ごちそうさまでした!!

デザート(エピローグ)はお料理探偵エミリカにお任せ!!



 翌日、宝ノ殿中学校。放課後の調理室にて、エミリカとグッドマンが何やら話し合っていた。


「それで、何でも屋のお弁当廃棄事件はその後、どうなっているのかしら?」

「ああ、宇野と母君でしっかりと話し合って解決したとのことだ。エミリカ君が宇野に料理を教えたことが、良いきっかけになったと言っていたよ」


「それは良かったわ。宇野一弘って物覚え良いし、短時間でよくやったものよ」

「ああ。それに、実に良い指導者だったよ、エミリカ君。あと、今回の件も見事なものだった。エミリカ君によって無事、解決に至った。まるで探偵のようだったよ」


「あら、ありがとう。今後は『お料理探偵エミリカ』とでも名乗ろうかしら?」

「ふふ、それは良いかもしれないね」


「それで、宇野一弘のクラスはどうなの?騒動は終息したのかしら?」

「ああ、本人が2年4組にも正直に話したらしい。ま、宇野の今までの徳もあり、そこまでイジられるという事はなかったようだ」


「それは重畳ね。しっかし、面倒な男子なのね。宇野一弘って」

「まあ、この年頃の男子はなにかしら面倒を抱えているものだ。幻滅したかい?」


「う~ん、でも、ウチはその面倒な宇野一弘に救われたって面もあるのよね・・・ねえ、グッドマン、どうして宇野一弘は何でも屋としての報酬に、食券を要求するようになったのかしら?経済的に助けが必要なら、金銭を要求したほうが効率良いと思うのだけれど?」

「そうだね。でも彼は初め、報酬を求めてはいなかったんだよ」


「え、でも、それならお昼はどうしたの?」

「給水器で腹を膨らませていたね。それを見かねて、私が彼に報酬を求めたらどうかと勧めてみたんだよ。だが、彼はそれでも渋ってね」


「なんか、ちょっと辛い話を耳にしたけど、取りあえず置いておくわ。続けて」

「うん、彼は最初、無報酬だった。けど、それだと依頼主の気が晴れないというか、座りが悪くてね。ほら、『タダより高いモノは無い』って言うだろう?要は気兼ねさせてしまうんだ。それを伝えたら、ヒロ君は渋々だけど食券を報酬に貰う事にしたんだ。ほら、食券なら食堂で使って、食べるだろ?その姿を今まで依頼してきた人たちに見せれば、ちゃんと報酬をいただいてますよ、というアピールになる。言わば何でも屋としての気遣いなんだよ」


「そうだったのね・・・」

「どうだい?これが宇野一弘という人物なんだよ。実に面倒くさいだろ?」


「そうね。でも、そこを好きになっちゃったのかもしれないわ。人のために行動できるって、とても素敵なことだと思うもの」

「時に、迷走するけどね。ヒロ君は・・・けど同感だ。彼の行動理由はそもそも人の為、誰かの為なのだよ。ヒーローへの憧れが強くてね。時に横道に逸れてしまうけど、それでも道を示してあげれば真っすぐに歩き続ける。子供の頃からずっとそんな彼を見ていたよ。惹かれていたと言ってもいい」


「あら、ちょっと妬けちゃうわね。宇野一弘のことを何でも知ってるみたいで」

「こちらこそ、彼の迷いの手を引いてあげられるエミリカ君の手腕には羨ましく思うよ」


「ウチら、ライバルかしら?」

「ふふっ、負けないぞ?」


 二人は見合って、ほくそ笑む。


「いや、人が隣で料理の練習をしてるのに、気持ち悪い話をするなよッ!」


 そこに宇野一弘が話に割り込む。彼は二人が話し合っている横で、フライパン片手に料理をしていた。作っているのは野菜炒めである。


「第一なんだ!?その人の傷跡を抉るような話題は!普通、それ本人の前で話す内容じゃないだろ?料理に集中できんわ!」

「ほれほれ、よそ見しなや、何でも屋。しっかり菜箸で野菜の偏りを正さな、均等に火が通らんで?火を使ってる今は反抗期を引っ込めんかい」


「だから抉るなと言うに!まったく・・・」


 ナスビに注意され、宇野は頬を赤らめつつも調理に専念する。

 それをつまらなそうにユキユキが野菜を切りながら眺める。


「まったく、なんだって変態が料理部の部活に参加しているんですかぁ?」


 その問いに答えたのはユキユキの隣で野菜の皮むきをしているピノであった。


「それはだって、『宇野さんが料理部に入部する代わりに、コストパフォーマンスの良い料理をエミリカ部長が教える』という契約だから」

「だからってぇ~、入部したからって律儀に部活に来なくてもいいのにぃ~。名前だけ置いとくだけでいいのにぃ・・・中二病のド変態がッ!」


「だから恐いって・・・でもそのおかげで部費も上がったし、良い事じゃないか。ボクは嬉しいな、男の人が入ってきてくれて」

「えっ、ピノもあの変態狙いなわけ?」


「ど、どうしてそういう話になるんだよッ!良い所もあるなと思うけど・・・」

「・・・・・・野菜、所望」


「あ、ゴメン、月ちゃん。ほら、ユキユキ、切った野菜を渡して」

「はいはい、ですぅ~。っと、どうぞ」


 月は切った野菜を受け取り、宇野の所へ静かに運ぶ。


「・・・・・・野菜、追加」

「あ、ああ、ありがとう。しかし、この部は賑やかだな。いつもこんなに騒がしいのか?」


「・・・・・・いつもは・・・もう少し・・・静か」

「せやな、もうちっと料理に集中しとるな。今日は何でも屋が来て、みんな浮足立っとるんやろ?自分も何でも屋が料理部に入ってくれて嬉しいで」


「ふ、ふんっ・・・部費が上がるからだろ?」

「それもあるけどな~、やっぱ何でも屋って実績もあるし、頭もええし、色々と頼りになりそうやし?期待しとるで!」


「ナスビ・・・ま、まあ、できる範囲でな・・・」

「ちょっと!なに二人で楽しそうにお話ししてるのかしら!?ウチだって混ざりたい・・・じゃなくて、フライパン、煙出ているわよ?」


「うおっ!?本当だ、皿、皿を頼む!月!」

「落ち着きなさい。火からフライパンを離せばいいだけよ。まったく、まだまだ甘いわね。砂糖で握ったオニギリ並みに甘いわよっ!」


「それ、塩と砂糖を間違えただけのオニギリだろッ!?」

「おお、さすが何でも屋やん。この状況でもキレのあるツッコミ、ナイスやで!さすが見込んだだけのことあるわ。惚れてまうやろ~」


「それはどうも」

「う、ウチはもう惚れているわよ?」


「はいはい、それより次はどうすればいいんだ?」

「流されたッ!?むぅ・・・『男の心を掴むには胃袋から作戦』はまだまだ継続中ね・・・」


「は?なに?何作戦だって?」


「ほんっまに、こいつは・・・にぶちんやねぇ」

「お姉さまが勇気出したってのに、このド変態ッ!」

「ちょっと、今のはボクもどうかと思います」

「・・・・・・肝心な部分聞き逃す系男子」


「いや?なに?なんでみんな、そんなにガッカリみたいな顔しているんだ?何かしたか?なあ、グッドマン?」

「ははは、この変態中二病鈍感系フンバルンバ宇野君。料理部で少しは人間関係の勉強をするんだな。じゃあね、私は生徒会の仕事があるんで」


「へ、変なあだ名を付けて去って行くなよ!」


「もう、そんなことより、お料理よ!これからどんどん指導してあげるんだから覚悟しなさいね!どんなお料理の悩みだって解決してあげるんだから、このお料理探偵エミリカに、お任せなさい!」


「あ、ああ。そうだな、よろしく頼む!」




 こうして、宇野一弘は料理部の一員として活動していく。彼はこの先、料理部として、何でも屋として数々の壁にぶつかり、数々の謎に挑むこととなる。   

 しかし彼の隣には優秀(?)な『お料理探偵』と料理部の仲間がいる。そんなメンバーと共に活躍をしていくのだが・・・またそれはいずれ。




                          おそまつさまでした


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