第11話 ストレングス部隊十七番地区詰所

「いやいや、これは完全に僕のミスだ」

アシェルの話を聞いたミドウィンは平謝りだった。

詰所の二階には、幹部三人がそろっている。プーが、窓から差し込む昼の光を浴び、うつらうつらしていた。

テーブルの上には、倉庫の周りの簡単な見取り図が置かれていた。入り口近くに、小指の先ほどの輪が描かれ、輝光砂が落ちていた個所が示されていた。

「まさか光る砂なんて物が現場にあるなんて、思いもしなかったからさ」

「本当に大ミスだぞ。なにか変わった物があったら報告するのもお前らの仕事だろ」

「そう言うなって。だから朝イチで倉庫の前を調べ直したし、こうしてわざわざ巣を抜け出して詰所にまで報告に来たんだ」

「まあ、光の中にある輝光砂は、普通の砂とほとんど見分けがつきませんし」

ファーラがミドウィンの肩を持った。

「それで、これからどうするつもりだい?」

ミドウィンの質問に、「そうだな」と少し考える。

「ファーラ、一階組と協力して、ここ数週間フレアリングからこの街に来たものを洗ってくれ。そもそも遠い国のことだ。数は多くないからそう難しくないはずだ。港の記録を閲覧できるよう、一筆書くから」

船から港へ降り、街へ下りるには記録が必要だ。

それを調べれば怪しい人物が浮上するかもしれない。フレアリング産の砂を靴底に付け、ラクストが一人残っていた倉庫に入って行った人物が。

「わかりました」

「ハーミットは、関係者の靴を調べてくれ。痕跡が残っているかも知れない。サイラスも手伝ってやれ」

 ミドウィンとサイラスが思い思いの返事をする。

「これで、犯人が見つければいいんだが……」


ミドウィンは箱の穴から顔をひき抜いた。仮面のくちばしが少しジャマそうだった。

「輝光砂はついてないね」

ミドウィンが急遽(きゅうきょ)作ったその箱は、てっぺんに小さな穴が開き、横の一面には黒く分厚い布がカーテンのように吊るされている。そのカーテン部分から靴を入れ、上の穴をのぞいて使うものだ。靴底に輝光砂が付いていれば光ってみえる。

「その靴で最後ですよ、ミドウィンさん」

 サイラスは結果をメモに書き込みながら言う。

ディウィンの家兼事務所の玄関前に、靴が並べて置いてある。家族全員の物だが、数はそんなに多くないのは助かった。

「どうも協力ありがとうございます」

ディウィンがペコリと頭を下げた。

「じゃあ、お調べ頑張ってくださいね」

 あいさつをして、二人は事務所をあとにした。

「フェリカさんの家でしょ、フェリカさんが働いているお店の店員さんの家、これで関係者とその家族の分全部終わったかな」

 サイラスが指を折りながら言う。

「だね」

ミドウィンは、腰を反らせた

「あー、もうずっとしゃがんでたから、腰痛くなっちゃったよ」

「ハハ、大変でしたよね。数が多かったし」

詰所への道をとぼとぼたどりながら、サイラスはため息をついていた。

「結局、誰も輝光砂のついた靴を持っていませんでしたね」

「もう捨てちゃったのかもね~」

「しかし運がないよなぁ。こんなに調べて何も見つからないなんて」

サイラスがため息をついた。

「まあまあ、そうしょげるなって。なんかおごってやるから」

 ミドウィンは言った。

「わあ、ホント! ありがとう! そういえば、星見の坂に屋台が出てたって、ディウィンさんが言ってたけど。そこは?」

「ええ? つい昨日、昼時にそこを通ったけど、屋台なんてなかったよ? もう場所変えたんじゃない?」

「マジでぇ~!」

 サイラスが空を仰いだ。

「よりによって、食べに行こうとしたらなくなってるなんて。なんか本当に運がない!」

結局、帰り道の途中で菓子パンを一個買ってもらって、サイラスは詰所に戻ってきた。

二階にあがり、戸を開けると、ファーラはまだ調べに出ているようで、アシェルとプーがいるだけだ。

ミドウィンは、詰所のテーブルの上に木箱を置き、ポンと叩く。

「アシェル。君に言われた通り、係者全員の靴を調べてみた。この秘密兵器でね」

「もー、大変でしたよ!」

サイラスが書類をアシェルに手渡す。

その声に起こされたか、すみで寝ていたプーが頭を持ち上げ、また下ろした。

「で、その結果、残念ながら証拠品を見つからなかったと」

 報告書を読みながら、アシェルが渋い顔をする。

「まあ、そうだろうな。俺が犯人だったら、犯行の時身に付けていた服や靴やハンカチはすべて処分する。どこから足がつくか分からないからな。我がストレングス部隊は優秀だから」

「うわあ。犯人が僕たちをそこまでかってくれるのは嬉しいけど、皆が皆、隊長みたいに慎重だったら、もっと苦労するだろうな」

 サイラスが言った。

「事件直後に調べたならまた違ったんだろうけどね~!」

 ミドゥインは悔やむことしきり、といった感じだ。

「というか、そもそも必ずしも事件関係者の中に犯人がいると言い切れないしな」

 ぼそっとアシェルが呟いた。

「ああそうか。たまたま倉庫に泥棒かなんかが入って、一人残ってた被害者とばったり、てこともありえますもんね。たしか、ファーラさんと一階組がフレアリングからこの街に来た者はいないか調べているでしたっけ?」

「ああ。まだちょっと結果が出るまでには時間がかかるだろうけどな」

 もしそうだったら関係者でない分、捜索範囲は広くなる。

アシェルはため息をついて机に突っ伏した。

「なんか、捜査の進展どころか糸口すらつかめてないんじゃないか、これ?」

「そこから何か突破口を見つけ出すのが、隊長のつとめだろうに」

「うう、プレッシャーをかけないでくれ、ミドゥイン」

「じゃあ、もう伝えることは全部伝えたから」

そう言って部屋を出て行ったミドウィンと入れかわるようにして、一階組のリエソンが入ってきた。

役職はまだ持っていない物の、ミドゥインはボランティアでなくれっきとしたストレングス部隊の一員だ。茶色い髪と目の、誠実そうな青年だ。

「アシェル隊長、教会から連絡があって、今から三十分後に被害者の埋葬を行うそうです。身寄りがないので、費用は教会のご厚意で」

「よかったー」

言ったのはサイラスだった。

「お葬式もしてもらえないなんて、ラクストさんかわいそうだもんね」

「ああ、そうだな。じゃあ、俺は少し葬儀に顔出してくるわ。出席者の中にこちらの把握(はあく)していない知り合いがいるかも知れないし」

アシェルはそう言うと、懐中時計を確認した。

「それこそ、そこから何か糸口がつかめればいいんだがな」

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