第5話 それでも隠さなければならない

 由美の言葉に目を丸くした真亜子を、由美は見逃さない。


「あ、やっぱりそうなの? 仲良いからさ、そう思ってただけなんだけど。誰にも言わないから安心して」

「あ、いや……私達はそういうんじゃ……」

「違うの? だったら莉夢っち応援しちゃうよ?」


 ──由美さんは悪い人ではない。私が隠してるからそうなるのは当たり前なんだ。


 真亜子はこんな状況でも、やはり異動と転勤が怖かった。


「私達はそういうんじゃないので……!」


 真亜子は否定した。

 きっと透悟も隠してきたことだし、もし透悟が同じ状況に立たされても否定すると信じていた。


「あ、来週の飲み会の会費、一人3千円出してくださいねー!」


 遠くで幹事が会費を集めている。

 来週、飲み会があることを真亜子はすっかり忘れていた。


「あ! 忘れてた。私払ってきます!」

 真亜子は由美に告げてその場を離れた。


「すみません、忘れてました。これ」

「はーいたしかに」

「今回の飲み会、欠席する人いるんですか?」

「いないよ。うちの部署は飲み会出席率150%だから!」

「増えてます?」


 そんな冗談も耳に入らないほど、真亜子は動揺していた。

 あの時、透悟は真亜子に向かって『付き合ってもらえないかな』と言った。

 それに対して真亜子は『はい』と答え、2人は恋人という関係になったはずだ。

 でも異動や転勤になりたくないからといって、2人とも会社の人間には知られないように、常に細心の注意を払って隠し通してきたはずだ。


 それなのに今、透悟と莉夢が付き合っているという噂が立っている。

 噂は本当なのだろうか……。


 真亜子は今すぐに問い詰めたい気持ちだったが、会社でそんなことをすると付き合っていることが知られてしまう。

 ここはぐっと堪えて、飲み会の日まで待つことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る