第36話 ルンルン

 ここて、シャーロット様から驚きのニュースが告げられる。


「そして、チャップルンさんは、私たちと同じ虹色のオーラなのよね」


「あらやだー。勝手にレディのオーラを覗くなんて、シャーロットちゃんたらエッチなんだからー」


 意外だ。とても意外だ。いや、そもそもあなたはレディではないと思うんだ。


「私と同じオーラの人は、ルークと会うまでチャップルンさんしかいなかったの。まさかとは思ったのですけどね」


「そうね、私は上級召喚師よ。といっても中級からなんとか上がれたギリギリの上級なの。しかも、私の召喚獣は戦闘向きではないしね」


「差し支えなければ、その能力を教えてもらえないでしょうか。ひょっとして、治癒に特化したようなものではございませんか?」


「残念ながら、それも違うわ。私の召喚獣はブラウニー。魔法具の性能を強化したり、エンチャント、つまり武器や道具に属性を付与することができるの」


 一応、秘密にしといてくれる? といいながら僕にウインクしてくるのはもう勘弁してもらいたい。


 チャップルン魔法具店が紹介制になっている理由の一つがこのことらしい。ところで、僕は聞いてしまってよかったのだろうか。


「あ、あの、チャップルンさん。そんな大事な話を、僕なんかが聞いてしまってよかったのでしょうか?」


「ルンルンよ」


「えっ?」


「私のことはルンルンと呼んでもらえるかしら?」


「でも、チャップルンって……」


「ルンルン!」


「は、はぁ……わかりました」


 そこはかとなく、チャップルンさんに好かれてしまっているような気がしなくもない。そろそろ本気で誰か助けてほしい。


「私とブラウニーが作る魔法具は特別なの。他のエンチャント商品とは比べものにならないわ」


 そういえば最近、最強の魔法具シリーズが復活したと聞いたことがある。


「ひょっとして、ナンバーズシリーズですか?」


「ご名答。私はナンバーズシリーズの武器と防具の管理を任されているわ」


 ナンバーズシリーズとは、ここ数年で世に出てきた最強の魔法具シリーズと言われている。使用者は王家に連なる者か王家からその使用を許された者のみ。そして現在最強と名高い、国の召喚師ゴドルフィン様がナンバーズシリーズの武器を使用されている。


 確か全部で五アイテムと数も少なく、その管理とメンテナンスには最高の付与術師がいなければ維持できないという。


「……最高の付与術師」


「違うわ、ルンルンよ」


 まさか目の前にいるオネエが、その付与術師とは誰も想像出来まい。シャーロット様も驚いている。


「ナンバーズシリーズはチャップルンさんが作ったのですね」


「違うわ。私がしたのは元々の機能を復元させたことと、日々のメンテナンスまでよ。さすがに、そんなゴイスーな魔法具を私一人で何とかできるわけないわ」


「そうなのね。チャップルンさん、一つ教えて。ナンバーズシリーズには治癒に関係する武具はあるのかしら?」


「うーん、ごめんなさいね、シャーロットちゃん。ナンバーズシリーズについては全てが秘匿事項になっているの。公開されているのはゴドルフィン様の使用されているフラガラッハ、風属性が付与されている剣だけよ」


「そ、そうですよね」


「でも、そうね。ソフィアちゃんのことを考えているのなら、残念ながらと言う他ないわ」


 チャップルンさん改めルンルンもシャルの妹ソフィアさんのことをご存知だったようだ。然り気無く教えてくれるあたり、なかなか出来たオネエだ。


「そ、そうでしたか。ありがとうございます……」




「そんなことより、サバチャイに魔力教えてよ! サバチャイ、さっぱりわからないよー」


 あー、そうだった。収納バッグを前にしてサバチャイさんが拗ねている。といっても、魔力を注ぐのってどうやって教えたら理解してもらえるのだろうか。


「サバチャイさん、まずはその魔方陣に指を添えてみてください」


 どうやらシャルがサバチャイさんにレクチャーしてくれるらしい。どうか失礼な態度をとりませんようにと祈ることしか出来ない。


「おっ、白い姉ちゃんが教えてくれるね?」


「魔方陣には、魔力を吸収しようとする動きが組み込まれております」


「つまり、最悪は五時間ぐらいそのままにしていれば登録は完了するはずよ」


「オネエの姉ちゃん、サバチャイにとっても厳しいね。ルークには、どちゃくそ親切なのにおかしいよ」


 やはり、僕だけが感じている訳ではないようだ。今もルンルンから意味不明の熱視線はずっと感じている。


「私にも選ぶ権利はあるわ。あらっ、そこのポリスマンも割りとタイプかも」


「俺よりルークの方が狙いやすいと思うぜ」


「ちょっと、ポリスマン!」


 すぐに僕を売ろうとするポリスマン。そこには一切の迷いがなかった。おかしいな、僕の孫召喚獣のはずなのに……。やはり、直接の関係が無い限りあまり意味がないのだろうか。


 いや、別にサバチャイさんが僕の言うことを聞く訳でもないからなんとも言えないんだけどね。


「そんなことより、魔力よ! いつになったらサバチャイに魔力教えてくれるね」


「そうでしたね。えっと、サバチャイさん、魔力が吸い上げられている感覚はわかりますか?」


「そうねー、なんとなくわかるような、まったくわからないような」


 全然ダメそうな顔をしている。これは時間が掛かりそうだ。


「それでは、右手に集中してください」


「こ、こうね?」


「違いますね。うーん、体全体から右腕へ、そして右の手のひらに、といった順番でやってみましょうか」


「つまり、ヨガの準備体操みたいなものね? 丹田から練り込むようにして、気を飛ばすねー」


 両手を後ろに構え、変なポーズを決めながら突きだして魔力を流しはじめたサバチャイさん。


「ええ、その調子です」


 いきなりコツを掴んできたのか、サバチャイさんの魔力が手のひらに集中してきているらしい。これは魔力をオーラで見えるシャーロット様にしか見えないのだけど、順調ならそれで構わない。

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