Act.6


「冒険者組合へようこそ!」


 建物の中に入って第一声はそんな女性の声だった。そちらに目を向けると、小さめなカウンターに一人の女性が立って笑顔をみせていた。


「こんにちは。えっと、換金をしたいのですが……」

「はい、こんにちは! 換金ですね? 冒険者登録が必要になりますが、宜しいでしょうか。既に冒険者登録証を持っているならそちらをお見せいただければ大丈夫です」


 冒険者組合っていうのは正解みたいだ。

 さて、組合の中はやはり何処と無く小さめだ。休憩用のイスやテーブルはいくつか置いてあって、数人ほどが座ってるのが見える。

 更にその中に何人かが興味本位でこちらを見てる様子。特に嫌な視線とか、面倒な物は感じないのでほっとする。

 やはり村という規模なだけで、そこまでの賑やかさはない。依頼が貼られているであろう、掲示板には今は一人しか居ない。

 ここから見た感じだと、依頼の数もそこまで無さそうだね。とはいえ、別に依頼をやるつもりはないけど。


 屋内を様子をもう少し見てみると、また一つ欲しい情報を見つけた。

 ……何を隠そう、時間である。カウンターの中の壁に、見慣れた長針と短針を使った時計があったのである。これはラッキー! 後で作らなきゃな。


 話を戻そう。冒険者登録証なる物を持っているはずはなく、ここは迷わずに登録をすることにする。


「登録証の作成をお願いします」

「畏まりました。こちらの水晶に手を触れて下さい」


 出た、異世界で良くある謎水晶的なやつ! 生で見ることになるとは思わなかったが……。言われた通り、水晶に手を触れてみる。


 すると、ふわっと明るくも暗くもない、優しい光を放った後、水晶の上に謎ウィンドウが表示される。やけに近未来的だなあ。


――――――――――――


□名前:アリス□

□性別:女性□

□冒険者ランク:未登録□


□スキル関連□

■創造魔法■

■光魔法■

■闇魔法■

■無限魔力■

■魔力譲渡■

■空間魔法■

■時間魔法■

■結界魔法■

■異常完全無効■


――――――――――――


「お、おお……」

「名前はアリスさんで女性。水晶には特に反応無しなので問題ないですね」

「それだけですか? 何かスキルっていうのが表示されてますが…」

「スキルについては本人以外見えないようになってるので特に問題ないですよ」

「なるほど」


 本人しか見えないってまた、謎技術だな。まあ、こういうのにいちいち突っ込むのも無粋なので、良いかな。この世界ではこう! って事で。


「こちらがアリスさんの冒険者登録証になります。紛失した場合は再発行の手続きをお願いしますね」

「ありがとうございます、えっと……」


 いつの間にか発行されていた登録証を受け取り、確認をする。さっきの水晶の表示とほぼ同じだったけど、冒険者ランクの部分が未登録からFという文字に変わっていた。


「あ、申し遅れました。私はここで受付をしていますサラ、と言います。以後お見知り置き下さい」

「知ってると思いますが、わたしはアリスです。サラさんよろしくお願いします」

「こちらこそ。では冒険者組合についての説明はお聞きになりますか?」

「お願いします」


 想像で冒険者っていうのがあるとは思ってたけど、あくまでそれはわたしの想像でしかないので、ここはちゃんと話を聞いておく事にする。


「畏まりました。僭越ながら、サラがご説明いたしますね」


 サラさんの説明を簡単にまとめると、冒険者組合は冒険者を支える組織であり、登録するのに制約というものは特に無い。要するに誰でも普通に登録できる。

 冒険者にはランクが設定されており、これが高い程組合からの信頼が高く、報酬の良い依頼が多くなり、稼ぎやすくなる。

 ランクは下からF→E→D→C→B→A→Sの順で7段階存在する。組合からの信頼が高くなると昇格し、ランクが上がっていくという仕組みだ。


 信頼を上げるにはどうするのか。

 依頼を受けて達成する。これが一番単純かつシンプルで基本だ。失敗すると信頼は下がるので、受ける時は依頼内容をしっかりと把握する必要がある。

 他には強力な魔物を倒したり、色んな素材を売ったりとかでも依頼ほどではないものの、信頼を上げる事が出来る。

 ランクは例外なく、最初は誰もがFからスタートする。後は頑張って信頼を上げつつ、ランクアップを目指すという感じ。

 うん、大体予想通りの仕組みだった。


 依頼にもランクがあり、こちらも冒険者ランクと同じでFからSまでの7段階存在し、受けられるのは自分のランクと同じ物のみ。


 冒険者っていうのはこんな感じだ。

 この他には特に何もなく、問題を起こさなければ依頼を受けようが受けまいが登録証が失効する事はない。

 ただ留意しておくべき物が受けないでいれば当然ランクは上がらないし、信頼も上がらない。あまりにも何もしなさ過ぎだと、当然依頼も受けにくくなるという事だ。

 こんな人に任せて大丈夫なのか? という疑惑が出るのは当然で、組合側も慎重になる必要がある。

 まあ、適度にやるのが一番ということだ。依頼受けなくても素材とかを売ったりすれば最低限は大丈夫だと思う。


「以上になりますが、質問等は何かありますか?」

「大丈夫です、大体は理解しました」

「それは良かったです。それで換金でしたよね?」

「あ、はい」


 冒険者の話でうっかり忘れるところだった。

 まずこの世界のお金が必要なので換金しなきゃどうしようもない。物を買ったりするのにも当然お金は必要なのだから。


「換金物を見せて頂いても良いでしょうか」

「これになります」


 ストレージから森の中で遭遇した魔物の毛皮や魔石を取り出す。

 お肉類はわたしも使うので今回は売ることはしない。解体したのだから当然、肉以外の素材もある訳で。

 いっぱい出すのもあれなので、取り敢えずはあの時に遭遇した赤い毛皮を持っていた狼の魔石と毛皮をそれぞれ5つずつにスライムの魔石が5つ程。


 あの森の中で今までで遭遇した事があるのって赤い毛皮の狼と、スライムくらいしか居ないのだ。他にも多分居るんだろうけど……一週間の間ではこの2種類しか見なかった。

 スライムは解体できないけど、倒すとゼリー? が消えて魔石だけ残るんだよね。どういうあれなのかは分からないけど。


「えっとスライムの魔石が5つに……レッドウルフの毛皮と魔石!? す、凄いですね!」

「レッドウルフって凄いの?」

「この辺では恐らく一番厄介な魔物ですね。すばしっこいって言うもありますが、基本的に集団で行動しますし、夜目も効きます。知能も若干高めで、油断すると高ランクの冒険者すらやられてしまいますね」

「なるほど……」

「魔石が5つもあるということは5体倒したって事ですよね。その数はレッドウルフの基本的な群れの数になります。多いと10体になったりしますね」


 あの赤毛の狼は結構強いやつだったか。

 でも実際戦った感じでは然程強いとは思えなかったけど……いや、油断すれば分からないか。改めて気を付けておこう。そして名前がレッドウルフ……そのまんまやん。


 何も言いませんが。


「おまたせしました。換金額の方ですが……スライムの魔石が1つ100エルなので5つで500エル。レッドウルフの毛皮の方が状態も良く、通常なら1つ800エルですが、今回は1つ1000エルで買い取らせていて頂きます。5つあるので、5000エルですね。それからレッドウルフの魔石が1つ500エルなのでこちらは5つで2500エル、合計8000エルになります」

「ありがとうございます」


 なるほど、この世界の通貨はエルなのか。

 こちらに差し出されたお金を見る。お札というのはなく、硬貨のみのようだ。お礼を述べてから受け取り、ストレージの中に入れる。


「では、これからも当冒険者組合をよろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げるサラさん。こちらも簡単に会釈をし、わたしは冒険者組合の建物を後にするのだった。



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