第8話:ガリ勉処女だってやろうとおもえば出来んだから、ナメんなよ!。

「イテッ!」

しまった、明らかに私の不注意だ。

「気をつけろよコノヤロウ!」

ずいぶんケンカっ早い人だなあ、と振り向くとマーちゃんたち三人だった。

でも、ぶつかったのは石川翔。だから、怒鳴どなってきたのも石川翔。

でも、私はマーちゃんを見ていた。

マーちゃん……ハンサムだなあ……。

何考えてるんだこんなときに!。

マーちゃんは視線を合わせない。

石川翔は容赦ようしゃなくめてくる。私は恐怖でマーちゃんを忘れた。

「テメエ、謝れよ!」

当然だ。私が悪い。謝るよ。

でも、みんな見てる。恥ずかしいなあ。

しかし、弁解の余地はない。謝る。

「ご、ごめん」

少し声が上ずっていた。そのまま立ち去ろうとすると……。

「『ごめん』じゃねえんだよ!」

しつこいなこいつ。

「ごめんなさい」

私はペコリと頭を下げた。

そして立ち去ろうとするとまたまた。

「何だよガリ勉さんよオ!。歩きながら勉強でもしてたのかよ!」

まいったな、からんできたよ。どうしよう?。

一発ビンタでもくらうのかなあ……。

嫌だなあ……。

背中にニジリと汗が浮かんで覚悟して歯を食いしばった瞬間、やわらかい声。

「翔、行くぞ」

マーちゃんが優しく石川翔をうながした。ドキリとした。

「でも、マー……」

「行こう」

マーちゃんは淡々と言って一人スタスタと歩いていく。

石川翔と沢田唯人はあとに続くしかない。

去っていく三人。

取り残される私……。

しばし茫然とするが、すぐに我に返る。

マーちゃん……。

救ってくれたのかなあ?。それともこんな情けない女に付き合ってられなかったのかなあ?。

分からない。

でも、知りたい。

マーちゃんの心が。


数日後の日本史。森岡真貴子の授業。

私はマーちゃんをこっそり見つめていると、マーちゃんは何だかウトウトと眠そうだった。

店の手伝い忙しいのかなあ……。

マーちゃんの首がれる。

そこへ森岡真貴子のスケベな不意打ち

「ところでこの字、覚えてる?。時岡」

ビクッとマーちゃんが頭を上げた。

私もビクッとした。

いきなり何だよ。いっつも不意打ちはマーちゃんだ。

「この字(聖)。答えて」

マーちゃんは「しまった」と虚をつかれて唇を噛みしめた。

私は絶好のチャンスだと思って……

「先生」

「何?」

「お腹の具合が……。トイレいいですか?」

「しょうがないなあ、さっさと行ってきなさい」

「すみません」

 私はノートのすみに答えを書いてそっと引きちぎり、こぶしの中に収めて立ち上がった。

わざとクネクネと席を斜めにうように進み、

マーちゃんの前を森岡真貴子に背を向けて、

答えの紙切れをマーちゃんの机に落としてドアへ向かった。

「フフ、どうしたの、時岡?」

ニヤニヤ責める森岡真貴子。

マーちゃんは咄嗟とっさに私の機転に反応し、紙切れの答えに目をやって、「本当だろうなあ……」と半信半疑で迷いながら自信なく

「ひじり……」

とだけ発した。

ウッと不意打ちが失敗した森岡真貴子だが、マーちゃんにからみたくイヤラシク嫌味を言う。

「へーえッ。さすが追試組だ。試験勉強してるのかな?。ククク」

と、ねちっこく責める。

マーちゃんは当然無視する。

それを確認して私は廊下へ出た。

一瞬の出来事だった。

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