侵略はすでに始まっている

鷹無雪

プロローグ

 太陽系のとある場所に浮かぶ円盤型の宇宙船。

 その射出口から現在、とある星に向けて一機の小型宇宙艇が発進しようとしていた。

 全長二メートルほどしかない小さな楕円型の機体。攻撃手段は持ち合わせておらず、ただ惑星へと移動するのにしか適さない一人乗りの非常に小さな宇宙船。

 そしてそれに乗り込むは、まだ見た目幼い一人の少女だった。

 物心ついた時より今この時の為だけに育てられ、運命や境遇と言ったあらゆるしがらみが生まれたその瞬間から彼女を取り巻いていた。そしてこれから成功するかも定かではない危険な任務に当たる。もし失敗すれば命の保障さえどこにもない、まさに命がけの任務だ。

 ……にも関わらず、少女の顔には満面の笑みが浮かんでいた。今から知らぬ星へ送り込まれると言うのに彼女の胸には不安や不満、恐怖といった感情は一切なく、むしろまだ見ぬ星に待ち受けているそのすべてで心の中は期待や希望に満ち溢れ、自身が搭乗する機体の発進を今か今かと心待ちにしていた。


「まだかなぁ~。ほんと遅いんだからもう」


 そう焦る少女に答えるようにして、耳につけている通信機から声が流れる。



『ただいまより侵略作戦を開始する』



「お、待ってました!」


 両手を上げ歓喜する少女。その反応をスルーするかのように声は流れ続ける。



『我々の目的はこの宇宙空間に存在するすべての星の侵略にある。一つ残らず支配下に置き、我が軍の力を全宇宙に知らしめるのだ。そのためにもまずは侵略の成功が必要不可欠。そして今回その対象となったのはこの星――』



 そうして機体に搭載してある小型モニターに映像が映し出される。

 その星は青く、とてもきれいな色をしていた。

 少女は心奪われ、目を輝かせる。



『見ての通りこの星は豊富な水に覆われ、大気も充溢、そして多数の生命の存在もすでに確認済みだ。もしこの星の侵略に成功すれば、我々の目的達成のための大きな一歩となるだろう。それにはまず拠点の確保が最優先だ。……ソア、お前の役目はこの星のとある場所に降り立ち、その地の侵略を完遂させ、拠点の確保を――』



「分かったから、もうその話は何度も聞いて理解してるから。だからはやくボクをその星に送り込んでくれ!」


 駄々をこねるように声をあげる少女。だが一方的な通信なのでその声は一切届かず、それをいいことにあれこれ文句や悪口を口に出し普段の鬱憤を晴らしまくるのだった。

 そしてそんなクレームのような主張が激しさを増した頃、モニター横の信号が赤から緑へと切り変わり、通信機から聞こえる声がより一層大きくなる。



『それでは良い結果を期待しているぞ。……発進!』



「ちょ、ちょっとまだボクが喋っているんだから待って……ってうわっ!」


 けれどその制止虚しく、射出口から小さな機体が勢いよく飛び立つ。

 それはまるで儚い輝きを纏う流れ星かのように宇宙空間を進んでいく。



 そうして少女は未知なる青い星——地球への侵攻を開始するのだった。

  

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