侯爵令嬢、コンニャク産業を育てている間に、妬んだ妹の姦計によって王太子から婚約破棄&国外追放&コンニャク破棄される。
マナシロカナタ✨2巻発売✨子犬を助けた~
追放編
第1話 突然の婚約破棄
「メルビル=オーバーハウゼン、君を国家反逆罪で国外追放とする。もちろん王太子であるボクとの婚約は破棄させてもらう。国を乗っ取ろうなどという愚かな野望はここに潰えたと知るがいい」
フライブルク王国の国家樹立350年を祝うパーティの席で、婚約者であるユベリアス王太子から突然そう告げられたメルビルは驚きを隠せなかった。
メルビルは商才に長けた大富豪上級貴族であるオーバーハウゼン侯爵家の長女であり、高い教養を身に着けたどこに出しても恥ずかしくない淑女だ。
貴族院にてユベリアス王太子の婚約者に満場一致で推挙され、結婚式は来年にも行われる予定だというのに、いきなりなにを言っているのかとメルビルは眉をひそめる。
もちろんこの婚約は完全な政略結婚であり、両者に真実の愛があるかと問われればどちらにもないわけなのだが、王室と上級貴族との婚姻とは元よりそういうものなので、メルビルがそこを気にすることはない。
そういうわけだったので、国家反逆罪で婚約破棄などと言われてもメルビルには青天の
「殿下、いきなり何をおっしゃっておられるのでしょうか。私たちの婚約は国を挙げての一大事、もう来年には結婚式をあげる段取りで進んでいるはずですが」
テーブルにカクテルの入ったグラスを置くと、談笑していた友人たちにごめんなさいと断りを入れてから、メルビルはユベリアス王太子に向き直った。
腹筋に力を入れて背筋をピンと伸ばし、レディとしてわずかの粗相もないように優雅に美しく振る舞う。
麗しきオーバーハウゼン侯爵家の長女たるもの、いついかなる時も――たとえ公衆の面前で虚偽の告発を婚約者から受けたとしても――あられもない姿は見せられないのだった。
「そんなものは全て破棄だ、破棄! 君のようなずるがしこい女狐をボクの妻になぞできるものか!」
しかしユベリアス王太子は、そんなメルビルの態度にむしろいら立ちを深めるように荒れた様子で糾弾を続けるのだ。
どうやらメルビルの完璧な所作と、理路整然とした態度が気にくわないようだ。
「殿下、どうか順を追ってお話しくださいませ。なぜ私を国家反逆罪などとおっしゃるのでしょうか? 私は初代国王から直々に侯爵という栄誉に列せられたオーバーハウゼン家の娘として、フライブルク王国を心より愛しております。ですので殿下のおっしゃることには何一つ心当たりがないのです」
「ええい、この期に及んでしらばっくれる気か? 君が国家の乗っ取りをたくらんでいるという確かな証言があったんだよ」
「証言……ですか? 一体誰からでしょうか?」
証言があると言われて、メルビルは小首を傾げた。
そもそも国家の乗っ取りと言われてもなんのことやらさっぱりなメルビルなのだ。
もちろんユベリアス王太子と結婚すればメルビルは将来の王妃になるわけで、メルビルが子を為せばその子は未来の王となる。
そういう意味では国家の乗っ取りと言えなくもないのかもしれないけれど、そんなことを言い出したら王妃は全員、国家の乗っ取りをしたことになってしまう。
実にナンセンスな話だった。
「まったく、君がそういう言い逃れをすると思って証人を連れてきておいて正解だったようだな」
「証人……ですか?」
「そうさ――カステラーヌ、こちらへ」
「はい、ユベリアス王太子殿下」
ユベリアス王太子に呼ばれて出てきたのは、メルビルの妹であるカステラーヌだった。
「な、どうしてあなたが――」
この場面でなぜか妹のカステラーヌが出てきたことに、さしものメルビルも頭の中はハテナマークでいっぱいになってしまう。
カステラーヌは口を開くと、そんなメルビルに向かって言い放った、
「わたくしはここ数年来、お姉さまが裏で何を言っているのかを全て見聞きしてまいりましたわ!」
――と。
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