第9話 スライとスライム。

 オレたちは、荒野でキャンプをしていた。

 ミルクを溶かし、ジャガイーモ(イモの仲間)に牛肉などを加えて、特製のスパイスを入れる。

 香ばしい。

 食べる前から腹が減る。


(シチュー!)

(うれしい!)

(だいすき!)


 スライムのみんなが、鍋の周りでぴょんぴょん跳ねる。


(じぃ………。)


 ルールーもオレの腕にくっついて、頬を染めて鍋を見ている。

 完成した。

 オレはランプを軽くこすって、サイとスキールを呼び出した。


「私も、よろしいのですか?」

「美味しいものは、みんなで食べたほうが美味しい」

「流石はあるじ様なのですじゃ。強さのみならずその人格も、英雄王の器そのもの」


 みんなによそってあげる。

 まずはジャガイーモを食べる。

 スパイスの染みたジャガイーモが、ほろりと崩れてうま味を運ぶ。


「おいしい………です。」

「こんなご馳走、うまれて初めてかもしれません……!」

「スパイスが、大胆ながら繊細な味わいを出しておるのぅ」


(とろとろ!)

(まろやかの王!)


 みんなからも好評だ。

 食べ終わった。


(シチューのカリカリ!)

(ここもまた美味!)


 スライムのみんなは鍋に張りつき、鍋にこびりついたシチューの固いところを食べてる。

 ルールーが、スライムたちをじいっと見つめる。

 そして尋ねた。


「スライムって、どういう生き物………です?」

「興味があるのか?」

「あなたのことは、なんでも………しりたい。」


 ルールーは続ける。


「すきな食べもの、すきな人、すきな友だち。

 みたい景色、いきたい国、そだてている生き物。

 ぜんぶ、みんな………しりたい。」

 

 少しむずがゆくなるような、ストレートな言葉。

 オレがほんのり照れてると、ルールーは言った。


「そういうりゆうだと……ダメ?」


 オレは言った。


「好きのきっかけはなんだっていい」


 理由はどうあれ、新しいことに興味を持つのはすばらしいことだ(29歳・無職)


「しかしスライムの世界は、奥が深い。

 例えばここにいるオレは、かなりの才能を持っている」

「スライは、せかいで一番、つよいと思う………です。」

「強さなんて尺度で測るのがバカらしいほどの可能性を、スライムは持っている」


 オレは魔法で、地面にピラミッド図を書いた。


 スライム(神として最高) ゴキブリ(とても悪魔。勝てない)

        宇宙の神、オレ(同格)

          この星の神

         人類(オレ以外)


「これが世界の、端的な縮図だ」


 ルールーは、図を見て言った。


(おかしい………。)


 スキールとサイが言った。


「そうじゃのう。

 我らのご主人様が宇宙の神に等しいのは当然と言えるが、人類の上には魔族がおる」

「私としても、魔神王・ミスティリア様をスライ様の横においてほしいです。

 全盛期であれば、スライ様にも引けは取らなかったはずです」


「スラさんの上に、ゴキがいるのは、よいの………です?」


 オレは言う。


「スライムは、色々な不思議と様々な魅力に溢れている生き物だ。

 オレより上なのは当然だ」


「ゴキは………?」

「知れば知るほど邪悪でしかない」


 スキールとサイもうなずいた。


「そこにいるだけでアレほどの恐怖を与えてくる存在を、わらわは他に知らんじゃよ」

「私はルールー様を守るためなら、8000万の軍勢を相手にも戦う覚悟がございます。

 しかし8000万のアレと戦えと言われたら…………」


 8000万のG。

 不吉すぎる発言に、オレは震えた。

 想像だけで気絶しそうだ。


(アレはこわい!)

(たおすべき災厄!)

(じゃあくの王!)


 スライムのみんなも、そう言っている。

 ルールーも納得したようだ。


「それは確かに、こわい………です。」


 とうなずいてくれる。


「なにはともあれ、スライムについて教えよう」


 オレは荒野に視線をやった。


「一見ただの荒野だが、実はスライムがいる」


(わかる!)

(いる!)

(わかる!)


 頭の上にレスラーたちも、ぴょいぴょい跳ねてそう言った。

 ルールーは、しばし荒野を見つめていた。

 小首をかしげる。


「どこに……です?」

「あそこだ」


 オレは岩を指差した。

 

「いわのうしろ?」

「岩そのものがスライムだ」


 指を立てて解説する。


「主に土や小石なんかを食べて、岩石成分のみを抽出。

 それを体表に浮かばせるんだ。

 体表の成分が本物だから、素人目にはわからない」


 岩スライムに近づいていく。

 残り三メートルほどにまで近づく。

 地面にぺたりと膝をつく。

 そのままごろりと、横になる。


「スライムにとっての人間は、人間にとっての巨人だ。

 最初はこうして目線を下げて、配慮してあげないといけない」


「ん。」


 ルールーも横になる。

 オレの背中に、ぺたりとくっつく。


(すりすり。)


 どさくさ紛れにすりすりしてきた。

 かわいい。


 オレはポケットから、スライムフードを取り出した。

 岩の前にひょいっと投げる。

 岩はしばし、じっとしてたが――。


(ひょい。)

(ぱく。)


 触手を伸ばし、フードを食べた。


 \おいしい!/

 

「オレが与えたごはんを食べたな?」


 岩スライムは言った。


(たべてない。)

(ぼくはいわ。)

(いわは、ごはん、たべない。)


「そうか」


 オレはスライムフードを投げた。

 岩スライムは動かない。

 動かない。

 動かない。

 オレはつっと余所見した。

 岩スライムは、触手をツッとエサに伸ばした。


 目線を戻す。

 現場を確認。

 っっっっっっ。

 岩スライムは汗をかく。触手を伸ばしたままで固まる。

 それでもガマンできなかったのだろう。

 

(ぱくり。)


 食べてから言った。


(たべてない。)


「そうか」


 オレはあたりを見回した。


「親や兄弟はどうした?」

(ばらばらにげ、した。)

「バラバラ………逃げ?」


 小首をかしげるルールーに教えた。


「スライムは基本、五体から六体で過ごす。

 でも住んでいる地域のモンスターが凶悪化したり増殖すると、バラバラと逃げて新しい土地を探すんだ」


「スライムに詳しいスライ………すてき。」


 ルールーは、オレの背中に顔をうずめる。


「……そうか」


 オレはルールーを放置して、スライムに聞く。


「しかしこの土地でバラバラ逃げが発生するのは珍しいな。何かあったか?」

(きたのもり、ぴりぴり。)

「北の森か……」


 オレの上のレスラーたちも、ぷるぷると震えた。


(たしかに。)

(ちょぴり。)

(する。)


「色々とありがとう」


 オレは横になったまま、ごはんを岩スライムにあげた。


(おいしい!)


 岩スライムは喜んだ。

 オレは横になったままずりずりと離れ、立ちあがる。


「世界最高峰に充実した時間だったな!」

「うん。」


 スライは軽く土を払う。


「しかし北の森がピリピリというのは、不安だな」


 ローティたちが巻き込まれているか、中心人物である可能性がある。


「猫耳たちに預けておいた、グースラに話を聞いてみるか」


  ◆


 街の中。

 ねこみみハウス。

 オレが入ると、猫耳の子たちが反応を見せた。

 しかし誰よりも早く、グリーンスライム。略してグースラが飛びついてきた。


(ごしゅじんー!)


 オレはグースラを抱きとめて、上級薬草を与える。

 薬草を食べたグースラは言った。


 \おいしい!/


「そうか」


 グースラを、よしよしと撫でる。


「留守の間にあったことを教えてくれ」


(まものたおした)


「魔物を倒したか」


(それだけ!)


「それだけか!」


(うん!)


「それだけならよかった」


 オレは筒を取り出した。グースラは、もそもそと入っていく。


(ぐぅー……)


 眠り始めた。

 グースラは、グリーンのスライムでグースラだ。

 それと同時に、グーグー寝るスライム、という意味もある。


「何もなかったらしいし、次の遺跡にでも向かおうか」

「うん。」


 ルールーは、小さくうなずきオレの腕にくっついた。


「待つですにゃあぁーーーーーーーーーーー!!!」


 猫耳が声を出す。


「軽く流してはいけないことが、けっこー色々あったですにゃあ!!」

「具体的には?」


 オレは細かく話を聞いた。


  ◆


「つまりローティが、失敗を頑なに認めなかったと……」

「そうなのですにゃ。正直なところ、この先が思いやられる人でしたにゃ」

「オレのせいだな」

「うにゃ?!」


「ローティは、オレが想像している以上にオレを尊敬していたに違いない。

 失敗の二文字が、オレの尊厳を傷つけると考えてしまったんだ」

「そんな心意気で、あのような言動をしていたのですにゃ……?!」

「にゃーたちは、まったく気づけなかったですにゃあぁ……!」


 オレは心の底からのため息をついた。


「自分が自分を評価している。世の中なんて、それでいいと思うんだがな(29歳・無職)」


 オレは静かに立ちあがる。


「どこへ行くですにゃ?」

「ギルドだよ。

 ローティたちが、失敗を報告できたか確認しないとな」


 失敗するのは別にいい。

 初代の王も先代の王じーちゃんも、そうやって生きてきた。

 だが逆に、失敗を隠そうとするのはいけない。

 だからそこは、しっかりチェックしないといけない。


――――――――――――――

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