最後にいられる場所まで一緒に行くなんてできないよ。ぼくは独りでこの地球せかいをゆっくりと最後までて、そこに向かいたいんだ」


 昇の偽りのない言葉が、章子の心を更にどん底へと突き落とす。


「また……、わたしをフッた」

「謝らないよ」

「振り向かせてやる」

「魅力的になった咲川さんを楽しみにしてる。明日、目的地で会おう」


 昇がそうは言っても、章子はいつまで経っても地下鉄の出入り口の手前から階段へと歩き出すことができずに突っ立ったままでいる。

 それを認めると今度は昇がじゃあ、と言い残して踵を返し躊躇ためらいなく反対方向の夕闇の街へと歩きだした。これが今日の別れ方だった。

 章子は棒立ちの状態で、地下鉄の出入り口から離れていく昇の背中を見送る事しかできない。本来であれば今晩は章子が見送られる側のはずだったのに、いつの間にか章子が離れていく昇を見送っている。


(なんで?)


 章子は雑踏の夕闇に消えようと小さくなっていく昇の後ろ姿を見て思った。


 なぜ昇は自分とこれほどまでに考え方が違うのだろう。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る