第25話「格好をつけさせて」

「いらっしゃいませ~、ご予約されてますか?」


「はい、二名で予約した雪村です」


「では、席にご案内しますね」


 俺とアリナは店員に連れられ席に案内された。

 ちょうど窓側の夜景が綺麗に見ることのできる席だった。俺は予約をしたとき、どれほど運が良かったのだろうか。

 予約した時が最後の1テーブル、そして窓側の夜景が眺められる席。こんなに運がいいことがあるだろうか。


 俺はそんなことを心の中で呟いた。


 席につくと、アリナが何度も瞬きをしながら俺の事を驚いた様子で見ている。


「翔くん、ここは……?」


「俺が今日のために予約しておいたんだ」


「そうだったんですね。全然気づかなかったです」


「どう? 良い雰囲気のレストランじゃない?」


「はい! 景色も綺麗ですし、私も好きな雰囲気です」


「それはよかった」


 アリナは喜んでくれているようだった。

 その笑顔を見れただけで俺は幸せな気持ちになってくる。景色が綺麗な席をとれたことも良かったが、それ以上にアリナの笑顔を見れたことが嬉しかった。


 俺はテーブルにメニュー表を広げて、アリナと一緒に頼むものを決める。


「アリナはどれにする?」


「んー、どれも美味しそうで悩んでしまいますね」


 メニュー表に色んな料理が載っていてどれも美味しそうに見えてしまい、どれにしようか悩む。

 最後のページまでめくると、そこには『今日のおすすめ』と載っていた。

 アリナの方を見てみると、アリナもそれに気づいたようでニコニコと笑っている。俺はこの料理にしようと決めた。恐らく、アリナも同じものを選ぶだろう。

 なぜか直感的にそう感じた。


「アリナ、俺はどれにするか決めたよ」


「うふふ、私もです」


「それじゃあ、同時に頼む料理に指を差そうか」


「いいですね、そうしましょう!」


「それじゃあ」


「「せーの!」」


 俺とアリナは、『今日のおすすめ』の料理を指差していた。

 予想通り、アリナも俺と同じ料理を選んだのだった。


「私たちってやっぱり相性良いですよね」


「ははは、確かにね。俺とアリナの相性はきっと、どこの誰よりもいいと思うよ」


「翔くん……。私もそう思います!」


 俺は冗談抜きでアリナとの相性は世界一良いと思っている。

 そう思えるくらいに俺はアリナとの生活に大きな幸せを感じている。


 そんな照れるような掛け合いをした後、ウェイトレスを呼んで料理を頼んだ。



 10分から15分で料理が運ばれてきた。


 俺たちが頼んだのは、ステーキ料理だ。その料理を頼むとライスとサラダも一緒についてくるらしい。

 ステーキが良い焼き色をしており、香りも良い。食欲がそそられる。


「料理も運ばれてきたことだし、食べようか」


「はい、そうですね!」


 俺たちは「いただきます」を言って、ステーキを切り始める。

 ステーキを切ると、中がほんのり赤く染まっており、とても美味しそうだ。


 前をよく見てみると、アリナがステーキを切り分けるのに苦戦しているようだったので、俺がアリナの代わりに切り分けてあげた。

 アリナは申し訳なそうにしていたが、そのシュンとした表情すら可愛らしく見えてしまう。俺がアリナのことを好きだからだとか思う人もいるだろうが、これは断言できる。誰が見てもアリナの表情は可愛いと感じる!


 ステーキを切り終えると、俺とアリナは切り分けたステーキを口に運び、そして同時に顔を見合わせた。二人とも目をきらきらさせていたと思う。

 口に入れたステーキから肉汁が溢れ出し、自然と笑顔になってしまうくらい美味しかった。


「アリナ……!」


「翔くん……!」


「「これ、美味しい!!!」」


 俺たちは顔を見合わせながらそう口にした。

 このとき、俺とアリナに食レポは向かないなぁと思っていた。食べたときこの肉の食感がどうとかではなく、「美味しい」しか出てこなかったのだから。


 その後もサラダやライスも食べ、俺とアリナは最高に幸せな時間を味わった。


 食べた後、アリナがトイレに行っている間に支払いを済ませておいた。これ、一度はやってみたかったんだよね!

 男ならこれくらいできないと……ね?

 とは言っても、毎回するとなると少し厳しい気もするけど……。


「すいません。お待たせしました、では支払いを――」


「もう、しておいたよ」


「……え?」


 アリナが困惑した顔で俺を見ている。

 予想通りの反応をしてくれた。


「え、え、え、い、いつですか?」


「アリナがトイレ行ってた間に」


「ええ!? そんな、私も払うのに~」


「いいんだよ。このレストランを予約したのは俺だし、今日のところは俺に格好をつけさせて、ね?」


「で、では、ありがとうございます」


 そう言うと、俺の腕にくっ付いてきて、耳元で「かっこいいです」と囁いてきた。

 その瞬間、俺の心臓は飛び跳ねた気がした。


 そんな台詞せりふを耳元で、それも囁きながら言ってくるとは思ってもいなかったので俺は顔を真っ赤に染める。

 恥ずかしかったが、同時にキュンとしてしまった。


 俺は一度深呼吸し、少し落ち着きを取り戻してからアリナと手を繋いでレストランを出た。

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