Act.2


「あの、助けてくれてありがとう」


 そうお礼を言うのは肩にちょっとかかるくらいの金色の髪をした、15歳くらいの少女。何を隠そう、エリシアちゃんが発見した、倒れてた人である。


 外傷は特になく、空腹で倒れていたのでおにぎりを幾つかあげたのだ。毎回、余ったご飯をおにぎりにしてストレージに入れてたのが幸いした。


 そして何とこの子の耳、尖ってるのです。耳が尖ってる……ファンタジーおなじみのエルフっ娘である!

 やはりこの世界には居るんだなーと思った。で、何でそんなエルフっ娘さんが家の近くで生き倒れていたのか。


「えっと、なんで森で倒れたの?」

「そうよね、気になるわよね……大した話じゃないんだけど……」


 何処か言いづらそうにするエルフっ娘。別に無理して聞くようなことはしないけど、倒れてたのはやっぱり気になる。

 それに、エルフってあまり人里に出てこない種族だし。とはいえ、エルフにも幾つかの派閥というのかな? それがあるみたいだけども。


「話したくないなら無理には聞かないよ? あ、わたしはアリスって言います。それでこっちが……」

「エリシアです」

「アリスさんに、エリシアさん……覚えたわ。えっとこちらも自己紹介が遅れたわね、私の名前はティア。見ての通りエルフよ」


 エルフっ娘さんの名前はティアさんと言うみたい。見た目は今のわたしくらいに見えるけど、実際はいくつくらいなんだろう。

 まあ、女性に年齢を聞くのは失礼なので聞くのはやめるが。


「それで何があったのかって話なんだけど……」


 そう言ってティアさんは自分の身に起きたことを話し始めるのだった。




□□□□□□□□□□




「それで盗賊に襲われて荷物を奪われた、と」

「ええそうよ。でも、あれは盗賊何かじゃないわ」

「え?」


 ティアさんの話はこうだった。

 何でもティアさんは人里に興味があって、里を飛び出して各地を巡っていた。エルフの中では少数派で外の交流を望む派閥? だった訳だ。

 冒険者組合で冒険者登録もしていて、色んなところで依頼をやったりのんびりしたりとか自由気ままに旅をしてたみたい。

 そして旅の途中に盗賊に襲われ、盗賊たちとにらみ合っていた際に、スッと荷物を奪われてしまったとのこと。


 でも、ティアさんは自分を襲ったのは盗賊じゃないという。


「私これでもBランクの冒険者よ。慢心はしてないつもりだけど、私に気付かれずに荷物を取るなんて……」


 驚いたのは、ティアさんの冒険者ランクがBと思ったより高かったこと。盗賊の狙いはティアさんではなく、荷物って言うのも確かに気になる。

 ティアさんの容姿はわたしから見れば美少女と言っても過言ではない。綺麗な翠色の瞳もまた神秘的だと思う。

 わたしを奴隷にしようとしてた盗賊の事を思い出すと、荷物よりティアさんを狙うんじゃないかと。


「まあ、そのせいで無一文って事ね……<ストレージ>が使えればこんな事無かったのだろうけど、私は使えないから普通に荷物を背負っていたのよね」

「なるほど」


 何というか、不幸と言うか……どう言えば良いだろうか。

 それでやっぱり<ストレージ>の魔法は誰もが使える訳ではなく、使えない人も居る訳でティアさんはこっちの一人という訳だ。

 かれこれ荷物を奪われて三日以上、宿も取れないし、食べ物もなく、限界がきて森で倒れていた、と。

 エリシアちゃんが気付いたから良かったものの、気付かずにそのままだったら近くで死人が出てしまう所だったかもしれない。


「さてと、そろそろ行くわね。このお礼は後で必ずするから。それで……近くに街とか有るなら教えて欲しいのだけど」

「お礼なんて良いですよ。死にそうな人を放っておけなかったし」

「私は恩は必ず返す主義なの。今は何も無いけどね」

「うーん」

「アリスさん、何回言っても多分駄目だと思いますよ?」

「分かった。でもあまりに気にしなくて良いからね、ティアさん」

「ふふ、ええ期待してて頂戴」


 何かやる気を感じるんだけど!?

 でも、近くにある街か……ポステルか、村で良いならアルタ村くらいしかないよね? でもポステルはアルタ村から歩いて三日だし、近くもない。


「それで、近くの街についてなんだけど、あるのはアルタ村くらいしかないよ?」

「この際、村でも良いわ。冒険者組合があるならそこで依頼を受ければ稼げるでしょ」

「わたしが最近行った時の話だけど、あまり高ランクの依頼は無かったかな。ましてやBランクの依頼は……」

「うへえ、それ本当?」

「あくまで最近行った時の話だけどね。アルタ村周辺ってあまり魔物が居ないみたいで、平和そのものだし」


 Fランクのおつかいみたいな依頼は何件かあったけど、討伐とかそういうのは常設しかなかったかな。

 というより全体的に見て、アルタ村の依頼って少ない。それだけ平和と言うか、平穏っていう訳だから悪い訳じゃないけど……。


「討伐依頼もFとかEとかの、常設くらいだったと思う」

「……がっくし」


 わたしはそう告げると、ティアさんはこの世の終わりみたいな顔をして項垂れてしまう。

 そこまでかっがりしなくても……でも良く考えたら、ティアさんは今は何もない。だから稼がないといけないっていう焦燥感って言うのがあるのかもしれない。


「あと街といえば、ポステルっていう港街もあるんだけど……」

「詳しく!」


 切り替え早い!?


「アルタ村から歩いて三日かかる」

「そんなー……」


 まあ、わたしなら転移魔法で瞬時に行けるんだけど、どうしたものかな。何とかしてあげたい気はするけど、転移魔法……うーん。


「まあ、取り合えず今日はここに居て良いからゆっくりして。倒れてたんだし、安静にするのも大事だよ」

「え、でもこれ以上迷惑をかける訳には……」

「大丈夫、大丈夫。ね、エリシアちゃん」

「はい! 放っておけませんしね」

「うぅ……二人ともありがとー!!」


 そう言うとティアさんが目をうるうるさせながら、抱き着いてくる。

 ……あの、この世界では感謝の印として抱き着くのが一般的なの? 正直、心臓に悪いから許して。


「それにしても、ティアさんは何でこの森の中に居たんですか? 倒れてた理由は分かりましたけど、街とか村に行けば良かったのでは……?」


 落ち着いたところで、エリシアちゃんがティアさんに問いかける。それ、わたしも少し気になってた。

 そんな状態で森に入るのは自殺行為に近い気がするんだけど。


「それは……これもまた恥ずかしいのだけど、この辺に来るのは初めてで地図を見てたんだけど、その途中で襲撃にあったのよね」

「それはまたとことんついてないね……」

「本当にね……あいつら絶対許さないんだから! まあ、それで地図も失ってふらふら歩いてたらあそこに居たの」


 うん、本当のこの人助けられて良かった。真面目に危ない状態じゃん……見つけたのがわたしたちじゃなかったらどうなってたか分からないぞ……。


「はあ……何というか、助けられて良かった」

「うん……冷静に考えてみたらかなり危険な状態だったと思う……だからアリスさんもエリシアさんもありがとね」

「どういたしましてー」


 ティアさんはちょっとポンコツが混じってるエルフかもしれない。しかし、ティアさんをこれからどうしようか?

 街ならポステルが良いだろうけど、あそこまで歩いて三日かかるし、乗り合い馬車もタイミングが悪くてつい最近行った後だし。


 飲まず食わずに三日歩かせるのは、ちょっと危険だと思うし、やっぱりわたしが転移魔法でで送って行った方が良いかな?


 使える事については黙ってもらうように頼むのが妥当か? 仮に転移魔法でポステルに送っても、依頼を受けて達成して報酬も貰う工程があるし、その日の宿も困っちゃうよね、ティアさん。


 わたしが必要なものを持たせるってのもあるけど、また同じように荷物を狙われないとも限らない。

 <ストレージ>は便利なだけじゃないんだなあ、と改めて思う。<ストレージ>に入れておけば、狙われても本人が使わなければ意味がないし、他人からは開けない。



 ――もう少し良く考える。


 このログハウスは、部屋を増やした際に階層を二階建てにして、二階を居住スペースというか、部屋のスペースにしたので、実はわたしとエリシアちゃんの部屋以外にも空き部屋がいくつかあるのだ。

 一階建ての時に使ってた屋根裏部屋も、一応そのまま残してあるけど、あそこを使う機会はこれからあるんだろうか。

 屋根裏部屋は以前より高くなり三階並みとなってる。当たり前だけど、景色の高さと言うか、そういうのは変わってる。あそこは何か別に使う場所にしようかな。


 話を戻そう。

 空き部屋の一つをティアさんの部屋にして、ある程度安定するまでは使って貰おうかな?

 街へは……わたしが転移魔法で送ることにしよう。で、時間を指定してまたわたしが迎えに行けば良い。勿論、この事は内緒にして貰うけど。


「ティアさん、話があります」


 そんな訳で、わたしはティアさんと向かい合ってそう続けるのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る