第4章 そんなワケじゃないけど、身体の方がワケもなくいってしまう!。

第14話:初体験よりドキドキするじゃんッ!、もうッ!

2時間目と3時間目の中休み。

この中休みだけは10分休みとは違って15分の休憩だ。

わりと屋外へ気分転換に出て行く生徒も多い。

マーちゃんもそうだ。

マーちゃんはいつもこの中休みに渡り廊下へ出て風に当たる。

今日は晴れなので外に出るに違いない。

私はマーちゃんを待ち伏せすることに決めた。

チャンスは1回。

もう、追試までそんなに時間を掛けられない。

早くマーちゃんとの関係を復活させなければ。

私は今日の一瞬に賭けた。

渡り廊下へ出るドアの前に、備品を置くちょっとしたかくれスペースがある。

その奥のスペースへ入る入り口で待つことにした。

入り口の壁に隠れた私の前をマーちゃんが横切った瞬間に声を掛ける。

これしかない。

でも、これは、本当に博打ばくちで、

「乗ってくれるか」「相手にされないか」の一か八かの勝負だ。

2時間目終了のチャイムが鳴ってすぐ、

私はこのせまい入り口に入り込み、身体からだを隠してマーちゃんを待った。

入った途端に心臓がバクバクして身体がブルブル震えた。

息が苦しくなった。

逃げ出したい気持ちになった。

他の生徒が行き過ぎていくたびにドキンドキンした。

でも、そのことは考えまいとした。

でも、考えまいとすればするほど苦しくなった。

自分の気持ちが整理できなくなった。

大声で「誰か助けてええ!」と叫びたくなった。

私は、まわりの音が何も聞こえずただ石像のように固まっていた。

外から見れば静かな一人の女子生徒だけど、中では完全に狂っていた。

生徒たちが容赦ようしゃなく行き過ぎる。

5分経ってもマーちゃんはまだ来ない。

私は狂いそうになったけど、これがマーちゃんと接触するのは最後だと心に決め、ひたすら待った。

周りはワイワイガヤガヤと、笑いと勢いに満ちあふれていた。

私は自分一人がこの雰囲気から取り残されているような気がした。

この笑顔から追い出されているような気がした。

これが終われば帰れる。

私は激しい動悸どうきと呼吸困難を抱えながらマーちゃんを待った。

でも、もう10分過ぎた。

もう生徒たちは教室に戻り始めていた。

ああ、来ない……。

今日は来ないのか……。

私は諦めかけてほら穴のような入り口を抜け出ようとした瞬間、マーちゃんが私の目の前を横切った。

無表情で一人平然と前を見ながら歩く横顔が見えた。

それがマーちゃんの美しい目や鼻筋や唇だとハッキリ認めることができた瞬間、私は、一瞬意識を失い、腰がくずれ、卒倒しかけた。

倒れそうになる瞬間の視界にマーちゃんの顔が通り過ぎてしまいそうになったとき、私は咄嗟とっさにマーちゃんの顔面を目がけて自分の声を投げ付けた。

頭の中は真っ白で、私はのどから岩をき出すように無我夢中で声を発した。

「マーちゃんッ!」

突然、姿が見えないところから自分の呼び名を、

しかも私とマーちゃん以外誰も知らない呼び名を呼ばれたマーちゃんは、

幼児がびっくりしたようにキャンと背筋が伸び、

声の出どころの入り口を見てそして私と目を合わせた。

その瞬間、急ズームを掛けたカメラのようにマーちゃんのすべてが物凄ものすごい勢いでギュルギュルギュルッと私の瞳の奥に飛び込んできて、同時に、マーちゃんの瞳にも私の姿が飛び込んでいった。

「直ちゃん!」

マーちゃんがさけんだ。

「直ちゃん」だ!。

「延塚」じゃない。

「直ちゃん」だ。

やっぱりマーちゃんは私を意識していてくれた。

4年間のブランクなんて無かったんだ。

私は訳も分からずとにかく言葉を投げた。

「マーちゃんッ、私ッ、分かるッ?」

当たり前だバカ!。私、何言ってるんだろう。

でも、マーちゃんはそんな間抜けな質問に真面目に答えた。

「うッうッうッうんッ!。直ちゃん、俺、覚えてる?」

マーちゃんも間抜けだ。

二人とも大間抜け。

「お、覚えているよおおおおお!」

「直ちゃんんんんんん!」

「マーちゃんんんんんんん!」

カンカンに熱した鉄板に水滴を垂らしたように目がジュワジュワ言って、

私の瞳はウルウルにうるんで涙腺はぶわぶわとふくれ上がって目はに充血していた。

マーちゃんはもうすでに一粒の涙を流していた。

私たちは互いの両手をしっかりと握りしめ合い、腹の底から熱いかたまりを出し合った。

「直ちゃあああああん!」

「マーちゃああああん!」

声が奥のスペースにわわーんと響いて私は少し正気を取り戻した。

こんなところ人に見られたら大変だ!。

「マーちゃん、ちょっと……」

私はマーちゃんを奥のスペースへあわてて引き込んだ。

マーちゃんはされるがままに私とスペースへ入り込んだ。

マーちゃんは泣きやんでおだやかに私の名前を呼んだ。

「直ちゃん……」

やっと二人きりになれた。

幸せ……。

ずっとみしめていたい。

でも、もう時間がない。

私は必要最小限の用件だけをマーちゃんに伝えた。

「マーちゃん、今日、昼休み、空いてる?」

「うん、空けるよ?」

「大事な話があるの。屋上に来て」

「大事な話?。おばちゃん、病気したの?」

「ううん。マーちゃんの話」

「俺の?」

「うん。とっても大切な話なの。絶対来てね」

「うん……」

「よし、じゃあ行こッ。こんなとこ見られたら大変だよ。ちょっと、待ってて」

私は恐る恐る入り口へ向かい、そっと廊下へ首をひょいっと出した。

もう、生徒はみんな教室へ戻っていた。

「マーちゃん」

私はマーちゃんに合図をしてマーちゃんをうながした。

マーちゃんも恐る恐る入り口へ来て廊下を覗き込んだ。

そして二人で誰もいないことを確認して廊下へ出た。

そして急いで教室へ戻った。

戻ってお互いの席へ着いた瞬間、授業開始のチャイムが鳴った。

私は落ち着き払って教科書を出して準備をした。

しばらくして教師が入ってきて一瞬教室の空気にがあいた。

そのときだけ、チラッとマーちゃんを見た。

マーちゃんも私を見ていた。

「…、…、…」

声を上げずマーちゃんはウフフと私に微笑んだ。

私もわずかにバレないように微笑みを返した。

そして授業に向かった。

そのとき、へその上の辺りからしみじみと暖かい溜め息が漏れた……。

ああ、私は、4年間、ずっとこれを待ってたんだなあ……。

4時限目が終わって私は屋上へと向かった。

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