第3話「お風呂突入部隊」

 俺は玄関に置かれていた段ボールを運ぶのを手伝っていた。

 どうやら、この荷物はアリナのものらしい。日用品から趣味のものまで色々入っているようだ。


 段ボールを運び終え、俺たちはソファに腰を下ろした。


「ふぅ、やっと終わったな。俺、夕飯買ってこようか?」


「いえ、私が作りますよ。その間に翔くんはお風呂に入っていてください」


「いいのか?」


「もちろんですよ」


 俺はアリナに言われた通りに着替えを持って風呂場へ向かった。アリナの荷物の量がかなり多く、汗もかいたので助かる。


 俺は湯船に湯を張り、髪と身体を洗い、湯船に浸かる。


「いい湯加減だなぁ。疲れが一気に取れていくよ」


 俺は湯船につかりながら目を瞑り、ウトウトしていた。

 おっと、いけない。ここで寝てしまうのは危険すぎる行為だ。


 そんな中、風呂場の外から、かすかに声が聞こえてくる。


「今――入っ――いい――すか――?」


 なんだって? よく聞こえないな。


 その直後、ウトウトしていた俺の目は完全に覚めた。

 なぜかと言うと、アリナがいきなり風呂場に突入してきたのだ!


「ちょっ! アリナ?! 夕飯の準備をしていたんじゃないの?!」


「はい、してましたけど、準備が終わって私もお風呂に入りたくなったので突入しちゃいました!」


 彼女はてへっと可愛い顔をしてみせる。

 だめだ。彼女の天使のような表情の前では俺はすべてを許してしまう。


「せめて、俺が出てからにしてほしかった」


「いいじゃないですか。私はちゃんと水着を着用してますし」


 そう。彼女は風呂場に突入してきたが、ちゃんと水着を着用していた。

 でも、その水着は露出度の高い『ビキニ』だ。

 俺は目のやり場に困ってしまい、目を背けた。


「裸じゃなかったからまだいいけどさ」


「私の裸……見たくないんですか?」


 アリナは悲しそうな表情で瞳をうるうるさせながら見つめてくる。

 それはズルい。

 こっちが、キュンとしちゃうじゃないか。


「見たくないわけじゃ……ないよ」


「そうですか。それならよかった」


 そう言うと、アリナは嬉しそうに鼻歌を歌いながら髪と身体を洗い始めた。


「それじゃ、俺は出るね」


「だめです! まだ浸かっていてください」


「……え?」


 まだ出たらだめなの? 俺は今にも恥ずかしさで、のぼせてしまいそうだというのに。


「よしっ」


 何がよしっ、なの?

 彼女は髪と身体を洗い終えると、俺の前に立った。

 え? 何をするつもりだい? 

 まさか……


「それじゃあ、入りますね」


 彼女は何の躊躇いもなく俺が入っている湯船に入ってくる。

 おいおい、嘘だろ? この湯船、そんなに大きくないぞ!


 湯船の湯が溢れ出る。

 そして彼女は、俺の正面で湯に浸かる。


「まって! 本気?」


「……? 本気ですよ。まるで新婚夫婦みたいですねっ」


「ああ、そうだね、じゃないんですよ! 年頃の高校生が二人で混浴なんて……」


「ふふ、いいじゃないですか」


「アリナがいいんだったらいいけど、俺は今にも恥か死しそうです」


 その後、俺たちは約10分間、湯船に浸かった。

 疲れは取れるどころか、増えた気がする。


 風呂から上がった後、俺たちは食卓についた。


「それじゃあ、食べましょうか」


「うん」


 俺は、「いただきます」と手を合わせ、食卓に並ぶカレーライスを口に運んだ。

 う、美味い! 美味すぎる! これ、いつものカレーライスと何が違うんだ?


「気になりますか?」


 アリナは俺の考えていることが分かっているようで、俺に尋ねてきた。

 俺は何も言わずにこくり、と頷いた。


「いいでしょう! 教えます! 私はカレーライスの隠し味になんと! チョコレートを少し加えたのでした!」


「カレーライスにチョコレート……! それで、少し甘味があるような」


「ふふ、今度、一緒に作ってみましょうねっ」


 アリナはにっこりと笑みを浮かべた。


 俺たちは食事を終えると、食器を流しに持っていき、二人で食器を洗う。

 俺はスポンジに食器用洗剤をつけて洗い、水で流す。そして、アリナが洗い終えた食器を拭き上げる。


 二人で作業を分担することで効率良く食器洗いをすることができた。


「それじゃあ、もう夜も遅いですし寝ましょうか」


「うん、そうしよう」


 俺は、このまま歯を磨くために洗面台へと向かった。





 しかし、この後、まさかの出来事が起きる。

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