第3話 看病、罪悪感

「私のほうがてっきり早く亡くなるんだと思っていたよ」

 老人は痩せこけ関節が曲がった指で、若々しい友人のてにそっと触れた。友人は三年前から寝たきりで、老人のベッドルームを占拠していた。老人は友人の隣にソファベッドを運び込んでそこで寝起きをしていた。

「耐用年数からもう十五年ですからね……替えのパーツももうありません」

 友人は、つるりとした顔に僅かな顔の凹凸があり、目の位置にはすっと線が描かれている。そこにレイヤーをかぶせてアバターを作り、特殊なコンタクトレンズを装備して見れば、彼の顔は北欧風の整った美青年だ。けれど老人はもう何年もコンタクトレンズを装着していない。だから、今日も友人本来のツルリとした陶器のような白い顔を眺めている。

「しかし、貴方の最期を看取るのは私だと、私も思っていました……」

 友人はもう指一本も動かせぬ様子で、天井を見ながら喉元から音声のみを発する。

 介護用のロボット。それが友人の正体だ。生産元の企業が潰れて十年。企業は老人に回収を持ちかけたが、老人はそれを断った。彼はすでに老人の友となっていたからだ。

 穏やかな、けれどどこか雑音混じりの声が動かぬ声帯から発せられる。

「……私の、ロボットの最期を看取ることになって、後悔はありませんか?」

「後悔はないな。……君に私の看病や看取るという仕事を与えてやれなくて、罪悪感はあるが……」

「それこそ、気にしないでください。……次のロボットも、貴方の良き友となれるよう祈っています」

 それで最後だった。

 彼は、老人の友人は静かに息を引き取って、老人は一人密かに微笑んだ。

「……済まないな。替えの、次のロボットなんて手配していないんだよ。君以上の友はいなかった」

 その翌日、ロボットの埋葬を終えると、小さな老人ホームへと老人は引き取られていった。

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