じゃんけんとキャンペーン

妻がヨガスクールに通い始めてから一か月がたった。あれから妻がどんどんきれいになってくる。まるで、大学時代に戻ったみたいだ。今朝なんかも

「なあ、俺のパンツってどこに行った?」

「自分で畳んだんじゃないの」

「いやぁ、この間お前が洗ってた時に一緒に出したからどこにあるかわからない」

「一緒に出したの?」

「ああ、」

「洋服はいっしょに洗わないでって言ってるじゃない」

「別にいいだろ、洗う回数が減るし」

「そういう問題じゃないの、今回みたいにわからなくなっちゃうじゃない」

「でも、おまえの洋服と一緒にあるんじゃないか」

「知らないわよ」

「パパー」

「うん?」

「この間みゆが畳んだときに一緒に洗面所に持ってったじゃん」

「そっか、そうだったな」

「うん。朝シャワーを浴びたときに穿けるようにって言ってたじゃん」

「ごめんな、愛子。今度から気おつけるよ」

「そうして」

恥じらいが戻ってきたようだ。一時期私のことを異性としては見ていないように感じていたが、それも少しづつ直ってきたようだ。それも昔のように和気藹々とまでは行かないかもしれないが、夫婦として理想の関係ではないだろうか。亭主関白ではなく、妻と対等(家は妻の方が強い気がするが)言いたいことが言い合える中になったと思う。最近、妻がカリカリしているような気がするが、多分私が老いているからであろう。それが、美意識の高い妻には許せないのであろう。

「ママー、今日の夜ご飯何?」

「今日は角のスーパーで麺類が安かったから…カルボナーラよ!」

「やったー!」

仲の良い親子の声があちらこちらから聞こえてくる。そろそろ保育園に近づいているのが喧騒と共にわかる。

「すいません、横山みゆの父なんですが」

今日はいつもの『美幸先生』がいなかったため、おばあちゃん先生に聞くしかなかった。

「ああ、横山さんですね。みゆちゃーん!」

「はーい!」

「お父さんが迎えに来たよー!」

「はーい!」

みゆの姿が見えなかった為、遠くにいるであろうことが窺えた。

「すいません、今日はいつもの先生がいないんですね」

「美幸先生ですか?」

「はい、」

「私みたいな老婆じゃいやですかね?」

「そういうことじゃないですよ、ただ。ただ、いつもはこの時間帯にいらっしゃるみたいですから、何かあったのかなと」

急にこういうことを言われると、一体何と返せばいいかわからなくなる。対人関係は難しい…

「風邪をひかれたみたいで、今日は休んでるみたいなんです」

「そうですか、それは大変ですね」

「パパ!」

我が愛娘がただいま到着である。

「おかえり」

「ただいま!」

ああ、この笑顔だけで一週間の疲れも飛んでいく。

「さよなら、園長先生!」

「はい、さよなら」

「園長先生何ですか!」

「ええ、お気づきになられませんでしたか?」

「はい、お恥ずかしいことで」

「知らなかったの?」

「うん。園長先生、すいません」

「いいですよ。園の先生方の間でもお話に上がるようになったので、少し興味が出たもので」

「それで本日はいらっしゃったんですね」

「はい」

困ったおばあちゃんだなと思いながら、二人で帰路に着いた。先生方の間で噂話に上がるというのは、一体何の話なのだろうか?

「なあ、パパって先生たちに嫌われてたりするかな?」

「何で?」

「いや、何となく」

「他の人は知らないけど、美幸先生は褒めてくれる」

「そうか…」

良かった、なんだか知らないが悪いことではないようだ。私もママ友と関わり地盤を築かなくてはいけないかとも思ったが。

「ねえ、パパ」

「なんだ?」

「今日の夜ご飯て何?」

「多分カレーじゃないかな」

「またー」

確かに毎週金曜や土曜はカレーを食べている。私ならそれでもかまわないが娘には少し退屈かもしれない。

「じゃあ、みゆ。角のスーパーで麺類が安いらしいから、今日はカレーうどんにするか?」

「ドライカレーが良い!」

「お、じゃあ。じゃんけんだ」

私たちは、和気藹々としながら角のスーパーに向かったのである。

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