俺たちは勇者を置いて帰還しました

朝乃倉ジュウ

第1話 帰還

 勇者が魔王討伐を果たしたことを祝した祭りが王都で催されて三日目。


 早くも勇者が殺された。

 

 いや、訂正しよう。死んだのは勇者の影武者だった。本物は今も魔王城に残っている。

 いいや、やはり訂正しよう。

 勇者は魔王城から出られなくなってしまった。

 だから影武者を用意して王都に帰還したというのに、これだから人気者は大変だな。

 そうなると最初の言葉も訂正しよう。

 

 魔王はまだ生きて、勇者と対峙している。

 

 なぜ嘘を言ったのか?

 そんなのは簡単だ。年単位の長期戦になりそうだが、俺たちがいなくても当人たちだけで決着がつきそうだったから。

 俺は仲間と勇者の影武者を引き連れて、国王にもう大丈夫だと報告した。

 すでに魔王討伐メンバーは解散している。

 影武者とは知らない国王や民は、勇者の死に驚きと悲しみに包まれた。それこそ雨が降ったのではないかというほど、涙が零れ落ちていた。

 その様子を、俺や元仲間たちは眉一つ動かさないで見ていた。

 

 勇者のことをよく知っているから。

 

 そもそも影武者を殺したのは、元仲間であるガンナーのマリーだ。

 誰も何も言っていないが、キロ単位で離れていたであろう場所からヘッドショットをきめられるのは、マリーくらいだろう。

 

「ムカつく顔がヘラヘラしてるの、ムカつくよね? ね? イラッとするよね」

 

 祭りの初日に、目が完全にイッちまったマリーが俺に話しかけてきたことを思い出した。

 そしてその隣にいた召喚師のミランダが力強く頷いていたのも思い出した。

 影武者がヘッドショットを喰らって即死したであろう直後、どこからともなく現れた黒い靄を纏った獣が影武者を喰らい尽くした。

 あれ、間違いなくヘッドショットの証拠隠滅のためにミランダが手を貸したな。

 こういう時のチームワークは良かったんだよな、俺たち。

 

 二人のために、俺も動いてやるか。

 

 勇者の影武者は跡形もなく消えてしまったが、国王は丁重に弔いの儀を執り行うと断言した。そしてその功績を称えて石像の作成を決断された。

 そんな腹立つこと絶対に阻止してやろう。

 

「国王、恐れながら申し上げます」

 

 弔いの儀はまだいいだろう。だがあいつの石像なんか壊したくなる。いの一番に弾丸の跡だらけになるだろう。


「魔王討伐の道中、勇者のために犠牲となった仲間がおります。その者の犠牲無くして此度の勇者の功績は無かったでしょう。どうか、石像はその者のをお作りいただけないでしょうか。勇者もその者のことを一番に気にかけておりました」

 

 我ながら熱の入った言葉になったと思う。

 国王は勇者がそれを望んでいたのなら、と俺の言葉を信じてくれた。

 

「わかった。して、その者の名はなんという? ああ誰か、絵師を呼べ。特徴を教えてくれ。此度の魔王討伐において勇者に次ぐ功績者だ。立派な石像を作らねば」

 

「ありがとうございます。その者も、いえ、イタカも報われましょう」

 

 俺たちの中で唯一、攻撃も回復もできた万能魔術師だったイタカ。


 俺たちを騙し、魔王側としてスパイ行為をしていた裏切り者。

 

 それも今となっては俺たちも共犯者だ。だけど誰も異論はない。それを良しとして俺たちは魔王城に勇者を置いてきたのだ。

 

 それを国王も民も知らずに、平和が訪れると喜んでいる。もう十分に平和なもんだ。

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