第22話「イルミネーション」

 昼食を食べ、ゲームセンターでも満足いくまで遊んだ俺たちはついに今日のメインイベントであるイルミネーション会場に到着した。俺たちが到着した時には日も暮れていて、よりイルミネーションを楽しめる状況が出来上がっていた。


 入り口で会場の係員のような人がチケットの確認をしていた。そこには大勢の人が並んでいた。これは入り口に着くまで時間が掛かりそうだ。


「はい、皆にこれ渡しておくね。入り口に着くまで無くさないようにね」


 夏海が全員にイルミネーション会場のチケットを渡した。


「「「ありがとう」」」


「ふふ、どういたしまして」


 夏海は今日は本当に機嫌が良さそうだ。

 この日を心待ちにしていたんだろうなぁ。そういう俺も内心、心が躍っている。

アリナも目をきらきらさせながら、何度も列の長さを確認しているところを見ると早く入りたくてうずうずしているのだろう。


 待つこと約30分。

 俺たちはようやく入り口に辿り着いた。


 チケットを係員に渡し、イルミネーション会場に足を踏み入れた。


 足を踏み入れた途端、景色が一変した。

 それまでは、ただ薄暗かった景色が色とりどりのライトアップにより明るく、そして綺麗だった。俺はここまで綺麗なイルミネーションは、初めて見たかもしれない。


 俺はイルミネーションに見とれて足を止めてしまったが、それは俺だけではなかったようだ。よく周りを見てみると、ほか三人も足を止めていた。もっと細かく言うとイルミネーション会場に来ていたほとんどの人たちが足を止めていた。


「すごいな、これは……」


「そうですね。とても綺麗です」


 本当に感動するものを見るとこうも語彙力が下がってしまうのか。このイルミネーションの感想を述べようとしても『すごい』とか、『綺麗』だとか、そんな簡単な感想しか出てこない。

 でも、本当に綺麗なものや感動するものを見ると、見合った言葉が見つからなくなるものだと俺は思う。


 少しすると、アリナが辺りをキョロキョロ見まわし始め、何かに気が付いたようだった。


「アリナ、どうしたの?」


「い、いえ……ただ……」


「ただ?」


「カップルが多いなぁと思いまして……」


 俺はアリナに言われ、周り見まわすと、確かにカップルで来ている人たちが多いようだった。


「本当だね。クリスマスイブだからデートで来ているんじゃないかな」


「やっぱりそうなんですね。みんな手を繋いでます」


「……? そりゃあ、カップルだから繋ぐんじゃない?」


「でも、私たちは今、繋いでないですよ」


「あ」


 アリナが何故、当たり前のことを言うのかと思ったら、そういうことか。アリナも手を繋ぎたかったんだな。

 俺はアリナと手を繋いだ。

 もちろん、恋人つなぎで。


「翔くんの手、暖かいです」


「アリナの手は少し冷たいな」


「ふふ、そうですね。でも、翔くんの手が暖めてくれます」


「そうだね。アリナが風邪をひいちゃっても困るからね」


 アリナは本当に可愛いな。

 寒いから仕方ないんです、なんて言いながら俺の腕にくっ付いてくる。


 そんな俺たちを見ていた二人が呆れた様子でこちらを見ている。

 でも、これは仕方がないじゃないか。アリナが可愛すぎるからいけないんだよ。


「二人だけの世界に入らないでくれる~?」


 夏海がからかうように、そう言った。

 だが、アリナがそれに意見する。


「さ、寒いから仕方がないんですよ。そ、そうですよね、翔くん?」


「うん、そうだね。これは仕方のないことだよ」


 俺はアリナに便乗した。

 アリナともっとくっ付いていたいからね。


「まあ、いいけどさ。これが二人らしい気もするし」


 夏海は結局、この状況を受け入れてくれた。夏海はこういう優しいところがあるんだよなぁ。

 カズは呆れているようではあったたが、元々何も言うつもりはなかったようだ。


「よし、それじゃあ、イルミネーションを楽しもう!」


 夏海はそう言うと、俺とアリナを掴んで、奥まで進んで行った。


 奥まで進むと、そこにはイルミネーションが施された大きなクリスマスツリーが立っていた。

 俺たちはそこでも綺麗なイルミネーションを堪能してから出口へ向かった。



 出口を出た後、俺たちは未だ感動に浸っていた。


「綺麗……だった」


 俺がそう呟くと、他のみんなも「その感想しかでないよね」と笑っていた。他の三人も俺と同じように簡単な感想しか出てこないようだった。


 俺たちはその場で少し休憩してから帰路についた。


「それじゃあ、二人ともまたね~」


「じゃあな~」


 俺とアリナは夏海とカズと別れて自分たちの家に向かう。


「アリナ、楽しかった?」


「はいっ! もちろんです! また、行きたいですね」


「そうだね。また、行こうね」


「はい、絶対です」


 俺とアリナは家に着くまでの間、ずっとイルミネーションの話をしていた。

 そして、家に着いた後はお風呂に入って、歯を磨いてすぐに眠りについたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る