第二章 復讐編

第16話 反撃開始

『偽りの家族』そう言って笑った合歓を先頭に一同は八階へ集まる。


「それでぇ、どうするのぉ?

『運営』を倒すって意気込んでも、この塔に

『運営』はいないんだから無理じゃない?」


「いや、いるの。この塔の中に。

この塔には地下室があるの、そこで私たちの様子を見ているの。私もそうしていた一人。

だいぶ広くて綺麗だし、部屋も沢山あるし色々なものもあるから暇でもないし不便もないのよ」


合歓の説明に強花が納得したように頷く。


「合歓の話を整理すっと、ここに『運営』はいる。んで、それを私らが倒す。

何人いるのかわかっか?」


「私たちより多いわ。十人くらいかしら。

でも、私たちだって七人もいるの、

きっと勝てる。私は命を賭けて裏切ったんだもの」


やけに落ち着いた合歓は穏やかに笑った。

炎はどこからか銃を取り出して


「合歓さんは数年前、いきなり姿を消したんですよね?」


「はい、ある日家に帰って来なくて、父も母も、勿論私も心配したのを覚えています」


炎は何かを確信したように先程取り出した銃を握りしめた。


「行く前に交流でも深めっか?」


「そうですわね、全員生きて戻れるともわからないわけですし、良い思い出を作りましょうか」


早苗が目を輝かせて賛成し、皆の方をチラリと見つめた。


「八階で何か食べながら楽しむっすよ!」


階段を登り八階に着くと恋音が悲しそうな顔をした。ここに全員でいることが嬉しいはずなのに、何故だか涙が流れる。

恋音本人よりも、合歓の方がその理由を知っていた。


「何故でしょうか、初めてここで食事をして

七人で過ごした長いようで短い日々を思い出してしまいました。ダメですね、これから戦うための準備だというのに」


「本当にダメよ、姉さんは...」


合歓が苦笑する。

合歓には恋音の苦しさの原因がわかっていた。けれど、恋音にはまだ伝えられずにいた。


「さぁ、何か食べましょう。

砦が待ちきれないようですわよ?」


早苗のお陰で場の空気が元に直った。

一瞬気まずそうにしていた一同だったが、

すぐに持ち直し、先に着いた。


「今日は私が作ってみようかなぁ、

料理は苦手だけど仲良くなりたいしねぇ」


「自分も作るっす!美味しいって思ってもらいたいっす!感じない自分の分も」


「私も作るぜ?」


料理を三人に任せ、早苗・合歓・恋音・炎は

食器を用意する。








「おい!ほうれん草はそこじゃねぇよ!

米に茹でたほうれん草って砦どうなってんだよ、さっきカボチャも入れようとして...」


「自分味覚ないっすからねぇ、わかんなくて

でも!これは上手くないっすか?」


差し出したハンバーグをつまみ食いして、

強花はキャラに合わない可愛らしい笑みを浮かべる。


「美味い!ほれ、惟呂羽も食え!」


「ありがとぉ、強花ぁ」


「ちょっと!わたくしの分まで食べないでくださいね!」


「悪ぃ、早苗」



出来上がった料理をテーブルに並べて

成人済みの惟呂羽・早苗・恋音・強花の前にはワインを置く。


「んじゃ、かんぱぁい!」


間の抜ける惟呂羽の掛け声で互いのコップを

打ちつけ、それぞれの飲み物をゴクッと飲み込む。


「ぷはぁ!やっぱり酒は美味いが、

ワインじゃなくてもっと強いのが良かったなぁ!ぷはぁが合う感じのさ」


強花が笑いながら言う。


「みんなで食べるご飯とか、お酒とか美味しいっすね!」


砦が顔を赤らめるには一つ問題がある。


「砦!貴方まだ未成年でしょう!?

すごい酔ってるように見えますわよ!

未成年な上に弱いんですの?」


砦を揺らす早苗、それを止める強花。

そして...


「合歓?どこへ?」


「ちょっとね」


一階・惟呂羽のフロアを通って少し風の当たる庭に出た合歓を追いかけて炎が隣に並ぶ。


「合歓さんは、恋音さんが好きですか?」


「うん、私の家族は姉さんだってそう、思ったからね」


「酷いんですね、義姉様?」


どこからか合歓の義妹が現れた。

合歓は警戒体勢で彼女を見る。


「...暦...?」


「炎、暦ちゃんと知り合いなの?」


「暦は...私の...妹です」


「私はこんな人知りません!それより義姉様!帰りましょう?今なら裏切り行為を許してもらえますよ!」


「...わかった。一緒に帰ろう、暦ちゃん」


「合歓さん!?」


「大丈夫、内部から攻撃できるのは私だけ、

絶対役に立つから。みんなによろしく」


コソッとそう言って、儚げに笑った合歓は

暦と共に消えた。

炎は止めなければ行けなかったと一人、後悔した。

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