013 隆盛と凋落

 バジルスと4人の女性従業員を連れ、レクエルドに戻った。


「そろそろ決まったか? 名前」


 町に着いた俺は、女に確認する。性奴隷には名前がない。なので、各自で名前を考えてもらうことにした。


「いえ、まだ……」


 4人とも首を振った。


「名前でしたら私がつけた名前を使えばよろしいかと」とバジルス。


「それは奴隷の頃の名前だろう。この4人はもう奴隷じゃない。だから、名前も本人の好きに決めさせてやる」


「ですが、それですと名前が決まるまでの間、どう呼べば……」


「そうだなぁ」


 悩んでいると視界に花が入った。ちょうどいい。


「お前達、好きな花はあるか?」


「タンポポ!」


「ヒマワリ!」


「アサガオ!」


「チューリップ!」


「よし、見事に分かれたな。暫定的に、お前達のことは各自の好きな花の名で呼ばせてもらうとしよう。言い名前が決まったら教えてくれ」


「「「「はい!」」」」


 話が終わると移動を再開し、我が家にやってきた。


「4人は今日から俺の家で過ごしてもらう」


 扉を開けてバジルス以外を家に入れる。


「バジルス、お前は適当に過ごしてくれ。どこへ行こうが勝手だ。この町を出てもいい。ただし、週に1度は必ずこの町へ来るように。そして、俺の家に住んでいるリリアと、あそこの運送会社で経営しているフィリスって女と話し、人手が足りているかを訊くんだ。もし足りていないと言うようであれば、最適な人材を採用してこい」


「週に1回だけでよろしいのですか?」


「そうだ。それ以外は好きにしてくれてかまわない」


「ほ、本当にそんな好条件でよろしいのですか? てっきり馬車馬の如く働かされるのかと……」


「ウチは実力主義だからな。成果を出せばそれでいい。なので、だ。もしクソみたいな人材ばかり採用するようなら……分かってるな?」


「は、はい、それはもう、ええ、もちろんですとも」


「ならばいい。今日は解散だ」


「かしこまりました! ……ところでクリフ様、どうやってメモリアスへ行けば?」


「そうか、ここまで来るのに俺の召喚獣を使ったのだったな」


「さようでございます」


「んー、なら徒歩で頑張ってくれ」


「徒歩ォ!?」


「だって仕方ないだろ。馬は余っていないし、召喚獣はもう解除した」


「そんなぁ……」


 嘆きつつも、バジルスはメモリアスへ向かって歩き始めた。




 ◇




 それから2週間が経過した――。


「お、ヒマワリちゃんいい感じ! 上手になったね! タンポポちゃんも上手!」


 外からリリアの声が聞こえてくる。


 二階の自室にいる俺は、窓に顔を向けて彼女を見た。


「すっかり早起きになりやがったなぁ」


 元性奴隷の4人が来て以降、リリアは頼れる先輩として奮闘していた。苦手だった朝を克服し、今では俺よりも早く起きている。


 暫定的なものとして命名した4人の名前は、本人らの希望によりそのままいくことになった。


「この2週間でずいぶんと発展したものだな」


 窓の外――土地の向こうに、小さな家がポツポツと見える。クリフカンパニーやレディ・ポーターズに新しく入った従業員達の家だ。町長が「ここに家を建ててあげて」と土地を譲ってくれたので、ありがたく使わせてもらった。ヒマワリらも、今では我が家を出て各自の家で過ごしている。


 従業員の数はこの2週間で急増した。クリフカンパニーは10人で、レディ・ポーターズにいたっては12人と最初の倍だ。


 2社の従業員を合わせた22人の内、俺とバジルス以外は全員が女だ。バジルスが独自のルートから若い女ばかり採用していた。


 これだけ人数を増やしているのに、まだ人手が足りていない。種を植えた翌日に作物が実るせいだ。従業員の女性陣は皆、連日に渡って、農地を埋め尽くす野菜や果物を収穫している。


 おかげで儲かりまくりだ。冒険者の頃と違い、命を張っていないのに大金が転がってくる。とはいっても、Sランク冒険者の報酬に比べると微々たるものだが。


 レディ・ポーターズも、我がクリフカンパニーからアホみたいな量の運送を依頼されるおかげで儲かっていた。夢の黒字化など余裕で達成している。もっと言えば、そこらのちっぽけな運送会社より稼いでいた。


 ウチの会社の現状は、黄金時代という他ない最高のものだ。


 一方――。


「また失敗したのか……」


 シャドウのPTは凋落の一途を辿っていた。


 今日もそうだが、ここ最近はリビングで新聞を読む度に悲しくなる。


 シャドウのPTは、この2週間で一度もSランクのクエストを攻略できていなかった。〈影の者達〉といえばクエスト攻略の連続成功記録で有名だったが、今では連続失敗記録という不名誉な記録で名を轟かせていた。


 メンバーの入れ替えを「英断」と評していた各新聞社も、今では「〈影の者達〉はクリフの土魔法があったから機能していたのに、シャドウは馬鹿なことをしたものである」などと手のひらを返していた。


「これは……マジかよ……」


 とある新聞に、リーネが脱退する、と書いてあった。どうして脱退するのかは不明だ。


 この情報を掲載している新聞はガセネタの飛ばしが多いけれど、冒険者に関する記事だけは正確だと定評がある。バルザロスが性病にかかった時も、彼がズボン越しに股間を触る回数が普段の約1.75倍も多いなどとして、回数を計測したデータと共に性病だと報じていた。


「土魔術師と違ってプリーストはPTに必須の職業だ。シャドウが追放するとは思えんが、これがマジなら終わったな」


 上位のプリーストは他にもたくさんいる。しかし、有名な実力者は例外なく他のPTに所属しており、引き抜くのは不可能だ。かといって、そんじょそこらのプリーストでは実力が足りない。リーネは上位の中でも1・2を争う実力者だから。


「流石にここまで落ちぶれると可哀想になってくるな」


 最初の頃は、シャドウやバルザロス、リーネに対して「ざまぁ」と思っていた。だが、最近では「今度こそ成功してくれ……!」と祈るようになっていた。彼らが失敗しても嬉しさなどなく、まるで自分のことみたいに感じてため息をつく。


 これほど情けない〈影の者達〉など見たくなかった。

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