第8話「似合ってますか?」

 土曜日の昼。

 俺は外出の支度をしていた。


 今日は待ちに待ったアリナとのショッピングデート! まあ、待ちに待ったって言ったけど、このデートの約束をしたのは昨日なんだけどね。

 支度を終えると、俺はアリナを呼びに行った。


「アリナ、準備できた?」


「うん! できたよ!」


 アリナは膝までの長さのコートに、ジーンズを履いて出てきた。

 いつもの可愛い雰囲気とは違い、カッコいい女性という雰囲気を漂わせている。可愛いアリナも好きだけど、こっちもアリだな。


 アリナはなんでも着こなすんだろうなぁと心の中で呟いた。


「それじゃあ、行こうか」


「うん! 楽しみだねっ、翔くん!」


「そうだね、俺も楽しみだよ」


 準備が整った俺たちは、早速、ショッピングデートへ向かった。


 俺とアリナは手を繋ぎながら、この辺では最大級のショッピングモールへと足を向かわせた。

 アリナは寒いだろうということで、コートのポケットに手を入れ、俺たちはポケットの中で手を繋いでいた。




 *****




「着いたぁ~」


「それじゃあ、色んな店を見てまわろうか」


「うんっ!」


 まだ店にすら入っていないのに、アリナはすでに上機嫌だ。

 ショッピングモールに足を踏み入れるとたくさんの洋服屋さんが建ち並んでいた。


「どの店に入る?」


「んー、そうだなぁ……あの冬物の服が並べられている店なんかどうかな?」


「オッケー! じゃあ、そこにしようか」


 俺とアリナは店に入った。

 店の中は暖房が効いており、厚着をしていた俺たちにとっては少し暑いくらいだった。


 その店にはかなりの量の服やズボン、スカートなど色々揃っている。


「この中から選ぶのは大変そうだな」


「時間はたっぷりあるんだから、いいんじゃない? これはデートなんだから、楽しまなきゃ、ね?」


「ああ、そうだね。それじゃあ、色々見てみようか」


 俺とアリナは広い店内を色々見てまわる。


 だが、途中で隣にいたはずのアリナがいなくなっていることに気が付く。

 俺が焦って辺りを見回していると、少し離れたところから声が聞こえてくる。


「翔くーん! こっちー!」


 声が聞こえてきた方向を見てみると、試着室からアリナが顔だけを出していた。


「もう、ビックリさせないでよ~。焦った~」


「ごめんね、ちょっと見てほしくて」


「……見てほしい?」


 アリナは試着室のカーテンをばっと勢いよく開く。

 すると、そこには美しい白い肌が露わになるアリナの姿が。アリナは何を思ったか、ビキニを試着していたのだった。花柄の可愛らしいビキニを。


 今、夏じゃないんですけど?


「え、それは……?」


「ビキニだよ~」


 それはわかる。

 なんで、今それを試着したんだろう。


「なんでこの季節にそれを……?」


「可愛いのを見つけちゃったから翔くんに見てほしくて。ダメ……でしたか?」


 上目づかいで見ないでー! キュンとしちゃう! というか、もうしてる!

 俺は思わず目をそらす。


「いや、ダメじゃないよ」


「似合ってますか?」


 アリナは俺が似合ってないから目をそらしているのだと思ったらしく、心配そうな表情で俺の顔を覗き込んでくる。


「もちろん、似合っているよ」


 俺は顔を真っ赤にしながら答えた。

 それを見たアリナはそこでやっと俺が目をそらしている理由が分かったようで、表情がぱあっと明るくなった。


「本当ですかっ?! ありがとう! じゃあ、これ買ってもいいですか?」


「今買っても夏まで着る機会もないと思うけど、いいの?」


「重要なのはそこじゃないですよ。重要なのは、翔くんが気に入ってくれたかどうかです!」


「そ、そっか。じゃあ、買おうか」


 アリナは俺が嬉しくなることを恥かしげもなく言ってきた。

 これが天然か。


 そして、俺はアリナにとことん甘い。

 アリナの言葉一つ一つにキュンとしてしまう現象に陥っているのだから。


 その後、俺たちはそれぞれ冬物の暖かそうな服を試着し、買うものを決めた。

 レジに並んでいるとき、俺は思わず笑みがこぼれてしまっていた。

 なぜなら、最後にペアルックのもこもこしているパジャマを購入することになったからである。


 初めてのペアルックだ。

 笑みがこぼれても仕方ないだろう? 端から見たら、満面の笑みのカップルがいるなぁとか思われているのだろうか。


 会計を終えた俺たちは店を出て、他の店も見てまわった。もちろん、その間はちゃんと俺が荷物を持ったよ?


 店を見てまわっているうちに気が付けば、外は暗くなっていた。

 そこで、アリナが俺に声をかけてくる。


「翔くん、もうそろそろ帰る?」


 うん、そうだねと言いたいところだが、俺にはもう一か所、行かなければならない場所がある。


「アリナを連れていきたいとこがあるんだけど、そこに行ってから帰ろうか」


「連れていきたいとこ? どこ?」


「それは、着いてからのお楽しみ」


 俺はアリナを連れて、夜景の綺麗に見える最高のスポットへと向かうことにした。

 日も落ちているから、綺麗な夜景を見ることができるだろう。アリナの反応が楽しみで仕方がない。




 さあ、行こうか。

 最高の夜景の見える場所へ!

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