第22話 大迷宮の秘密
人類を滅ぼすつもりの大精霊様は、話を続ける。
「ですが……私はこの泉の外に出ることが出来ないので直接手を下せません。そこでジーク、あなたにも協力してもらいたいのです!」
「え…………?」
――まずい。このままでは大精霊様立案の人類根絶やし大作戦に参加させられてしまう。
「に、人間だって必死に生きてるよ。……たまにクソ野郎が居るだけで……」
流石にそれは嫌なので、俺はそう返答した。
「ジーク、あなたは優しいのですね」
優しいというか、単純に元々人間だったから無益な殺生を避けたいだけだ。
ソルトにはいつか必ず復讐してやるが、まるで無関係の人間までは巻き込みたくない。
殺してしまった時の罪悪感が凄そうだ。
「と、とにかく。俺はソルトとその仲間以外の人間をどうこうするつもりはない」
「……分かりました。愚かな人類の行いを目の当たりにし続ければ、いずれあなたも心変わりするでしょう」
残念ながら、俺より愚かな人間もそういないと思われる。
前世で大精霊様に会ってたら、真っ先に抹殺リストに加え入れられそう。
…………ナメクジで良かった。
俺はこの時、初めて心の底からそう思ったのだった。
「……ところで大精霊様」
「はい、どうかしましたか?」
「肝心なことを聞き忘れてたんだが……どうして俺のことを助けてくれたんだ?」
ふと、一番の疑問が解決していないことに気付き、大精霊様に問いかける。
「簡単な話です……あなたは……ツムリンの忘れ形見ですから……」
「……そ、そこまで密接な関係ではなかったと思うが」
「何を言っているのですか。ジークという名はあの子から貰ったものでしょう?」
「それは……そうだけど……」
「あなたは愛しのツムリンが生きた証なのです」
大精霊様は、少しだけ悲しそうな目で俺のことを見つめてきた。
何やら、知らない間に色々なものを背負い込んでしまったらしい。
それにしても、どうして大精霊なんて呼び名の立派な存在が、ただのカタツムリに並々ならぬ愛情を向けているのだろうか。
……少しだけ気になるが、聞き方を間違えると大精霊様の怒りを買いそうだからやめておこう。
「……ですから、あなたに死なれてしまっては困ります。私が保護するので、ここに居てくださいね」
「ま、待ってくれ……! まだマイホームにお腹を空かせた我が子が五匹残ってるんだ!」
「我が子の数え方がそれで良いのですか?」
「と、とにかく早く戻らないと! ――そういえば、出口はどこにあるんだ……?」
俺は周囲を見回したが、出口らしきものは見当たらなかった。
「申し訳ありませんが、防犯の都合上教えることができません」
「自分から招き入れてる時点で防犯もなにもないだろ!」
「……ここへの出入りは全て私が管理しているのです」
「何でもいいから早く帰してくれ!」
「わかりました。今から一度、転移魔法で元の場所へ帰します……と、言いたいところですが…………」
大精霊様は口ごもる。
「な、なんだよ……!」
「何と言いますか……あなたは傷を負い、五日ほど眠っていたわけですが……」
「そんなに気絶してたのか?! それなら尚更急がないと……!」
「待ってください。本題はここからです! ……ええとですね……あなたが暮らしていた大迷宮――アミラーシュの内部は濃い瘴気に満ち溢れているので……その、時間の流れが少し特殊でして……」
「……?」
「外の世界やこの泉に居る時と比較すると、だいたい一万倍の速さで時間が流れているんですよね」
やばい。何を言っているのか分からない。
「つまり、ですね……あなたが五日間この泉で寝ている間に、向こうでは五万日ほど経過してしまったわけです……あなたの子供が生きているとしたら、135歳くらいですかね♪」
「は…………?」
俺は絶望して膝をつく。
「浦島太郎じゃないんだぞ……!」
「う……ウラシ……マタロウ? 何ですかそれは?」
あんな雑魚より弱いステータスの我が子達が生き延びれたはずがない。
俺はまた、何も守れなかったのだ。
「うわあああああああああああああっ!」
「し、しっかりしてください! ジーク!」
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