メタルアッシュ短編集

十月吉

過去編:バーンアウトと拾った箱

 知らないやつに頼まれて、行方不明者を探していたら変な横穴から落下して、気付けば都市地下二層にいた。この都市の地下に第二層があるという噂は誰もが知るところだ。たまに地下二層から戻ってきた、と言う機人もいたが、不思議なことに再びそこを訪れることは出来ず、頭を打ったか、慣れぬ地下一層で位置情報を錯覚したのだということになっていた。


 だが実際、地下二層は存在した。そして色々あって、バーンアウトはそこで動くものを手当たり次第に解体するという奇怪な機人と戦うはめになり、さらに色々あって――今は、それを三層の自宅に連れ帰っていた。キラーボックスと呼称される銀色立方体の機人を。


 キラーボックスは定型的に周囲を観測し、バーンアウトの店を見上げた。


「この小さな建造物の範囲がオマエの住処か」

「そうだよ。手前が店で、奥が居住スペース」

「我の行動可能範囲はこの内部か」

「別に外に出かけるのは構わねえよ。でも夜には帰って来いよ。あと住人の捕食はナシ」

「理解。失念せぬよう留意する」

「わ、わすれるなよ……そんな大事なことを…」


 キラーボックスを倒した後、バーンアウトは怯え隠れていた地下二層の住民たちに囲まれ、どうにかコイツを連れて行ってくれと泣きつかれ、しがみつかれた。手当たり次第に捕まえたものを分解する凶悪な機人が徘徊しているなど今まで生きた心地がしなかっただろうから、バーンアウトは同情せざるを得なかった。


 外装を破壊されすっかりさらけ出された小さな本体に、『大人しくすることを条件に三層に来ないか』と提案したところ、キラーボックスも特に地下二層にこだわりはないということで、こうして自宅へ連れ帰ることになった。


「こっちがエネルギーショップで、あっちがおれの部屋。大体どっちかには居るかな」

「理解。汝は部屋という自らの占有範囲を持つ。なれば、我も部屋を要求する」


 ――こいつ、ふてぶてしいな、とバーンアウトは思った。

 先日まで地下二層を徘徊していたというのに、部屋を所有するという概念を得た途端、自分の部屋を要求しだすとは。たしかに部屋は余っているし、個室をあてがうことはやぶさかではないのだが、それにしても、というやつだ。


「まあ良いや、荷物を片付けるから、部屋は明日な」

「理解した」

「おれは自分の部屋で寝るけど、おまえはどうする。好きなところで寝て構わないが……ああ、モノは壊すなよ」


 キラーボックスは暫し考えるそぶりをみせ、そして答えた。


「オマエの部屋で眠る」

「おれの部屋? おまえが寝るスペースくらいはあるが……なんだ、寝首をかくつもりじゃないだろうな」

「オマエを観察し、『部屋』での『睡眠』ルールを学習する」

「はあ、そんなもんか」


 そういうものかもしれない。社会生活に疎い奴を自由にさせて、テーブルや冷蔵庫で寝る癖でもつけられても困るし。

 じゃあそういう風にしよう、と二人は合意し、バーンアウトの部屋に赴いた。部屋に入ると、キラーボックスは機部屋に置かれた無意味なモノを一つ一つ観測していた。バーンアウトは機体にあわせた特殊な寝台機具を整えながら、人を自室に入れるなんてのは久々だな、と何となく思った。誰かが家に上がっても、大抵のことはエネルギーショップやリビングで済むのだ。部屋を『学習』しているキラーボックスを横目に、バーンアウトは寝台機具に体を預ける。


「じゃあ、おれはもう寝るから」

「我の寝台はないのか」

「おれは一人暮らしだから、予備はないです~おまえも大概特殊な形だしな…明日買いに行こうぜ」

「理解。今日は妥協する」

「ほんとふてぶてしいなおまえ…」


 二度目のことに思わず声に出たが、キラーボックスは気にしていないようだった。やがて部屋の明かりが落ちると、休息状態に移行した静かな駆動音が二人分、息づきはじめた。


(おわり)

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