第6話 ロシア人に迫られたので仕方なく応じた件 前編


 と、まあそんなこんなで――。


「ともかく、温かいうちに食べてください。冷めたら美味しくないですし、こっちも「ぶっちゃけ不味い」とは言われたくないので」


 テーブルを挟んで対面。


 半ば、諦めの境地のような表情をして、リーリヤは笑ってそう言った。


 メニューは……。

 鮭の塩焼きに海苔、そして野菜がゴロゴロ入った味噌汁に、カツオブシの乗ったオニオンスライスとご飯か。


 まあ、素直に美味そうだ。


 栄養バランスも良い感じで、俺の食生活を本当に心配してくれてるのだろう。


「やっぱお前の味噌汁めっちゃ美味いわ」


「本当ですか?」


 昨日もそうだったんだけど、褒めると本当に嬉しそうにするから、こっちまで何だか顔がニヤけてくる。


 人を傷つける言葉は自分も傷つけ、人を嬉しくさせると自分も嬉しくなるみたいな話はあるけど、あれは本当のことなんだろう……と、リーリヤの笑顔を見てるとそんなことを思う。


「ああ、本当だ。この鮭の塩焼きも美味い」


「スーパーで売ってるのを焼いただけですから、そんなの誰が作っても美味しいんですけどね」


 と、そこで俺のスマホが鳴った。


 名前を見てみると、高峰香織と表示されている。


「ちょっとすまんな、電話だ」


「あ、はい……どうぞ」


 と、許可も取ったので俺はその場で電話に出てみた。


『あ、もしもし? リョータ?』


「朝っぱらからどうしたんだよ香織?」


 と、その時――。

 俺の視界の隅で、リーリヤがビクっと震えた……ような気がした。


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