15-その花は、散るか



リュシアン:ああ……そういうことか。なるほどね? なるほどね?


ティア  :ここは私かな。最初からミリカのこと疑ってたし。



**********



ティア  :ドライアードをかばうミリカを、厳しい目で見つめる。

「殺さないでほしい? なぜです? そのドライアードは、私たちの探し人を食おうとしてたんですよ?」


ミリカ  :「……それは……ドライアードは男の人を殺さなきゃ生きていけない、から」

 苦し気に顔をゆがめながらミリカは答える。

「だけど……こんな奥のところまでくるのは……もっと大きなマンドレイクをとろうとして、求めてやってきた、欲に目がくらんだ盗賊やごろつきばっかりだった。薬草園を襲いにきた盗賊たちを、ドライアードは食べてきたの。

その妖精剣士さんも…多分こんな奥まできたんだったら、本当は少なくていい筈のマンドラゴラを……欲を出してここまで来たんだと思う」


ティア  :「それが、私たちの任務となんの関係が?」


ミリカ  :「仕事や任務っていうけど…あなたたちの仕事ってなに?」


メルリル :「そこの妖精剣士さんを探すこと、ですね」


ミリカ  :「だったら!……あなたたちの仕事と、ドライアード自身は関係ないでしょう? それに……」

 眉を寄せ、目に涙をたたえながら悲痛な声で叫ぶ。


「わたしは、彼女が……ドライアードが好きなの!

 たとえそれが……あと数年しか一緒にいられないってわかってても」


 ――メリアの短命種であるミリカの寿命は10年しかない。

 すでにミリカに残された時間は、あと数年。


「さっき言った通り、このドライアードは盗賊とか、悪い人たちしか……食べてない。それでも、ここで……ドライアードを殺すの?」


ティア  :ミリカの言葉を聞いて尚、厳しい表情も声も、崩れることはない。確固たる固い意志で、揺るぎない心で、言葉を紡ぐ。

「――魔物は魔物です」


リュシアン:ティアの肩をつかみ、なだめるように話しかける。

「僕たちの任務は妖精剣士を連れて帰ることです。逆に、ドライアードの討伐は指示されてない。妖精剣士をこちらに渡していただけるのならば……それでいいのではないでしょうか?」


ティア  :「……リーダー、あなたはそれでいいんです? そのドライアードはあなたの心を操って、ヘタをしたらあなたの手で、メルリルさんを殺していたかもしれないんですよ?」


リュシアン:「ええ、そうかもしれませんね。ですが……同じメリアとして、同じ長寿のものにに恋する者として。それ以上に彼女の心は無視できないものなのですよ」

ミリカに振り向いて「妖精剣士の二人は返していただいてもよろしいですか?」


ミリカ  :ボロボロになっているドライアードに、管理小屋にあったポーションをかけながら「ドライアードごめんね、ごめんね」と何度も謝り、リュシアンのほうに向きなおる。

「うん…妖精剣士さんは……連れて帰ってあげて。だけど、お願い、ドライアードのことは見逃して。……せめて、わたしが死ぬまででいい。どうせ……あと三年か四年しか、時間は残ってないから」


リュシアン:「……」


ミリカ  :涙をこらえながら、震える声で懇願する。

「メリアはね、死ぬときは肉も骨も残さないで、土になって還るんだ。それなら、わたしは……ドライアードの木の下で、土になって死にたい。それまで見逃してほしいの。そのあとは…ずっとずっと長く生きるドライアードは、ここから離れて、別の森に行くかもしれないもの。

もしも今、見逃してくれるなら……これをあげる」

そう言ってミリカが差し出したのはマンドレイクの種が10粒。種一つが1000G相当であることを考えると、破格の報酬だ。


ティア  :しかし高価な報酬に目もくれず、厳しい表情は一つも変わらない。「あなたは、あなたの死後にドライアードが生み出す被害を背負えると?」


ミリカ  :「被害、かぁ……。そういう風に言われると……困っちゃうな」顔を曇らせながら、考え込むようにうつむく、

「……妖精はわたしたちの、ただの隣人。キレイな妖精だって、あなたに手助けをした後で、自分の領域を侵した人間を殺したりする。…でも、妖精っていうのはもともと、そういう存在だから。そのこと自体をわたしは…ううん、誰だって止められないよ。それを被害というのなら、仕方ないかもしれないけれど。

今回、あなたたちと戦ったのは……ドライアードの領域で、ドライアードにとっての命の養分を奪おうとしたからだと思う。あと、うまく会話ができてなかったからじゃないかな」


ティア  :「そのドライアードは私たちと会話できていましたが?」


ミリカ  :「それはわたしが交易共通語を教えてたから。……だけど、完璧に話せるわけじゃないから。大事な部分は、まだ妖精語でしかうまく話せないんだよ」


ハクマ  :「うーん……とりあえず、オレ的にはさあ。もうこれ以上攻撃してこないっていうんなら、戦う必要はないんだと思うんだ。そこの妖精剣士を返してもらえるんなら、俺たちの任務は完了ってことだろ?それだったらこれで終わりでいいんじゃないか?

もしこいつが悪さをしてなにかあったらギルドから討伐依頼がくるだろう? その時にオレたちがこいつを倒せばいいんじゃないのか?」


リュシアン:「ティアさん、そもそも盗賊しか襲ってないのであれば……」


ティア  :「その確証がどこに? 事実、妖精剣士が襲われているじゃありませんか」


リュシアン:「彼らもマンドレイクに目がくらみ、盗賊のようなことをしたのでしょう。それに繰り返しますが、ドライアードの討伐は、任務に含まれていません」


ティア  :「目の前で人が死ぬかもしれない可能性を見逃せと? 今ここで終わらせられるのに?」


リュシアン:「はい、そうです。ええ、これは…リーダーとして、そしてひとりのメリアの短命種として頼みです。どうか彼女たちを見逃してください。責任と償いは……僕がとります」


ティア  :「そうですか。じゃあ、ここであたしはさようならです。――私はこのパーティーを抜けます」

と告げ、ティアはパーティーを去ろうと、背を向ける。

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