幸せを知って
私には一人の娘がいる。もうすぐ小学校に入る幼い娘だ。裕福とは言えない我が家の暮らしを毎日笑顔で過ごしてくれる私の希望だ。1Kの小さなアパートの一部屋、子供ならば大きな部屋で遊んだり外で親と遊びたいそう思っても可笑しく無いのに、保育園で長い間私を待っていてくれる。保育園。本当は幼稚園に預けたかった、でも私の労働時間などを鑑みるとどうしても幼稚園では厳しい。私が貧しいばかりに娘に苦労ばかりかけている。
「お母さん」
娘は私の顔を真っ直ぐ見据える。
「なあに?」
「わたしもごはんつくる」
決心する様に彼女は言った。
「火使ったり、包丁使ったり危ないからまだダメ」
彼女の気持ちはとても嬉しい。
「じゃあ、おせんたくする」
娘はそれでも私の事を労ってくれた。
「あら、ありがとう。じゃあ乾いた洗濯物畳んでもらっても良い?」
素直に少し甘えることにした。
「うん!」
「でも、遊びたくなったらすぐに言ってね。遊んで良いんだから」
私の負担を、娘に押し付ける様で少し胸が痛んだ。
「ううん。お母さんにやすむじかんをつくるんだ」
「まなみ…」
私の娘はどれ程愛らしいのだろう、このようなことを子供に言わせてしまう自分の弱さがとても恥ずかしかった。貧しさに耐え、それでも私のことに気を遣って自分の大切な時間を犠牲にしてくれる。これもまた私の新しい罪なのだろうか?いや、私が背負った重い罪を娘にも肩代わりさせ一緒にバチを受けさせてしまっているのだ。私はこの子を立派に育ててみせる。それが私の贖罪だから。
「今度、どこか行きたいところとかない?」
「おうちでいいよ」
「遊園地とか行ってみたいところないの?」
「お母さんといっしょだったらどこでもいいよ」
「…」
「お母さん?」
「わかった、私遊園地行きたい」
「いいの?」
「ええ、少ないけど貯金もあるから」
「やった!」
いくら遠慮していたよしてもやはり子供だ、遊園地には行きたかったのだろう。私はどれだけ我慢させていたのだろう。長い間一人にさせ周りお家は何処そこに行った、何を食べたと言ってるのにまなみは何もない。休日も基本お家にいて私の帰りを待っている。正社員にもなれない私は、正社員になることを目指しパートとして働けるだけ働いている。両親からも見捨てられ、元夫は養育費を払ってくれてはいるが娘の大学費のために1円も使わず貯金させてもらっている。私は何も考えず偏差値の高い大学に入り専業主婦になったが、結局のところ今ではこのザマだ。まなみには、ただ頭のいいだけの子になってほしくない、自分一人でも生きていける強い子になって欲しい。
「お母さん、わたしせんたくものもたためるし、おふろもわかせるようになったの。だから、てつだえるかじはてつだいたいの!」
「良いの。あなたは自分のことを考えて幸せな人生を過ごしなさい」
「でも、」
「自分の好きなことを沢山やるの。そうすると自分の道が少しずつ見えてくるの。そうすると、やりたくないこともやらなくちゃいけないってことが分かるし、その時ってとても幸せなのよ」
「お母さんも?」
「え?」
「お母さんもしあわせなときががあったの?」
「ええ」
「いつ?」
「今よ。何もかも無くしちゃったからこそ、自分のやるべきことが、やりたいことが見えてくるの」
「お母さんはしあわせなんだ」
「まなみは違うの?」
「わたしは」
まなみは一度下を向いた。何か悩み言葉を探しているのだろう。
「しあわせだよ!わたしのやりたいことはお母さんをしあわせにすることなんだ!」
「まなみ」
私は愛を知った。愛を知ることと、愛をわかることは違う。私は愛を知ったのだ。
「私ね、まなみが私の子供で嬉しい」
「わたしも、わたしのお母さんがお母さんでよかった」
私はこの子を幸せにするそれが私の贖罪であり、これからの人生の生きる意味なのだ。
まなみ」
「なに?」
「お母さん幸せだよ」
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