Act.Ex2
「ここは……」
私は何を?
そうだ思い出した。盗賊の襲撃にあって、クルトさんが私を逃す為に外へ飛び出して、そして私は必死に逃げてきて……気を失った。
「良かった。目を覚ましたみたいだね」
「え……」
聞き覚えのない声が聞こえ、そちらに目を向ける。その子を見て私は息を呑みこんだのが分かる。その女の子は今まで見た事無い程の、美少女だった。
銀色の綺麗な髪は背中まで伸びていて、目の色は綺麗な碧眼、そして白い肌に華奢な身体。一瞬、天使様が迎えに来たのかと思ったけど、これは現実だってことは分かった。
私を助けてくれたこの女の子は、アリスさんと言うらしい。森の中で倒れていた私の事を見つけて、ここに運んで治療をしてくれたそうだ。
アリスさんの手を気を失ってる時に掴んでいたみたいで、アリスさんが言ったことで私はそれに気付いて慌てて手を離した。恥ずかしい……。
服が気を失う前に着ていたものではなく、白いシンプルなワンピースになっていた事に疑問を覚え、聞いてみると、アリスさんは申し訳無さそうに答えてくれた。
別に気にしないし、女の子同士だし見られても別に大丈夫だ。
それに怪我をしていたのだし、仕方ないのだろう。聞けば服はボロボロで血も滲んでいたから、別の所に置いてあるとのこと。
捨てないでくれて良かったと思った。あの服はクルトさんに買って貰ったものだったし……後でそれを受け取ることにする。
その後、アリスさんに私が脱走奴隷ではないか、と聞かれてしまい慌てて答えたものだったから、思ったより大きな声を出してしまった。
でもアリスさんは気にして無くて、それを信じてくれた。質問が変わり、自分の身に何が起きたのか、それを聞かれたので私は正直に話すことにした。
「ア、アリスさん……?」
正直に全てを話すと、突然視界が真っ暗になる。否……アリスさんに抱き締められていた。良い香りがする……は!? 私は何を。
でも、嫌ではなくて。更に頭を優しく撫でてくれる。
「怖かったでしょ? 大丈夫、我慢しなくていいよ」
さっきまでとは違って、本当に優しい声で言ってくれて、何というか暖かいと思った。クルトさんと同じ……そんな感じ。
少しして、私は今までの溜まっていたもの全てを吐き出すように大泣きした。それはもうアリスさんの胸の中で大泣きをしてしまった。
それからの記憶は曖昧だ。
泣きながら、色んな事を吐き出してしまったと思う。どうして、盗賊が襲ってきたのか、どうしてクルトさんが犠牲にならなきゃいけなかったのか。
状況的にクルトさんは生き残る可能性は低いっていうのも分かってる。何で、クルトさんは奴隷の私を庇うまでして逃してくれたのか、分からない、本当にわからない。
……いや本当は分かってるんだ。
クルトさんは私の事を奴隷としてではなくて、家族として接していた。娘のように優しくしてくれてた。
分かってるんだ。クルトさんは家族を捨てること何て無い。だから、私を命をかけて逃そうとしてくれたんだ。
分かっているのに……
私はそのままアリスさんに撫でながら泣き疲れて眠ってしまった。
□□□□□□□□□□
「クルトさん……」
クルトさんの夢を見て目が覚めてしまった私は、アリスさんの家であるこのログハウスの外に出て、お墓の前で立ち止まった。
今日の朝に私が置いた花とは別に、果物と私が置いた覚えのない花が追加で置かれていたのに気付く。
「アリスさん……」
多分、置いたのはアリスさんだと思う。
アリスさんは私の為に、色んな事をしてくれた。
朝ご飯を食べさせてくれたり……クルトさんを探しに行きたいってお願いをしたらそれを叶えてくれた。
アリスさんは凄かった……何がって言えば、闇属性の、記憶の魔法で私から記憶を読み取り、転移魔法を平然と使って、襲撃された場所に転移してたし。
他にも<ストレージ>の魔法も使ってるし、探している最中に襲ってきた魔物を何事もなかったかのように、倒してた。
その身の丈に合わない大きな鎌をも普通に操ってたし……。でもアリスさんは別に何とも思ってなかったみたいだけど、普通じゃないよね絶対。
他にはクルトさんの遺体を運んでくれて、庭にお墓を作ってもくれた。今私が立っている目の前にあるこれがそうだ。
アリスさんが言うには洋式タイプのお墓っていうみたい。石ではあるけど綺麗に形を整えていて、死者の灰を安置する。
こんなお墓は見たことがない……そもそも、これお墓と言うか芸術品なのでは? と思ってしまうけど、お墓だってアリスさんは断言してる。
「クルト・エインシュレ……」
墓石(と言うらしい)にはそう文字が刻まれている。クルトさんの本名だけど、フルネームで名乗っていた事はあまり無かったなって思う。
何というか、アリスさんはちょっと規格外だなとは思う。いきなり良く分からない魔法使ってこんな立派なお墓を作るし。その魔法についてははぐらかされてしまった。
でも何だろう? アリスさんと居ると胸が変な感じになる。会って間もない私に、ここまでしてくれる……お人好しなんだろうか。
お人好しなのだとは思うけど、それだけの力はあるのは分かる。ただ何となく常識が無さそうな気もするけど、失礼だろうか。
クルトさんとは違う、暖かさ。
そういえば、アリスさんもまたクルトさんに似てるような雰囲気はあるかもしれない。
クルトさんの遺体を見た時も、私はどうしようもない感情に耐えきれなかった。その時、私が最初泣いた時と同じように抱き寄せては頭を撫でてくれて。
なんて言えば良いのかな? アリスさんはお母さん……というのは失礼だと思うから、お姉ちゃん? そんな感じかも。
しまいには一緒に暮らそうとも言ってくれた。その姿がクルトさんと被って見えてしまって……。
「ふぇ……?」
突然頭を撫でられて驚き、視界を動かせば隣にはいつの間にかアリスさんが立っていた。え? 気配すら感じなかったよ……?
「どうしたの? 眠れない?」
「いえ、ちょっと夢を見てしまって」
「夢、か」
「はい。クルトさんに買われた時の事です」
「そっか」
それ以上、アリスさんは何も言わないけどそれでもずっと隣りに居てくれてる。ふと、隣に立つアリスさんとクルトさんの幻が重なる。
「……」
――焦らなくてもいいよ。大切な人っていうのはいつ現れるか予想は出来ないからね。
クルトさんの言葉が頭をよぎる。
いや待って待って。
私とアリスさんはまだ会っても間もないし、同性だよ!? 死にそうな所を助けてくれたアリスさんの事は本当に感謝してる。
こうやって立派なクルトさんのお墓も作ってくれたし、宛のない私をこの家に住まわせてくれたり。
クルトさんが大切な人って言ったのに……私って結構薄情なのかな?
そもそも、大切な人って一人なの? いや、複数居てもおかしくないよね。よし、アリスさんは大切な人二人目ってことで。
……でも。
「あの、アリスさん。今日は一緒に寝て良いですか」
「え!?」
ついつい、私なそんな言葉を言ってしまった。慌てて自分お口を塞ぐけど、もう聞こえちゃってるし、アリスさんは驚いてる。やってしまった……。
「えっと、その……良いよ。寝ようか」
「良いんですか?」
「うん」
その答えに私は嬉しくなる。
会ったばっかりの人に対してこう思うのはおかしいことなんだろうか? 分からないけど、アリスさんにはクルトさんとは違う感情を向けてるっていうのは自覚してる。
……単純なのかなあ?
その後、私とアリスさんは一緒のベッドで寝ることとなったのだった。
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