第3章 女の優柔不断ってカッコ悪いよなあ……。ラブコメにならん。

第12話:魔性の美少年。振り回さないで!。ベニスで死にたくなる。

市中しちゅう引き回しの授業。

バスケはマズいよなあ……バスケは……。

せめてバレーにしてくれないかなあ。

バスケってボール持ったら完全にその子が主役なわけで、

私みたいに主役になりたくない人間にとってはまったくはた迷惑な競技で、

さらにボールを持たされた日にはドリブルからパスからシュートから、

その子が持ってる技術が丸裸にされて、

技術持ってない選手のカッコ悪いこと……。

ボール持ったらみんなの視線がその子に集中してしまって、

そんでもってその子はプレーしなきゃいけないわけで、

そのときのその子は当然まるで罪人のさらし者みたいにされてしまう。

特にその丸裸が如実にょじつに表れるのがドリブル。

技術を知ってるか知ってないか。

知ってる子はクネクネと手首をコネて走りながら要するにボールをあやつる。

知ってない子は、子供の毬付まりつききみたいにぎっこんばったんと逆にボールに操られる。

これがみっともないんだじつに。

とにかく、スポーツ苦手なガリ勉女子はこのバスケが嫌で嫌で、

バレーやソフトボールみたいに誤魔化ごまかしようがないので本当に苦労する。

つまりスタイリッシュなのだバスケというスポーツは。

いつもボールが回ってこないようにドギマギしながらデキる子の後方をうろついている。

でも、デキる子も囲まれたらどこかにパスせざるを得ないので、そのときにパスが回ってきたら最悪だ。

ドリブルやる前に早く誰かに渡すしかない。

そうしないと例の毬付きをやる羽目におちいってしまうのだ。

本当にガリ勉泣かせのスポーツである。


私はその日の試合をなんとか脇役で乗り切り、

胸をおろろして更衣室に帰ろうとしたのだけど、

その日の終わりはちょっと違った。

なんと体育科の教師が、一人一人フリースローを投げて、全員が決めて終了という提案を出した。

「この人でなしがあああッ!」

と私は心の中でこのまえ深夜ドキュメンタリーで見たレッドツェッペリンというバンドのボーカルのような叫び声を上げた。

「はい、始めええええええッ!」

と体育教師が、こっちが断る余地もなく掛け声を掛けると、

女子生徒が次々に並んでフリースローを決めていき、

場外に座ってまだ決めきれない子をさかなに高みの見物をする。

決めた子はどんどん天国への階段を上ってニコニコして場外に座る。

決めきれない子は何度も何度も並んでひたすらフリースローを投げ続ける。

もう最後の方に残った生徒たちはブサイクな投げかた丸裸である。

私もハアハア、ハアハア言って何度も投げる。

でも入らない。

残りの他の生徒もゼーゼー言って投げ続ける。

それを、決めた奴らがキャハハハーと笑って見ている。

そして早めに終わった男子も見物に来る。

その中で、私ら居残り組は騎手が落ちた競馬ウマのようにひたすら前を走り続ける。

勝っても負けてもぶち壊し。

もうここまでくるとハッキリ言って拷問ごうもんである。

私は「もうこれ最後までいくな」と観念したら、案の定、最後の二人になった。

相手は浅野多久美。

なんとまあ気が利いてることか……。最高の見世物みせものである。

普段勉強で苦労している人間はここぞとばかりに笑っている。

男子は大盛り上がり。

それでも授業なので私と浅野多久美は必死で投げ続ける。

いい恥っさらしだよ。

本当に万感ばんかんの思いを込めて祈りながら投げる。

でも無情にも入らない。

くるくる、くるくる、私と浅野多久美は交互に投げて回り続ける。

そのたびに笑い声は増すばかり。

特に男子のガハハハーッとはっちゃけたのは胸にこたえる。

誰かとめて……。

すべての神と仏は死んだと悟ったところで私が決めて、その直後に浅野多久美が決めた。

このデキない子ちゃん二人が連続で仲良く決めたことがさらに野郎どもの大笑いの炎に油を注いだ。

もう体育館中大宴会である。

私と浅野多久美はひたすら小さくなって下を向いて立ち尽くす。

らししたみたいだ。

男子は笑う。

笑い声が耳に突き刺さる。

チラッと見た。

みんな目を見開いて笑っている。

いい笑顔だよ。

その笑顔があればみんなアイドルオーディションに合格するよ。

!。

ハッとした。

私はマーちゃんを探した。

マーちゃん、どんな顔してんだろう?。

マーちゃん笑ってるんだろうか?。

マーちゃんマーちゃん……。

私は、じーーいっと男子のかたまりを右から左へ凝視ぎょうしする。

マーちゃん、どこ?。

マーちゃん、やっぱり私のこと、おかしい?。

それとも私のことなんか気になんない?。

マーちゃん見てる?。

マーちゃん、どこ?。

私は必死で男子連中を見回す。

あ……。一人……。後方……。

一人だけ群れの外。

一匹狼。

遠くからでも美しい、あの大きな瞳は……。

マーちゃん。

マーちゃんは男子の塊とは離れて後方から無表情で私を見ていた。

マーちゃん、見てる。

私を見てる。

でも、笑ってない……。

みんなのように私を笑ってない。

目が合った。

私はマーちゃんを見つめる。

マーちゃんも私を見つめる。

初めて二人見つめ合った。

4年ぶりだ!。

生徒たちはまだギャーギャー笑っている。

でも、二人には聞こえない。

マーちゃん、笑わないの?。

私、すんごいカッコ悪いよ?。

どうして笑わないの?。

マーちゃんはいやすように優しくおだやかに私をじっと見ている。

マーちゃん、どういうこと?。

私はマーちゃんに話しかけていいの?。

マーちゃん、答えて。

マーちゃん、「もうこれで分かるだろ?」って言ってるの?。

私、鈍感だから分かんないよ。

私は見つめる。

マーちゃんもまた見つめる。

決して目を離さない。

顔も動かさない。

身体も動かさない。

ずっと見つめている。

マーちゃん、それ以上見つめると私はもうこれは何かのメッセージだと勘違いしてしまうよ?。

いいの?。

マーちゃん、どうして欲しいの?。

私は話しかけていいの?。

マーちゃん教えて。

マーちゃん、マーちゃん、マーちゃん……。

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