第7話 模擬戦1

「おいっ、そんなのが上級召喚獣のわけないだろう! 今すぐ俺の召喚獣と対戦しろ」


 テオ様が、すこぶるご機嫌斜めだ。ファイアベアーと戦って、無事な人間なんているはずがないでしょ。謝って許してもらえるようには思えないし、ちょっと困った……。


「サバチャイ知ってる。弱い奴ほどよく吠えるね」


「なっ!? いくら学園の中といえど、その発言は不敬だぞ。謝れ!」


「えっ? あいつ何怒ってる? サバチャイお前に言ってないね。何一人で勝手に勘違いしちゃってるね? ププッ」


「ふ、ふざけるなー! 他に誰がいるというのだ。おいっ、このあとのスケジュールは代表者による模擬戦だよな」


「確かに、そうですが」


「それなら、俺とルークを戦わせてください」


 模擬戦は有力な召喚獣を呼び出した者同士で行われる。さすがに全員が模擬戦をはじめたら一日では終わらない。


 つまり、今回の場合でいうとシャーロット様とテオ様が戦うのが筋だろう。サバチャイさんが上級召喚獣と言われても、実際に戦えるのかよくわからないのだから。


「そう言われてもですね、代表者というのならシャーロット様でしょう。そもそもルークの召喚獣は、まだどれほどの力を秘めているのか想像できません。そう簡単に許可は出しづらい」


 魔法陣担当者の話を聞きながら、身の安全を確実のものとしたサバチャイさんは、担当者の後ろでテオ様に見えるように鼻くそをほじほじしている。


「くっ、なんなのだ、あの貴族に対して礼を欠くスタイルは。ルーク、まさかお前の指示なのか?」


「ち、違います。申し訳ごさいません。ほ、ほらっ、サバチャイさんも謝ろうよ」


「ルーク、男が謝る時は死を覚悟した時か、お店の皿を割った時だけね。悪くないのに謝るのは、クレーマーを助長させるだけよ」


「おいっ、召喚獣。貴様、俺がクレーマーだというのか?」


「えっ? お前誰ね? サバチャイ知らない人と会話するほど頭おかしくないよ」


「ぶっ殺す! もう許さんぞ。シャルからもお願いしてくれ、俺とルークを対戦させろ!」


「そうですね……。私もルークの召喚獣の力が気になります。サバチャイさんの力がどれくらいのものなのか試してみませんか?」


「シャーロット、どういうことだ?」


「私とルーク対テオの変則マッチを行いましょう。私は守りしか行いませんので、サバチャイさんには攻撃に専念してもらい力を見てみましょう」


「しかしながら、シャーロット様も精霊を操るのははじめてでしょう。大丈夫ですか?」


「はい、問題ございませんわ。先ほどからしっかりコミュニケーションもとれていますわ」


「そうですか……。しかしながら危ないと思った時は、すぐに止めに入りますよ」


「ということは、よろしいのですか?」


「しょうがありません。他の者も楽しみにしてるようですからね」


 魔法陣担当者のその発言で、場が一気に盛り上がってしまった。ここからのやっぱり出来ませんはとても言いづらい。


「どうしよう、サバチャイさん大丈夫なの?」


「ルーク、あわてすぎよ。ここは夢の中ね。サバチャイに任せればいいね」


 夢の中って、サバチャイさん盛大な勘違いをしてる気がする。これは間違いなくダメなやつだろう。


「そこの白髪の姉ちゃんが言ったね。サバチャイを守ると。つまり、サバチャイの攻撃が当たれば勝てる、とても簡単な理論ね」


「サバチャイさん、お願いだからシャーロット様にまで不敬な発言は勘弁してよ」


「ルーク?」


「あっ、申し訳ごさいません。シャーロット様」


「違うわ、シャルよ」


「へっ?」


「私の呼び名」


「あっ、そうでしたね。って、怒ってないのですか?」


「そんなこと気にしてないわ。それよりも、サバチャイさんがどのような攻撃をするかの方が気になるわ」


「白い姉ちゃん安心するね。サバチャイの神の左が火を吹くね」


 左腕をぐるぐると回しながらウォーミングアップに余念がない。左手にある野菜も一緒にブン回されていて、余計に異臭を放っている。そして、どうやら右手に持っている包丁は飾りらしい。




 実はここで、一つの奇跡が起きていた。


 最早、飾りとなっていた包丁であるが、魔方陣を通して一緒に召喚されたことで、その強度、切れ味は抜群に進化していた。中級召喚獣程度ならあっさり切り裂くほどに。


 そして、同様に召喚されてしまったパクチー。こちらも、通常のものとは比べ物にならないほどの強度、そして強烈な臭いを発するものへと進化していたのだった。


「よし、準備は整ったな。では三名はドームの中へ入ってください」


 練習用の闘技場を半円に囲うように魔力の透明の壁が出来上がっている。これは中に入った者が怪我をした場合などにダメージをリカバリーするものであるらしい。


 学園の先生方が数名で魔力を注ぎ込んでくれたおかげだ。これで僕が怪我をしても無事に助かることができる。とはいえ、痛いのは痛いのでシャーロット様には防御頑張ってもらいたい。


「召喚獣への攻撃は何でもあり。生徒への直接攻撃も致死性のものはNGだ。危険な攻撃の可能性がある場合はすぐに止めます。それでは、はじめ!」


「ファイアベアー召喚!」

「ウンディーネ召喚」


「……ちょっとルーク、対戦相手が熊なんて聞いてないね。人と熊、戦っちゃダメ絶対」


 対戦開始とともにテンション駄々下がりのサバチャイさん。神の左は火を吹くのだろうか。やはり、少しだけ心配になってきたよ。

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