第15話 VS FURIDASHI ROUND3


重々しい音と共に城壁の一つの門が開き、大量の若者達が押し寄せてきた。


「どうなってる・・?」


戸惑うセウズを他所に、若者達は武器を掲げ、一目散に走った。


それは、各国の代表達に壱ノ国サイストラグル部。

それぞれ得意とする武器に変化した『サイウエポン』を手に、「フリダシ」に勇敢に立ち向かう。


彼らに倣い、檻に囚われていた者達も、恐いもの見たさで壁の内部に進行した。


「子ども達があんなに頑張っているんだ!私も加勢するぞ!!」


若者達に混ざり、一人の男も『サイウエポン』を手にして走り出した。


「私も微力ながら」


同じく追随する女性。

その者達は、京夜の義理の親。墨桜次郎と墨桜住子であった。


「どいてどいて!」


墨桜の二人の背中を呆然と眺めていた貴族達を掻き分け、エンちゃんら一行が壁の内部に。

一緒に引いてきた台車には、まだまだ大量の『サイウエポン』が積まれていた。


「何をボケっとしてるの!動ける者は闘いなさい!!」


うっふんと共に放たれたエンちゃんの言葉に、貴族達は互いの顔を見合う。

それから誰からともなく台車に向かい、タマを掴んでは駆けていった。


「「「うっふん!!!」」」


その度に、エンちゃんら一行は脅威のシンクロ率でうっふんポーズをしていたが、ツッコミ役は不在であった。


「・・ぼ、僕も闘うでごわす!!」


貴族達の後。武器を手にしたのは、卓男にそっくりでお馴染み。解説役のオクターであった。

腰はすっかり引けていたが、彼もまた「フリダシ」の元へと走った。



ちょうどその頃。

ゴゴゴと重々しい音を奏でながら、別の国と繋がる城壁の門が一斉に開かれた。


「「「わ、我々も闘うぞ!!!」」」


そこには、各国の住民達の姿があった。

壱ノ国に続く門と同じく、ボールの様なモノを山積みにした複数の大きな台車と、オカマ風の人物達の姿もあった。


各国の国民は、『サイウエポン』を片手に中心部に駆けていった。

中には、自身の才を有効活用している者もいた。


その数は益々増えていった。

いつの間にやら、壱ノ国の門からも国民が押し寄せていた。


国民は、国ごとに特徴があった。

弐ノ国には気性の荒そうな博徒達が、伍ノ国には戦い慣れした者達が、陸ノ国には逞しい体の持ち主が多かった。


中には見知った顔もあった。

マテナの母親であるメテスや、「シ族」であるデルタの父親などだ。


陸ノ国で調査班が見かけた、才を授かったばかりの子ども達の姿もあった。


「鶴と鷹と烏。美しくて、」

「カッコよくて、」

「泥臭い。僕たちのコンビネーションを見せてやる!」


三人の子どもはそれぞれの愛竜に乗り、「フリダシ」を目標に並走を始めた。



一行の中には、現役の若者に負けず劣らずのオーラを纏った大人も混じっていた。


「バッカーサはいないのか・・」


伍ノ国に繋がる門から顔を出したある者は、バッカーサの姿を探していた。

彼は元伍ノ国代表のメンバーであった。


バッカーサの不在を確認すると、彼の男は一思いに駆けた。

その動きは非常に素早く、素人達を置き去りにして、あっという間に「フリダシ」の懐に潜り込んだ。


名人の域に達した攻撃は、「フリダシ」の脚に確かなダメージを与えているように見えた。



弐ノ国に繋がる門から顔を出した者達は、底知れぬ圧を放っていた。

彼らは、弐ノ国代表の元主力メンバーであった。


「どれ。久々にひと暴れしようか」


元弐ノ国代表将のキングを筆頭に、彼らも渦中に身を投じた。



それぞれの門の向こうには、元零ノ国の住民達もいた。

全員が全員とは言わないまでも、そこそこの人数が集まっている。


「まさか貴族様と肩を並べる時がくるとはな」

「正直顔も見たくないが、今は仕方がない」


貴族との共闘に複雑な感情を抱いている者も確認できたが、その目つきには共通して覚悟が宿っていた。


程なくして彼らも先頭部隊に合流し、「フリダシ」の巨躯を大勢が囲む。


「ルウウウゥゥゥ!!!」


近距離からの物理攻撃に、遠距離からの援護射撃。

その一つ一つに致命傷となるような威力はなかったが、数には驚異を感じる集中攻撃に「フリダシ」は戸惑っているように見えた。


「おう、やってるな!!」


壱ノ国へと続く門の方から響く、野太い声。

そこには、京夜の実の親。墨桜一郎を筆頭に、墨桜組が揃って顔を出していた。


「行くぞ!野郎ども!!」

「頭!一生付いていきます!!」


墨桜組の面々は我先にとタマを掴み、「フリダシ」の元へ走っていった。


「貴様。どのツラ下げてノコノコ出てきよった」


途中。一郎に投げかけられた低い声。


「頭・・」

「いい。お前達は先に行け」


一郎の言葉に頷き、墨桜組の者達は駆けていく。

一郎を引き止めた声の主。初老といった見た目のその男は、一郎の実の父親。


四代貴族と称される四家の内の一つ。「ヨル」の現当主であった。


「これはこれは親父様。見ない間に随分と老けたな」

「・・・・」


初老は何も答えない。


「なんだ。話が無いなら行くぞ」

「・・まて」


短く放たれた言葉に、一郎が振り返る。


「家を継ぐ覚悟はできたのか?」


一郎はあからさまに顔をしかめた。


「おいおい。この期に及んでまだそんな話をするつもりか」


やれやれと首を振り、一郎が続ける。


「夜も墨も同じ黒。貴族も平民も同じ人間。共通の敵が現れれば、こうして力を合わせて立ち向かう。それ以外に決め事が必要か?」

「・・・・」


初老が言葉に窮していると、一人の男が近づいてきた。


「・・あれ?兄さんと親父?」


それは初老の息子であり、一郎の弟。次郎であった。


「仲直りしたんですか?」

「誰が!」「するか!」


初老と一郎は同時に声を張り上げた。


次郎が一瞬の間を開けて薄く笑う。


三人の不器用な男は、武器を手に走りだした。



「フリダシ」相手に多くの人間達が立ち向かう中、さらに増援があった。


「六下先生!」

「三上せんせー!」


門の方から聞こえる声に、六下と三上が視線を向ける。

そこにはイチノクニ学院の生徒、それから職員達の姿があった。


六下と三上が担当する、「玄」と「金」のクラスの生徒がこちらに手を振っている。


「何でここに居るの!危ないから離れなさい!」

「大丈夫だよ!力の使い方なら、先生から教わったから!」


生徒達は自らの才とサイウエポンを武器に、「フリダシ」に向かっていった。


それは力を過信した子どもの暴走ではなく、しっかりと勝機を見据えた侵攻であった。

各自、自分の長所を最大限に活かし、立ち回っている。


「食らえ、化物」

「生徒に危害を加えるようなことがあれば許さんぞ!」


それは職員も同様。主にはサイウエポンを駆使し、的確に攻撃を当てつつ、生徒をサポートしている。


「どうだ、さとみ。間違ってなかっただろ」


サイウエポンを片手に持った六下が、三上の横に移動して声をかけた。


「そう・・だな・・」


同じくサイウエポンを持つ三上が、成長した教え子達の姿を眺め、頷く。

その隣で、六下は遠くに目をやり、口を開いた。


「俺も教師人生に悔いはない。だが、現役時代に一つだけ後悔がある。さとみ、お前のことだ」


六下は一度生唾を吞み込み、言葉を続けた。


「あの日、選択を間違ったのは俺の方だ。お前の気持ちに気づきながら、自分の気持ちに正直になれなかった」


六下の言葉を聞きながら。三上は変わらない表情の下で、ある事実に気付いていた。


あの時から、この男は自分の心をロックしたまま、という事実に。


「どうだ、さとみ。やり直さないか」


六下は、意を決したように言った。


三上は、徐に空を見上げた。


そこには、「フリダシ」に攻め入る一体の竜。ムルムルの姿があった。

その背には、七菜と美波。それから翼が乗っていた。


娘の勇姿を焼き付けるように、三上が目を細める。


「・・・いいわよ。翼次第、だけど」


娘の答えをほぼ正確に把握した上で、三上はコクリと頷いた。



「あの巨体を押している・・?」


怒涛の展開を眺めていたセウズがポツリと漏らす。


その光景を一言で表すなら、総力戦。

数を増した人間達の勢いに、「フリダシ」は処理が追いついていなかった。


「「セウズ!!」」


自分の名を呼ぶ声に、セウズの意識が運ばれる。

その先には、こちらに顔を向けるハテスとポセイドゥンの姿があった。


を発動するつもりなんだろ」

「時間なら俺たちが稼ぐ。お前はソレに集中しろ」

「お前たち・・」


仲間達の頼もしい言葉に、セウズが言葉を漏らす。


『セウズ様』


と同時に、セウズの脳に直接、別の声が届いた。

安心を運ぶ音。ユノの声だ。


彼女は未だ門の向こう側に居た。

案内人やミト達も一緒だ。彼らは離れた位置から、セウズを援護する役に徹していた。


「四方八方から迫る攻撃!しかし、巨体が倒れる気配はない!果たしてダメージは蓄積しているのか!?」


ミトは、ユノの耳元で「フリダシ」との闘いを実況していた。

これが彼女の才『RAM』の発動条件なのだ。


横にはキャスタの姿もあった。

彼女は少し老けたように見えた。全盛期の肉体を保つ『永遠の18歳』の半分が、「フリダシ」によって封じられた為だと思われる。


しかし、このことを指摘する者はいなかった。

年齢の話に過剰に反応する彼女にこの事を伝えれば、待ち受ける未来は火を見るよりも明らかであるからだ。


『私が貴方の知になります。だから貴方は私を、私たちを信じて下さい!』


脳に直接届く、優しくも力強いユノの声に、セウズは覚悟を決めた顔つきをした。


「少しの間、此処は皆に任せた」


セウズはそのまま、両の目を静かに閉じた。



セウズの才『全知全能』。

この「全知」と「全能」は、本来1対1の対等な立場にある。


しかし、「全知」を奪われたことで、この均衡は破綻していた。

残された「全能」が、唯一となったのだ。


その後、キャスタの「専知」と案内人達の感覚強化により、セウズの「知」は補完された。

全ての過去と未来を知る「全知」には及ばないかもしれないが、セウズ自身が処理を行う必要がないという点は、大きな利点であった。


詰まるところ、セウズは「全知」を失ったことで、結果的に「全能」に専念する環境を得たのだ。


しかし、「フリダシ」の相手をしながらでは、攻撃に全ての能を割り振ることはできない。

攻撃全振りの「全能」を発動するには、隙と時間が必要だ。


そんな戦況に現れた、多勢の援軍。

彼らは、セウズが必要としていた最後のピースを埋める役を担った。


こうして発動の環境が整った、全てを一つに集約した「全能」。


「ルウウウゥゥゥ!?」


「フリダシ」の頭部の龍が、揃って空を見上げる。


「完全」なる「全能」。

『完全能』が生み出すは、あまりに桁外れのモノ。


上空に浮かぶソレは、一つの「山」であった。




「全員退避!!!!!」


門から響く声に、一行の視線が集まる。


そこには「メガホン」片手に声を張り上げる、キャスタの姿があった。

その「メガホン」はサイアイテムの一種であった。


といっても、付与された効果は普通のメガホンと同じ。音を大きくする代物だ。

海千兄弟の盾昌が愛用する『サイカクセイキ』と、大きくは同じアイテムである。


して、キャスタが避難指示を出した理由であるが、むろん空中に出現した山にあった。


その山の標高は非常に高く、先端は針のように尖っている。

この時点で山の正体に気づいた者はごく少数であったが、その山は壱ノ国のシンボル「風翁山」。別名『死山』であった。


これぞセウズの『完全能』。

技名を『クニオトシ』であった。


キャスタはユノ経由でこの情報を知り、いち早く壁の内部に避難指示を出したのだった。


その声に、武器を掲げた者達は、一斉に城壁の外へと逃げ始めた。



「これで全員だな」


最後に壁の外に出たオクターを眺め、セウズが呟く。

彼は門の真上、城壁の上に居た。


その眼前には、段々と高度を下げる『死山』があった。


「ルウウウゥゥゥ!?」


それと同時に、「フリダシ」の巨躯が沈んでいく。

壁内部の地上は、黒い闇に支配されていた。


むろん、これもセウズの『完全能』の効果だ。

地に沈め、山で蓋をする。これが『クニオトシ』の全容であった。


「央」の街も同様に、闇に呑まれていく。


「ルウウウウウウゥゥゥゥゥゥ!!!」


「フリダシ」の巨躯が見えなくなると同時に、城壁にすっぽり収まる形で『死山』が着地した。


その上空。

行末を見守るように開いていた一つ眼『AI』は、役目は終えたといわんばかりに、その瞳を閉ざした。


全てを見届け、城壁の上でセウズが口を開く。


「全を含んだ一。この『一』には、消滅したゴールにすら届く可能性が秘められている。俺はそう学んだ」


勝利を祝うように、強い風が吹く。セウズが長い髪を掻き上げる。

白髪と体に巻き付けた白い布が、突風に靡いた。



『陸獣』、攻略完了。

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