第2話 梓(悠太)

隣で眠る、女の寝顔は美しい。


僕は自分を含めて、あまり人間の容姿には興味がない。

昔から僕は女性たちに「ジャニーズ系」と言われて、人気があった。

特に何の苦労もせずに、常に「彼女」と呼ばれる女性がいた。

その女性たちは僕にいろんなことをしてくれた。

誕生日やクリスマス、バレンタインデーにはプレゼントをくれたし、お弁当を作ったり、手編みのセーターをくれたり…。

でも、僕は一度だって彼女たちに何かを望んだことはなかった。

ただ、してくれることは、そのまま受け取ってきた。

過大な見返りさえ要求してこなければいい。僕にできることは限られている。

どんなに望まれても、できないことはできない。

女性の望むことは、年齢や個人の差こそあれ、大抵同じだった。

容姿、肉体、頭脳、ファッション、優しさ、男らしさ、そして弱さ。

それらを効果的に、良いタイミングで見せて欲しいと望んでいる。


身長175cm、体重55kg。顔は同年代の男子に比してふた回りほど小さい。肌は白く、透き通り、ニキビなどとは無縁だった。指も長く、髪の毛はサラサラんストレートで、細く、量は少ない、体毛も薄い。目も大きく、まつ毛も長い。

中学時代は、陸上の800mの選手として、県の代表に選ばれた。

頭脳には自信はないが、特に勉強をしなくても、平均以上の点数は毎回取れた。


自分の内面性は、付き合う女性によって変えた。

なぜか小さい頃から、異性の望むことがよく理解できた。

彼女たちが今、自分に何を望んでいるか、そのことをを考える方が、勉強よりも、スポーツよりも楽しかった。

僕には兄が4人いる。五人兄弟の末っ子の僕は、幼い頃から女性の寵愛を受ける術を身につけていた。7人家族の中で女性は母一人だ。いかにしてその彼女の寵愛を受けるかが、幼い僕の思考の全てだったから。

母は、一昨年、乳がんでこの世をさった。僕が15歳、中学3年生で、この世の中でたった一人の、僕の味方はいなくなった。


中学を卒業すると、都内の公立高校に進んだが、一年と経たずに辞めてしまった。

原因は、「24歳新米教師との淫行」だそうだ。

誘ってきたのは彼女の方だったが、僕は特にそれが悪いことだなんて感じなかった。13歳から年上の女性に性をおしえこまれてきた僕にとっては、「何を今更」という感じだった。

梓という名前の女教師は、結局、教師の職を辞した。その後、僕は暫くは彼女のアパートで暮らしていたが、無職の彼女の負担になるため、黙って家を出た。

彼女にはその後一度も会っていない。高校にもなんの未練もなかったので、退学届けを出して、実家を出た。

そのまま今日まで一度も帰っていない。

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