番外 オルヴァとリディ編

①新人ハンター

「――ではこちらにお名前と記入事項を。文字は書けますか?」

「勿論」


 ルクシルア首都、トレジャーハンターズギルド。今日、新たにふたり、登録があった。


「そうか、字が書けない奴も居るんだな」

「寧ろ、書けない奴の方が多いかもね。そんなもんよ。トレジャーハンターって」


 オルヴァリオとリディは、今日から正式にギルドメンバーとなる。これはふたりで決めたことだった。すなわち、クリューを除いて。


「やっぱり最初は、下級からか」

「そんなのすぐに上級へ行けるわよ。多分」


 ふたりはクリューとシア、サスリカと別れてから、ここへやって来ていた。ここから、本当のトレジャーハントが始まるのだ。


「おう新入り。良さそうな武器持ってんな」

「ん。分かるか? 良いだろ」

「オンナ連れかよ。遊びに来たのか兄ちゃん」

「……いや、割りと本気で彼女の方が強いんだ」

「はあ? ……って、『リディ』じゃねえか!」

「!」


 ギルドの1階はレストランになっていることは以前訪れた時に知っていた。今は2階に居る。個室で、ギルドやチームについて説明を受けていた所なのだ。こんなサービスまでやってくれるとは、流石都会のギルドだとリディは感嘆していた。


「え、あたしって有名なの?」

「本人も知らなかったのか……」

「いやいやいや! 女だと思って言い寄って行った男は数しれず! だが一度も股を開かず、あげくしつこい男には鉛玉をぶっ放す! 『コレクターのリディ』じゃねえかよ!」

「…………えぇ……」


 新人が入ってきたと声を掛けたハンターは、リディを見て驚愕していた。その失礼な紹介を大声でされて、リディは銃に手が伸びた。


「待てリディ。放っとけよ。ほら依頼書見に行こう」

「…………ふん」


 そこで、オルヴァリオが止めた。リディはハンターの男を睨み付けてから、彼に従った。


「…………男を、見付けたのか。リディが」

「マジかよ。俺ちょっと狙ってたのに……」

「バカ。撃たれるぞ」


 そんな声が聴こえたが、彼らは無視した。


「……ま、まあ、モテるんだよな。リディは」

「あたし『オッサン』嫌いなの。だからあんたも太ったら離婚するからね」

「俺はたとえ引退しても毎日鍛えるつもりだけどな。ていうかオッサンて。サーガは?」

「サーガは大丈夫よ。あれは『おじさま』でしょ」

「……分からねえ」

「良いのよもう。あんたにしか股開かないんだから」

「…………それこんなところで言うのやめてくれよ」

「……分かってるわよ」


 1階で、食事を摂る。しばらくは、このギルドを拠点にするつもりだ。


「下級って、未開地の依頼は無いのね。ただのおつかいレベルじゃない」

「そうだな」

「……なんで嬉しそうなのよ」

「いや、なんていうかこの、『最初から』感がな。やっと始まったというか。楽しくて仕方ない」

「…………ふぅん」


 受けた依頼は、山菜摘みであった。ここから少し距離がある山へ向かい、採取してくるのだ。余り危険は無いが、一応猛獣も出る。下級ハンターの仕事としては立派な、メインとも言える依頼だった。

 1から階段を上がっていく感覚が、オルヴァリオの琴線に触れたのだろう。高揚しながら話す彼を見て、リディも口角が自然と上がる。


「(良い顔するわね。すっかり立ち直って良かった)」


 ギルドに登録しようと言い出したのも彼だ。目指すのは勿論特級。その称号を正式に勝ち取るのも、ギルドに登録すればこそだ。


「さあ行くぞ」

「ちょっ。まだ食べ終わってないわよあたしは」

「じゃあ乗り合い馬車の時刻確認してくるぜ」

「……はいはい。行ってらっしゃい」

「おう! 依頼の倍は採るぞ!」


 1から始めるのに、あたしが居て良いの?

 リディは彼に訊いたことがある。彼の返答は、こうだった。

 何言ってんだ。お前が居なきゃ始まらねえよリディ! 一緒に来てくれ!


「……子供みたいよね。トレジャーハンターって誰も彼も。ま、そこが良いんだけど」


 オルヴァリオ、22歳。

 リディ、20歳。

 今日から『トレジャーハンター』である。

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