エレベーター

Dogs Fighter

第1話 フロア -1-

暗闇の中で身じろぎも出来ず、息を殺して。

 何もできずに、救出を待っている。

 暑くて書いてる汗じゃない。

 空気が薄くて苦しいわけじゃない。


 普通にいつものエレベーターに、いつものように乗っただけだった。

 扉がスライドして閉まるのを見ていた。閉じた次の時、数回全ての明かりが明滅して消え、駆動音もなくなり完全な闇。シンとした静寂に変わった。

 非常ボタンも扉の隙間も何も見えない。何も光がない。全てが闇になった。


 暗転した瞬間は、鼓動が早まる程度には驚いた、しかし、一呼吸もすれば、すぐに冷静になれる。

 部活で試合でつちかった集中力がある。動揺は押さえきれる。プレッシャーの下でもいつもと変わらず動けるように訓練をしてきた。


 場所は一階、地下は無いのだから落下するという事もないだろう。

 ビルの管理人か利用者が気が付いたら、すぐに誰かが来るはず。

 自分は冷静だ。問題無い。

 

 自分の手すら見えないが、とりあえず押せるボタン全部押してみるか、消えてるのは照明だけでボタンの電気は点くかもしれない。

 

 記憶を頼りにパネルに腕を伸ばし指先が壁に触れ、パネル表面を撫でてボタンを探ろうとした時に、背後から服の擦れる音がした気がして指が止まる。

 そっと指を離し、耳を澄ます。音もたてないように。誰も乗っていなかったろう。気のせいだろう。けど、何の音だ?


 続けてカバンか何かを探ってるような、音が後部左から聞こえる。

 気のせいじゃない、音はこの内部でしている。

 カバンの隅々まで指を這わせて何かを探している音。

 

 気付かなかったけど誰か乗っていたのか。

 一階に止まってて、扉が閉まっていたエレベーターに?


 後ろの何かはずっとガサガサと音を立てている、何かが見つからなくて指先がカバンの底を行ったり来たりしてるようだ。

 

 探しても見つからなくて、諦めた後はどうするんだろうか。

 エレベーターのボタンを押してみようと、こっちに来るんじゃないだろうか。

 

 何をしに、何を探してるんだ?何がいるんだ?振り向いてもいいのか?

 何がいるんだ?何で何も言わないんだ?

 人なのか?こっちには気づいてるのか?

 振り向いて、何かだけ見えたらどうする?


 その時、カランと何かが落ちる音がした。

 そして、それが自分の足元にカラカラと転がってくる音がした。

 

 後ろの何かは、摺り足で移動しているのかもしれない、引きずる音が交互にしながら背後に迫ってくる。しゃがんでいるのか?音のした場所をさぐりながら。左肩のすぐ後ろで立ち上がった気配がする。


 意識を張り巡らす中で明確に思い浮かぶ。

 エレベーターが空いた時にエレベータの奥の面の鏡には詰襟の学生服の自分だけしか映っていなかったし、鏡の横にも誰もいなかった


 でも、今は何かがいる。

 

「そこに、いるんですか」

背後から声が聞こえた。


小さな振動、エレベーターはゆっくりと上がり始めた。


>> 目次に戻り 『三階』 に進む <<

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る